2020年11月12日木曜日

日経社説「オンライン診療解禁の後退を危惧する」に感じた矛盾

12日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「オンライン診療解禁の後退を危惧する」という社説には矛盾を感じた。全文を見た上で具体的に指摘したい。

【日経の社説】

耳納連山から見た夕陽

菅義偉首相が恒久化を指示したオンライン診療の解禁について、政府内の議論があらぬ方を向き出した。初診患者は「かかりつけ医」にかぎる方針を田村憲久厚生労働相が示したためだ。

解禁とは、患者・医師の双方にとって有益なオンライン診療を条件をつけずに認めることである。規制改革を政権のど真ん中に置く首相の指導力が問われる局面だ。

厚労相によると、オンラインでの初診はかかりつけ医にかぎる方向で河野太郎規制改革相、平井卓也デジタル改革相と合意した。

対象とする病気の種類などは、医療関係者らをメンバーとする厚労省の検討会で議論する。診療報酬のあり方は、厚労相の諮問機関である中央社会保険医療協議会が審議することになろう。

問題は、かかりつけ医の範囲がはっきりしない点にある。日本医師会は「何でも相談でき、最新の医療情報を熟知し、必要なときに専門医を紹介でき、身近で頼りになる総合能力を持つ医師」などと定義している。

しかし、こんな理想の医師が自宅や勤め先の近くにいる人は、さほど多くないのではないか。その範囲を狭くとらえることになれば、患者が望んでもオンラインによる初診はほとんど使えない事態にならないかが心配だ。

医師会は「医師が対面で五感を研ぎ澄ませて患者を診るほうが得られる情報が多く、見落としのリスクが小さい」などを根拠に、オンライン診療を対面診療の補完手段と位置づけている。

対面診療の重要性は私たちも共有している。必ず対面でなければならない場面はある。かたやデジタル技術の長足の進歩が、対面を上回る効果を発揮するオンライン診療を可能にするとも考える。

コロナ禍の特例であるオンライン診療の解禁を維持し、時と場合によって医師・患者の双方が対面とオンラインを適切に使い分ける環境を整える。安全性と効果を見極め、向精神薬や高リスク薬などの処方を絶えずチェックする。必要なら制度をより良く改める。これらこそが厚労省の使命である

厚労相が医師会の立場を代弁するのは立場上やむを得ない面があろう。だが改革を推し進めるべき河野氏と平井氏が同調するとは、どうしたことか。いま一度、首相の意図を肝に銘ずべきである。


◎解禁反対となるのが筋では?

解禁とは、患者・医師の双方にとって有益なオンライン診療を条件をつけずに認めることである」と社説では書いている。そして「対面診療の重要性は私たちも共有している。必ず対面でなければならない場面はある」とも認めている。この2つの辻褄を合わせるためには「コロナ禍の特例であるオンライン診療の解禁」の維持には反対となるはずだ。

解禁」を維持すれば「対面でなければならない場面」でも「オンライン診療」が認められてしまう。しかし社説では「オンライン診療の解禁を維持」することを「厚労省の使命」として挙げている。これを書いた論説委員は矛盾を感じなかったのか。

「完全な解禁は求めていない。『患者・医師の双方にとって有益なオンライン診療』を認めろと言っているだけだ。『無益』な『オンライン診療』を認めろとは言っていない」との反論はやや無理があるが、できるかもしれない。

だとすると「有益」かどうかの線引きが必要になる。しかし社説ではそこを何も論じていない。なので「解禁とは、患者・医師の双方にとって有益なオンライン診療を条件をつけずに認めることである」というくだりに関しては「オンライン診療=患者・医師の双方にとって有益」と解釈するのが自然だ。

そもそも「オンラインによる初診」が「ほとんど使えない事態」になると、そんなに困るものなのか。1回ぐらいは「対面診療」を受けた方が良さそうな気はする。「向精神薬」をオンライン診療で手軽に処方してくれると評判の病院があって、そこが全国から大量の患者を集めるといった状況も完全解禁だと考えられる。それを許すことが好ましいとはとても思えないが…。


※今回取り上げた社説「オンライン診療解禁の後退を危惧する」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201112&ng=DGKKZO66094480R11C20A1EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

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