練習機T-33A 若鷹(福岡県うきは市) ※写真と本文は無関係です |
まず問題としたいのが「期間」だ。古賀雄大記者が書いた記事の最初の方を見ていこう。
【日経の記事】
外国為替市場でともに「安全通貨」とされてきた円とスイスフランで選別投資が進んでいる。過去には投資家のリスク回避局面で極端な円高に振れることが多かったが、最近はフランが買われる傾向が目立つ。通貨の総合的な価値を示す指数でリーマン危機後の値動きをみても、円は1割低い水準にある一方、フランは3割高だ。安全通貨は「フラン1強」になるのだろうか。
対ユーロのフラン相場は先週末、1ユーロ=1.05フラン近辺と2015年7月以来、約5年ぶりのユーロ安・フラン高の水準を付けた。欧州で新型コロナウイルスの感染拡大が続き、リスク回避姿勢を強めた投資家のフラン買いが優勢になった。今週になってフランはやや売られる場面もあったが、なお高い水準にある。
通貨の総合的な価値を示す実効為替レートの指標「日経通貨インデックス」をみても、フランは105程度とこの1年で7%上昇。リーマン危機後の2008年末と比べると3割上昇している。
一方の円。通貨インデックスは120近辺と1年前から5%高くなったが、フランの方が伸び率が大きい。08年末比でみると8%下落し、フランとの違いがよりいっそう鮮明になる。円相場は日銀が13年に始めた異次元緩和で急激な円安が進み、その後は一進一退をしつつも、おおむねリーマン時より安い水準を維持している。
外為市場ではともに安全通貨と認識されている円とフランだが、なぜこれほど大きな差が生じているのか。
◎「最近」の話でないと…
「最近はフランが買われる傾向が目立つ」と言うならば、「最近」の動向を分析してほしかった。しかし「この1年」の上昇率では「7%」と「5%」で大差がない。そこで「リーマン危機後の2008年末と比べ」て分析している。これだと期間が長すぎる。
記事に付けたグラフを見ると、スイスフランと円の差が開いたのは2012年から15年にかけてで、その後はほぼ同じような動きだ。このグラフからは「最近はフランが買われる傾向が目立つ」とは言えない。
記事の続きを見ていこう。
【日経の記事】
要因の一つが貿易収支の違いだ。スイスの19年の貿易収支は373億フラン(約4.1兆円)と過去最大の黒字を記録。国内総生産(GDP)比で約6%を占め、ここ10年でほぼ倍増した。貿易黒字だと輸出企業は稼いだ外貨を自国通貨に替える必要があり、通貨高につながりやすい。
日本は東日本大震災後の原発停止で貿易収支が大幅に悪化し、19年は1.6兆円の赤字だった。シティグループ証券の高島修氏は「フラン高・円安圧力が強い」とみる。
◎やはり「期間」の問題が…
「リーマン危機後の2008年末と比べ」て分析したために「東日本大震災後の原発停止で貿易収支が大幅に悪化」といった古い話が前面に出ている。
推測だが「貿易収支の違い」で12~15年に差が開いたのだろう。問題は「最近」だ。「最近」になって「貿易収支の違い」が鮮明になり「フラン1強」化が進んだのか。そうではないのならば、マーケット総合2面のようなニュース面で取り上げる意味はあまりない。
さらに続きを見ていく。
【日経の記事】
世界的な金利低下で円が買われにくくなった面もある。リーマン危機前は主要国の長期金利が軒並み4%を超えていた一方、日本は1%台にとどまり、スイスよりも低かった。このため低金利の円を調達し高金利の通貨で運用益を稼ぐ「円キャリー取引」が活発だった。リーマン危機後は円を買い戻す動きが広がり、円相場は1ドル=100円を超す円高が進んだ。
近年は各国中央銀行の金融緩和を受け、世界的に金利が低下している。円キャリー取引も下火になり、「新型コロナの感染拡大によるリスク回避局面でも極端な円高は進んでいない」(JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏)。外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏も「円のリスク回避通貨としての地位が揺らぎつつある」と話す。
◎これも苦しい感じが…
まず「円キャリー取引」の解消に伴って円が買われるのであれば、それは「安全通貨」として買われているのではない。それに「世界的な金利低下で円が買われにくくなった面」があるのならば、同じことがスイスフランにも当てはまるのではないか。「最近」もスイスフランでは「キャリー取引」が活発ならば、その理由を説明してほしい。円との金利差は大きくないはずだ。
※今回取り上げた記事「ポジション~安全通貨、フラン1強か 円より強く スイスの貿易黒字影響」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200521&ng=DGKKZO59348550Q0A520C2EN2000
※記事の評価はD(問題あり)。古賀雄大記者への評価も暫定でDとする。
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