2021年2月28日日曜日

日経1面「アルツハイマー症状予測、AIで精度8割超」に感じた怪しさ

 28日の日本経済新聞朝刊1面に載った「アルツハイマー症状予測、AIで精度8割超~富士フイルム」という記事には疑問が残った。全文を見た上で具体的に指摘したい。

筑後川

【日経の記事】

富士フイルムは軽度認知障害(MCI)からアルツハイマー病へと症状が進行する患者を最大85%の精度で予測する技術を開発した。MCI患者の脳の画像や遺伝子情報などを人工知能(AI)で解析し2年後の症状を予測する。2024年にも使い始める。病気の診断支援に使われるAIが症状の進行も予測することにより、病気の予防にもつながりそうだ。

認知症の前段階であるMCIのうち、一部はアルツハイマー病に進行する一方、症状が継続したり改善したりする患者も多い。同病の薬の開発失敗が相次ぐ背景には、病気に移行しない患者が臨床試験(治験)に参加し薬の有効性を証明しにくい状況が影響している。

富士フイルムは製薬会社の治験で、アルツハイマー病に進行し、薬を投与する必要性が高い患者を選ぶのにAIを活用する。将来は厚生労働省の承認を得て同病の診断支援にAIを使うことも見据えている。

同社はアルツハイマー病に関する共同研究のデータベースを使ってAIを開発した。MCIの症状を持っていた患者239人のデータを20年夏にAIで解析した。2年後にアルツハイマー病に移行するか、MCIのままかを予測し、実際の病状と照合したところ85%の確率で合致したという。

世界保健機関(WHO)は、15年に約5000万人いるアルツハイマー病を中心とした認知症患者が、高齢化に伴い50年に1億5200万人に増えると予想している。そのため薬の開発を急ぐ動きが出ている。


◎本当に効く薬なら…

同病の薬の開発失敗が相次ぐ背景には、病気に移行しない患者が臨床試験(治験)に参加し薬の有効性を証明しにくい状況が影響している」との説明が引っかかる。ここで言う「」とは「軽度認知障害(MCI)からアルツハイマー病へと症状が進行する」ことを防ぐものだとしよう。

」を投与しないと30%が「アルツハイマー病へと症状が進行する」。「投薬なしだとアルツハイマー病へと進行してしまう人」の半分を救う力が「」にはある。「治験」は治療群と対照群がそれぞれ100人。この条件で考えてみよう。

この場合、治療群で「アルツハイマー病」へ進行するのは15人で、対照群は30人となる。

AI」を使って「投薬なしでも進行しない人」を排除してみよう。単純化のため100%の予測精度だとする。今度は治療群で「アルツハイマー病」へ進行するのは50人で、対照群は100人となる。どちらにしても「」はリスクを半減している。

」に効果があるならば「病気に移行しない患者が臨床試験(治験)に参加」していても基本的には問題ないはずだ。なのに「AI」を「治験」に使うという。

治療群と対照群に患者を振り分ける時に「AI」を使って対照群にハイリスクの患者を集中させれば、何の効果もない「」だとしても治療群には素晴らしい結果が出るはずだ。しかし、これは明らかなインチキだ。

色々と考えてみたが、インチキに使うのでない場合、「AI」を使った「富士フイルム」の「技術」が「治験」において、どう役に立つのか理解できなかった。記者には分かったのだろうか。

ついでに言うと「病気の診断支援に使われるAIが症状の進行も予測することにより、病気の予防にもつながりそうだ」という説明も引っかかった。

これをどう「予防」につなげるのか。「アルツハイマー病」に進行するリスクが高い人にも低い人にも「MCI」であれば同じように対策を講じる場合、「予測」を「予防」につなげる効果は期待できない。

リスクが高い人にだけ適用される効果的な「予防」策があるのならば話は別だが…。

ニュース性が乏しく怪しそうな話をなぜ朝刊1面に持ってきたのか。紙面作りに関わった人たちは誰も疑問に思わなかったのだろうか。


※今回取り上げた記事「アルツハイマー症状予測、AIで精度8割超~富士フイルム」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210228&ng=DGKKZO69511580Y1A220C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

0 件のコメント:

コメントを投稿