2020年7月12日日曜日

丹羽宇一郎氏が書いた文藝春秋「日本よ、『鎖国』するな」の問題点

日中友好協会会長・元中国大使の丹羽宇一郎氏が文藝春秋8月号に書いた「日本よ、『鎖国』するな」という記事には色々と問題を感じた。まずは以下のくだりについて論じたい。
大雨で増水した大分県日田市の三隈川(筑後川)
            ※写真と本文は無関係です

【文藝春秋の記事】

日本が直面している最大の問題は、人口減少です。働き手の数が減れば、それだけ経済規模が小さくなり、国全体が貧しくなるからです。


◎「経済規模」が小さい国は貧しい?

この手の主張をする人を時々見かける。「国の豊かさ=その国のGDPの総額」と定義すれば、「人口減少」によって「国全体が貧しく」なる可能性が高い。だが、この場合、定義に問題がある。GDPを使うのが適切だとしても、1人当たりで見なければ意味がない。

例えばインドはスイスより「経済規模」は大きい。だからと言って「スイスの方が貧しい国だ」と考える人は稀だろう。

丹羽氏もこの点について考慮していない訳ではない。

【文藝春秋の記事】

人口減少は、必ずしも社会の衰退とイコールではありません。「人口減少悲観論」は、昭和の成功モデルをベースにしているからです。

人口減少の中でも日本の国際競争力を維持するには、1人あたりGDPを増やせばいい。この1人あたりGDPを増やすためには、労働生産性を高めるしかありません。もし、日本の労働者全員が、10時間かかっていた仕事を8時間で終えることができれば、人口が2割ほど減ってもGDPは現状維持されます。現政権が進める働き方改革でも、労働生産性の向上が鍵となっています。


◎「労働生産性を高めるしか」ない?

労働生産性=GDP÷就業者数」としよう。この場合、「1人あたりGDPを増やすためには、労働生産性を高めるしかありません」とは言えない。「労働生産性」が不変でも、高齢者などを働かせて「就業者数」を増やすと、全体のGDPが増えるので「(国民)1人あたりGDP」は伸ばせる。

それはいいとして、「人口が2割ほど減ってもGDPは現状維持されます」と丹羽氏が述べているように、「日本が直面している最大の問題は、人口減少」などと主張する人は、総じて「GDP」の「現状維持(あるいは拡大)」にこだわる。そこが理解できない。人口が半分になるなら、基本的にGDPも半分でいい。

村人が半分に減ったのに「村のみんなが2倍働けば、これまで通りの量のコメを収穫できる。頑張ろう」と言われても、個人的には「頑張って2倍働くぞ」という気持ちにはなれない。それと同じことだと思うが…。

次に移ろう。

【文藝春秋の記事】

いま世界の最先端科学技術を牽引するのは、アメリカ、ヨーロッパ、中国です。米欧中の科学者が共同研究を進める分野は多く、実際に共同論文が次々と発表されています。2018年のOECD調査によれば中国には約190万人、アメリカには約140万人の科学者がいます。一方、日本には68万人しかいない。


◎人口比では…

日本は「科学者」が少ないから「世界の最先端科学技術を牽引」できないと丹羽氏は訴えたいのだろう。だが、中国の人口は日本の10倍以上だ。米国も3倍近い。人口比で見れば日本の「科学者」は米中を大きく上回るのではないか。そこを考慮しなくてよいのか。

しかも、なぜか「ヨーロッパ」を無視している。ドイツ、フランス、英国などを個別に見れば「科学者」の数が日本を大きく下回っているのだとすれば、データの見せ方が恣意的すぎる。

最後は「資本主義」に関するくだりを見ていく。

【文藝春秋の記事】

私は資本主義のシステムは正しいと考えています。ただし、資本主義を名乗るには「自由」と「平等」が保障されていることが最低条件です。

もちろん、資本主義とは一色ではありません。アメリカ型の資本主義もあれば、日本型もある。各国の文化、歴史を背景に様々な色彩をもつのが資本主義だと私は理解しています。中国に自由と平等があれば、正真正銘の資本主義ですので、中国型の資本主義があってもいい。私は以前から「中国は、巨大な資本主義国家になる」と言いつづけてきました。建国100年を迎える2049年に、資本主義国家の中国が誕生すると予想しています。


◎「資本主義」には自由と平等が必須?

デジタル大辞泉では「資本主義」を「封建制度に次いで現れ、産業革命によって確立された経済体制。生産手段を資本として私有する資本家が、自己の労働力以外に売るものを持たない労働者から労働力を商品として買い、それを上回る価値を持つ商品を生産して利潤を得る経済構造。生産活動は利潤追求を原動力とする市場メカニズムによって運営される」と説明している。一般的な定義だろう。

しかし丹羽氏は「資本主義を名乗るには『自由』と『平等』が保障されていることが最低条件です」と言い切っている。「自分の思う資本主義はそうなんだ」と言われればそれまでだが、一般的な定義とはかけ離れている。

記事の別のところで「中国は事実上の資本主義国家と解釈されます」と丹羽氏は述べている。この説明との整合性も気になる。中国では実質的に「『自由』と『平等』が保障されている」のならば分かるが、少なくとも「自由」に関しては違うだろう。

最低条件」を満たしていなくても「事実上の資本主義国家」とは言えるということか。強引な説明はできそうな気もするが、整合性に問題があると見るべきだろう。


※今回取り上げた記事「日本よ、『鎖国』するな


※記事の評価はD(問題あり)

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