2020年11月27日金曜日

MMT否定論が雑な神樹兵輔氏「経済のカラクリ~知らないと損をする53の“真実”」

 MMT否定論で説得力のあるものを見たことがないと繰り返し述べてきた。「経済のカラクリ~知らないと損をする53の“真実”」という本でも筆者の神樹兵輔氏が否定論を展開しているが、やはり苦しい。「10~なぜMMTは経済学者に否定されるのか?」という記事の一部を見ていこう。

大阪城公園のイチョウ

【本の引用】

しかし、国債を増発していけば、いつか金利が上がり(国債価格は下落)、通貨の信認を失い、輸入物価急騰でハイパーインフレのリスクが懸念されます。ゆえに名だたる経済学者たちがMMTは経済理論ではないと否定的です。

ケルトン教授は、インフレの兆しがあれば、財政支出を取り止めるだけでよく、インフレを過度に恐れるなと反論しています。

中略)世界銀行のリポート「許容できない債務」には、国債は海外民間投資家の保有比率が、20%を超えると価格が急落する懸念が高まるとしています。

海外投資家は、日本の悪い情報があれば逃げ足が速く、レバレッジ(てこの原理で投資金額を増やすために借金をすること)をかけて一斉に売り抜けます。国債価格が急落する(金利急騰)恐れがあるのです。日本国債はすべて円建てとはいえ、海外からの借金が怖いのはギリシャ危機でも明白です。近年の日本国債の海外保有比率は9%と過去最高です。

まだまだ余裕がありそうですが、残高が膨らみ続けると金利急騰のリスクもあり、MMTはただの徒花だった--となるかもしれません。


◎否定になってる?

この本でも触れているように「MMT」では「インフレにならない限り財政赤字は問題ない」と考える。だとすると「ハイパーインフレのリスクが懸念され」るから「名だたる経済学者たちがMMTは経済理論ではないと否定的」なのは謎だ。「インフレ」になる可能性は「MMT」も排除していない。これでは否定になっていない。

「インフレを警戒して財政赤字を抑えておかないければ必ずハイパーインフレになる。インフレ率5%とか10%の段階でインフレを抑えようとしても無理」と言えるのならば「MMT」の否定にはなる。しかし神樹氏もそうは主張していない。

MMT」について「『自前の通貨をもつ国は、自国通貨建てでいくら国債を発行しても、債務不履行にはないらない』という理論」とも神樹氏は書いている。仮に「ハイパーインフレ」が現実になったとしても「債務不履行」になる訳ではない。むしろ既存の債務に関しては負担が軽くなる。

「(国債の)残高が膨らみ続けると金利急騰」が起きるとしよう。しかし「自前の通貨をもつ国」は「自国通貨建て」で際限なく「国債を発行」できるので「ハイパーインフレ」にならない場合でも「債務不履行」は起きないはずだ。

海外からの借金が怖いのはギリシャ危機でも明白」と神樹氏は言うが「ギリシャ」は「自前の通貨をもつ国」ではない。「MMT」の否定論を展開するのならば「自前の通貨をもつ国」の事例を持ってくるべきだ。

さらに言うと日本の場合「残高が膨らみ続けると金利急騰のリスクもあり~」という見方が当てはまらない。日銀が長期金利も0%近辺にほぼ固定しているからだ。「海外投資家」が一斉に日本国債を売却したとしても、日銀ならばその全てを購入して長期金利の上昇を抑える力がある。

「それは無理」と神樹氏は考えているのだろうか。実際に日銀は狂ったように国債を買い続けてきた。この能力に限界があると考える理由はないはずだ。あるなら教えてほしい。

結局、神樹氏も「MMTはただの徒花だった--となるかもしれません」と断定を避けて逃げている感じがある。「MMT」の否定は難しい。今回もこの結論でいいだろう。


※今回取り上げた本「経済のカラクリ~知らないと損をする53の“真実”


※本の評価はD(問題あり)

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