2019年6月13日木曜日

東洋経済 山田雄一郎記者の「ソフトバンク株を社債代わりに」を信じるな!

週刊東洋経済6月15日号の特集「50歳からのお金の教科書」の中の「STEP2 実践編 準備を怠るな! 50歳から始める資産運用~ソフトバンクグループ 現物株と個人向け社債 買うならどっち?」という記事の問題点をさらに取り上げる。「現物株」について山田雄一郎記者は以下のように書いている。
久留米市の千光寺(あじさい寺)※写真と本文は無関係

【東洋経済の記事】

そこで次善策として浮上するのが、通信子会社・ソフトバンクの株である。1株当たりの予想配当金を株価で割った「配当利回り」は5.91%とソフトバンクグループの個人向け社債よりも高い

昨年12月に上場した際には初値が公募価格を下回り、投資家から不評を買った。が、「上場後の値動きはしっかりしていて、利回り狙いの債券に近い株だ。『高配当をしろ』という親会社からの配当圧力が強烈なことから、今後も高い配当利回りが期待できるのもプラス」(智剣・Oskarグループの大川智宏CEO兼主席ストラテジスト)。ソフトバンクの宮内謙社長は純利益の85%程度を配当に回すと公言している。14万円台(5月下旬時点)から購入できるのも個人向きといえそうだ。

この点では、ソフトバンク株や個人向け社債と比べるとソフトバンクグループ株は見劣りがする。配当利回りが1%を下回る(下図)ほか、株価の値動きは荒い。株価が5カ月足らずで2倍近くになった(上図)ということは、今後5カ月で半分になってもおかしくないのだ。



◎配当利回りと社債利回りを比べるのは…

記事の前半で「預金と社債はまったく別の金融商品だ」と山田記者は書いていた。自分に言わせれば、預金金利と社債利回りを比較するのは問題ない。むしろ「配当利回り」と社債利回りを比較する方が問題だ。しかし記事では「『配当利回り』は5.91%とソフトバンクグループの個人向け社債よりも高い」と比べてしまっている。

配当は支払った分だけ株式の価値が低下する。しかし預金や社債はそうではない。1万円の株式で10%の配当利回りの場合、「社債利回りや預金金利より高いから魅力的」と言えるだろうか。1000円の配当を受け取ると、その他の変動要因がない場合、株式の価値は9000円になる。1株1万円の株式を保有している状態から、1株9000円の株式と1000円の現金に変わった(税金は考慮しない)。これに魅力を感じるのは非合理的だ。

株価が5カ月足らずで2倍近くになった(上図)ということは、今後5カ月で半分になってもおかしくないのだ」という説明も引っかかる。確かに「今後5カ月で半分になってもおかしくない」が、「今後5カ月で」さらに株価が上昇しても「おかしくない」。記事の書き方だと「株価下落の可能性の方が高い」という印象を受けてしまう。しかし期待リターンがプラスという前提で言えば「5カ月足らずで2倍近くになった」としても、株価上昇の可能性の方が高いはずだ。

さらに続きを見ていこう。

【東洋経済の記事】

加えて、ソフトバンクグループ株は予想PER(株価収益率)が低い。5月下旬時点の株価や予想EPSを基に計算すると、予想PERは11倍台と低い(下図)。

「PERが低いのは、先行きの見通しが不安定だからにほかならない」と大川氏は指摘する。「割安株がますます売られ、割高株がますます買われている足元の状況下では手を出せない」(大川氏)。



◎PERが明らかに低いなら…

ソフトバンクグループ株」の「予想PERは11倍台と低い」と山田記者は言う。その根拠を示していないが「適正水準より低い」のであれば基本的には買いだ。

割安株がますます売られ、割高株がますます買われている足元の状況」でもそれは変わらない。明らかに「割安」ならば買い増したい。中長期的には適正水準に株価が戻ると考えるべきだ。

割安株がますます売られ、割高株がますます買われ」る状況が中長期的にも続くと見るべき理由があるのだろうか。あるなら記事で触れてほしい。

記事の結論部分にも注文を付けておこう。

【東洋経済の記事】

それでもソフトバンクグループ株を買えるとしたら、どんな個人投資家か。それは冒頭の魚本氏によれば、「AIの可能性を信じ、孫社長と世界の将来像を共有できる人」。株価の乱高下を気にせず、孫社長の投資の成功を信じ続けられる人、ということになりそうだ。

以上をまとめると、預金とは違うことを理解したうえで個人向け社債の募集があればダメ元で申し込む。社債を買えなかったらソフトバンク株を社債代わりに買う。さらに孫社長に共感できる人はソフトバンクグループ株を買う、といったところか。(山田雄一郎)



◎「社債代わりに買う」?

ソフトバンク株を社債代わりに買う」のだけはやめた方がいい。債務不履行がない前提で言えば「社債」は購入した時点で投資の利回りが確定する。しかし「ソフトバンク株」はそうではない。「5.91%」の「配当利回り」があっても株価が大きく下がれば損失が出てしまう。

株式投資で「配当利回り」に着目するのは原則として誤りだ。トータルで投資のリターンを考えないと意味がない。そこを山田記者自身は理解していないのだろう。結果として罪深い記事になっている。


※今回取り上げた記事「ソフトバンクグループ 現物株と個人向け社債 買うならどっち?
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/20764


※記事の評価はD(問題あり)。山田雄一郎記者への評価はC(平均的)を維持する。山田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済の特集「東芝が消える日」山田雄一郎デスクに疑問
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_19.html

東洋経済「保険に騙されるな」業界への批判的姿勢を評価
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_15.html

東洋経済 山田雄一郎記者「社外取締役のお寒い実態」に高評価
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_18.html

さすが山田雄一郎記者 読むに値する東洋経済の特集「保険の罠」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_20.html

「旧民主党が年金破綻を喧伝」と東洋経済 山田雄一郎記者は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_10.html

ソフトバンクグループ債を薦める東洋経済 山田雄一郎記者の罪
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_12.html

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