2020年7月5日日曜日

「主要国」の範囲は? 日経「チャートは語る~在宅定着、ニッポンの壁」

5日の日本経済新聞朝刊1面に載った「チャートは語る~在宅定着、ニッポンの壁 主要国で最低水準 『仕事』の見直し急務」という記事では「主要国」をどう見ているのかが気になった。橋本慎一記者と松井基一記者(雇用エディター)は以下のように説明している。
筑後川の宮の陣橋(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

日本は在宅が定着しにくい――。そのことを示すのが、英エディンバラ大学などの研究者が試算したデータだ。業種、学歴などのデータを基に総雇用者数に占める在宅勤務が可能な人の割合を算出。日本は47.2%。英国の53%や米国51.7%などを下回り、主要国で最低水準だ。


◎主要国の範囲は?

在宅勤務できる人の割合」を示した記事中のグラフを見ると、米国、英国、ドイツ、オランダ、スイス、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、エストニア、オーストラリア、韓国、日本を確認できる。

米国、英国、ドイツ、日本は分かるが、残りは「主要国」と言えるか微妙。エストニアに関しては明らかに「主要国」ではない。

グラフで示した国が「主要国」という意図は筆者らにはないのかもしれない。だとしたら、どういう基準で「主要国」を決めているのかは明示してほしい。「主要国」の範囲を示さずに「主要国で最低水準だ」と言われても困る。

常識的に考えれば「主要国」に中国は入れてほしい。インド、ロシア、ブラジル辺りも外せない気がする。

今回の記事では「欧米」との比較に主眼を置いている。この手の比較には恣意性を感じる。「主要国で最低水準だ」と訴えたいのならば、「欧米」偏重はさらに好ましくない。

記事にいくつか追加で注文を付けておく。

【日経の記事】

インターナショナル・ワークプレース・グループ(IWG)が19年に約1万5千人を対象に実施した調査では、85%が在宅勤務などの柔軟な働き方が生産性向上に結びつくと回答。経済協力開発機構(OECD)の調査(18年時点)で時間あたり生産性が米国に比べ4割低い日本にとって、在宅勤務をしやすい環境を整えることが国際競争力を高めるためにも不可欠だ。

世界がコロナ禍による雇用危機に直面する中、在宅勤務できる仕事は増えている。英オックスフォード大が、オンラインで仕事が可能な世界の求人数を基に算出する指数(16年5月を100として指数化)は今年5月、過去最高の170台となった。ソフトウエア開発、法務や財務など専門職で求人の広がりが鮮明だ。少子高齢化が進む中で長期的に仕事の担い手を増やすためにも、こうした在宅勤務しやすい職種へのシフトが必要となりそうだ



◎「在宅勤務」で「生産性向上」?

個人的には「在宅勤務」が「生産性向上」に結び付くという理屈がよく分からない。「時間あたり生産性」で考えてみよう。橋本記者と松井記者が日経の本社で記事を書くと、新聞記事換算で1時間に100行分を「生産」できるとしよう。これを自宅でやると120行や130行を書けるようになるだろうか。基本的には変わらない気がする。

「自宅の方がリラックスできる」といったプラス面は思い付くが、それほど大きな効果はなさそうだ。「資料が揃わない」「緊張感に欠ける」「家族が話しかけてくる」といったマイナス面もあるだろう。

橋本記者と松井記者は「IWG」の調査結果を根拠に挙げている。しかし「在宅勤務などの柔軟な働き方が生産性向上に結びつく」という話ならば、重要なのは「在宅勤務」ではなく「柔軟な働き方」のはずだ。「在宅勤務」はその一部でしかない。

日経は別の記事では「新型コロナウイルスの影響で在宅勤務を導入する企業が増えるなか、生産性の向上が焦点となってきた。日本生産性本部の調査では7割弱の人が効率が下がったと答えた」と伝えている。橋本記者と松井記者も、この調査結果を知っているのではないか。

在宅勤務」が「生産性向上に結びつく」と決め付けるのは危険な気がする。

少子高齢化が進む中で長期的に仕事の担い手を増やすためにも、こうした在宅勤務しやすい職種へのシフトが必要となりそうだ」という結論にも賛成できない。

ソフトウエア開発、法務や財務」といった「在宅勤務しやすい職種」に「シフト」させる「必要」は感じない。必要なところに必要な人材を配置すべきだ。「在宅勤務しやすい職種」かどうかを考慮するのは、本末転倒だと思える。

例えば、医療や介護が「在宅勤務しにくい職種」だとしよう。そこで人手が足りていないのに、人材を「ソフトウエア開発、法務や財務」へと「シフト」させるべきなのか。「生産性向上」のためには、医療や介護で人材が不足しても良いのか。

在宅勤務」や「生産性向上」がどうでもいいとは言わないが、それほど重要な要素とは思えない。そこを基準に物事を考えるのはいかがなものか。


※今回取り上げた記事「チャートは語る~在宅勤務定着、ニッポンの壁 主要国で最低水準 『仕事』の見直し急務
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60610060R20C20A6EA2000/


※記事の評価はC(平均的)。橋本慎一記者と松井基一記者への評価は暫定でCとする。

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