日経ビジネス電子版に11月13日付で載った「昭和おじさん社会は『性差別社会』と言った方がいいね!~河合薫氏・出口治明氏対談『昭和おじさん社会は変わったのか』(1)」という記事では特に立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口氏の発言の多くに問題を感じた。具体的に指摘してみる。
耳納連山に沈む夕陽 |
【日経ビジネスの記事】
出口:はい、性差別。昭和の社会は、製造業の工場モデルをベースにしているのです。製造業の工場というのは長時間労働が向いているのです。機械は疲れないので、24時間操業が一番効率がいい。加えて製造業の工場は重いものも運ぶので、男性のほうが向いているのです。男性と女性の差は筋力だけですから。
◎「男性と女性の差は筋力だけ」?
「男性と女性の差は筋力だけ」だとすれば、女性労働者にだけ生理休暇の取得を認めるのは不合理だ。「筋力」以外に「男性と女性の差」はないのだから生理休暇の必要性にも男女差はないことになる。
出口氏は過去の日経の記事で「どんな組織であれキーワードは女性です。すでに経済社会は製造業からサービス業に主軸を移しています。そのユーザーは7割が女性。中高年男性にニーズは分かりません」と訴え「クオータ制」の導入を求めていた。この主張は「男性と女性の差は筋力だけ」という説明と矛盾する。「男性と女性の差は筋力だけ」ならば、「サービス業」での顧客ニーズの理解力に男女差はないはずだ。
出口氏の問題発言は他にもある。
【日経ビジネスの記事】
出口:それには人類はもう答えを出しています。ロールモデルがなければ女性が育たないということが分かっているので、100を超える国でクオータ制を導入しているでしょう。答えは分かっているので、そこはもういかに意識を高めて、クオータ制を政策として打ち出していけるかという、まさに市民の力、ペンの力、メディアの力にかかっていると思いますね。
◎女性はそんなにダメな存在?
どういう根拠があるのか知らないが「ロールモデルがなければ女性が育たないということが分かっている」と出口氏は言い切る。曖昧な部分があるので、ここでは「ロールモデルがなければ育たないという条件は全ての女性に当てはまるが、男性は当てはまらない人が多数いる」と理解しよう。この場合、採用や昇進で男性が優位となるのは当然だ。社内で成長するのに必ず「ロールモデル」を必要とする女性は、その点で明らかに男性よりも劣ることになる。
例えば、ある企業が初めて海外事業を立ち上げるとしよう。この場合、社内の女性には任せられない。女性は海外事業を立ち上げた経験のある人を「ロールモデル」としなければ「育たない」からだ。
一方、男性ならば「ロールモデル」なしでも試行錯誤を繰り返して成長し、海外事業を軌道に乗せられる可能性が十分にある。新たな領域に挑戦しようとする企業は、なるべく従業員の男性比率を高めておいた方が良いことになる。
個人的には「ロールモデルがなければ女性が育たないということが分かっている」という話が怪しいとは思う。何を根拠に出口氏がこう言っているのかが気になる。
河合氏の発言にもツッコミを入れておきたい。
【日経ビジネスの記事】
河合:私も微力ながらそういったことを書き続けているんですけれども、女性問題を取り上げると「男性差別だ!」と批判され、男性差別を取り上げると沈黙されるという状況はあまり変わっていないように思います。
◎何か問題が?
「女性問題を取り上げると『男性差別だ!』と批判され、男性差別を取り上げると沈黙されるという状況はあまり変わっていない」と河合氏は言う。この「状況」は変わるべきだと考えているようだ。しかし、なぜそう考えるのか謎だ。
「女性問題を取り上げると『男性差別だ!』と批判され」るのは悪いことではない。河合氏の「取り上げ」方に「男性差別」と取れる面があるのならば「批判」を受けるのは当然だ。社会の在り方としてはむしろ好ましい。
「男性差別」など全くしていないのに「批判」を受けているのであれば話は変わってくるが、具体的な事例を示していないので何とも言えない。
「男性差別を取り上げると沈黙される」というのは分かりにくいので「男性差別を取り上げると批判が出ない」という意味だとしよう。この場合「批判」を受けたくないとの前提で考えれば河合氏にとっては都合がいい。「状況」が変わって「批判」が殺到したら河合氏は歓迎するのか。
「男性差別を取り上げると沈黙される」というのは「男性差別を取り上げても褒めてもらいない」との趣旨かもしれない。この場合は甘えるなと言うほかない。
※今回取り上げた記事「昭和おじさん社会は『性差別社会』と言った方がいいね!~河合薫氏・出口治明氏対談『昭和おじさん社会は変わったのか』(1)」https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00098/?P=1
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