玄海エネルギーパークから見た海 ※写真と本文は無関係です |
記事を見ながら具体的に指摘していく。
【日経の記事】
米中の「新冷戦」で、台湾が揺れている。最大の投資先である中国とのハイテクを巡る「分断」が現実化する恐れがあるからだ。米国は本気で先端技術の流出を止めにかかっている。台湾の行方は日本にも他人事ではない。
◎宣言通りになってないような…
最初の段落を読むと「台湾」は「中国とのハイテクを巡る『分断』が現実化する恐れ」があると感じる。「台湾の行方は日本にも他人事ではない」とも書いているので、記事の中で日本に絡める形で話が進むのだろうとも期待してしまう。しかし、その期待は裏切られる。
続きを見ていこう。
【日経の記事】
中国の習近平国家主席は「中国製造2025」を掲げ、先端産業育成を目指す。特に半導体は輸入依存度が高く、総額15兆円とされる巨額の基金を設けて国産化プロジェクトを進めている。頼みは台湾企業の技術力。中国に大量の技術者を招き、川上から川下までの一貫生産体制を構築する計画だ。
米政府は18年秋、そこに先制パンチを食らわせた。
まず商務省が福建省晋華集成電路(JHICC)向けの半導体製造装置の輸出を規制すると発表。同社は中国の半導体メモリー国産化プロジェクトの一角だ。さらに米連邦大陪審が「台湾の受託生産大手である聯華電子(UMC)が米マイクロン・テクノロジーの技術を盗み出し、JHICCに渡していた」として両社を起訴したのである。UMCはJHICCの提携先で、技術侵害でマイクロンと米中で訴訟合戦となっていた。
18年秋からUMCの株価は低迷。JHICCのプロジェクトもUMCが技術協力を大幅に縮小したことなどから量産開始を目前に頓挫した。
台湾に2度の駐在経験があるアジア経済研究所の川上桃子氏は「台湾では当初、米中対立について、米国が中国製品に関税をかければ、中国などに進出した台湾企業の地元回帰が進むという楽観論が多かった。だが、今はハイテク摩擦と技術漏洩で緊迫感が高まっている」と話す。
台湾にも技術などの漏洩を防ぐ営業秘密法がある。台湾企業が半導体関連の技術を窃取された事件は17年に17件起き、多くが中国企業への漏洩だった。1990年代から盛んになった人と経済の交流は水面下の動きも活発にしてきた。
台湾当局は、半導体工場の対中投資は旧世代半導体のラインに限って認めている。しかし地元経済誌は、台湾北部で半導体企業が集積する新竹科学工業園区の近くでは中国企業が営業拠点の看板をかけ、その実は技術者を招き、設置を禁じられている研究開発拠点にしていると伝える。
技術者の流出も今に始まったことではない。中国の主な半導体メモリー国産化プロジェクトはJHICC以外に2つあり、その1つは清華紫光集団が進めている。同社は15年に米マイクロンを買収しようとして米政府から待ったをかけられ、東芝メモリの買収にも意欲をみせていた。
清華紫光集団を支える人材は高額の報酬で引き抜かれた台湾の経営者や技術者だ。15年秋には台湾を代表するDRAMメーカー、南亜科技の総経理だった高啓全氏が移籍した。高氏はこの世界で「台湾のゴッドファーザー」と呼ばれる人物。韓国サムスン電子に対抗できるDRAM勢力を中国に築こうという願望が移籍の動機だったといわれる。
◎材料はそれだけ?
「中国とのハイテクを巡る『分断』」が具体的にどういう状態を指すのか記事では触れていない。しかし、かなり深刻な状況に陥る印象は受ける。なのに記事には「分断」をイメージさせる材料が乏しい。
丸の内ビルディング(東京都千代田区) ※写真と本文は無関係です |
「まず商務省が福建省晋華集成電路(JHICC)向けの半導体製造装置の輸出を規制すると発表」と書いているが、これに関する報道を見ると「規制」の対象は米国企業のようだ。原田論説委員長の書き方だと「台湾企業」を狙い撃ちにした「規制」のように見える。
結局、「分断」に関する最大の材料は「『台湾の受託生産大手である聯華電子(UMC)が米マイクロン・テクノロジーの技術を盗み出し、JHICCに渡していた』として両社を起訴した」件だけだ。しかも「18年秋」と半年前の話。その後は「分断」に向けた目立った動きがないのだろう。「台湾にも技術などの漏洩を防ぐ営業秘密法がある」などと本筋から離れた話で紙面を埋めている。
これでは「米中の『新冷戦』」によって「中国とのハイテクを巡る『分断』」が台湾で現実味を帯びているとは実感できない。
ついでに言うと「両社を起訴」に関しては、その前に「聯華電子(UMC)が米マイクロン・テクノロジーの技術を盗み出し、JHICCに渡していた」と3社の名前が出てくるので、どの「両社」か分かりづらい。常識的な判断はできるが、書き方としては上手くない。
さらに記事の続きを見ていく。
【日経の記事】
今後の焦点は、半導体の受託生産で世界最大の台湾積体電路製造(TSMC)の対応だ。5Gの技術で先行しているとされる中国・華為技術(ファーウェイ)の最先端の半導体もTSMCが製造している。技術の保秘やコンプライアンスに定評があり、米企業も有力な顧客だ。ただ、売上高の「中国比率」はどんどん高まっている。
米政府は半導体そのものを対中輸出規制の対象にしているわけではない。日本企業の部品もファーウェイのスマートフォンに使われている。
だが、中国包囲網は狭まっている。19年4月になって発光ダイオード(LED)世界大手の中国企業が「輸出注意先」に指定され、米メーカーが半導体製造装置の取引を停止した。少なくとも半導体製造の関連技術は、米政府の厳しいチェックは避けられないだろう。台湾だけでなく日本企業についてもだ。
◎それで「分断」?
「今後の焦点は、半導体の受託生産で世界最大の台湾積体電路製造(TSMC)の対応」らしいが、「TSMC」に米国が強硬姿勢を取りそうな話は出てこない。「少なくとも半導体製造の関連技術は、米政府の厳しいチェックは避けられないだろう」というだけで「中国とのハイテクを巡る『分断』が現実化する恐れ」を抱く必要があるのか。
「TSMC」は「技術の保秘やコンプライアンスに定評」があるのならば、そもそも中国に技術を渡したがっていないのではないか。だとすると「米政府の厳しいチェック」があっても大した影響はなさそうだ。
しかも「米政府は半導体そのものを対中輸出規制の対象にしているわけではない」と原田論説委員長は言う。だったら「中国とのハイテクを巡る『分断』が現実化する恐れ」が本当にあるのか。仮にあるとして「分断」とは、どういう状況を指すのか。
そして「台湾の行方は日本にも他人事ではない」件に関する記述が出てきた。「台湾だけでなく日本企業についてもだ」と書いた後、記事は以下のように続く。
【日経の記事】
拓殖大総長で元防衛相の森本敏氏は「米国の中国に対する厳しい要求は、選挙後の政権が共和党だろうが民主党だろうが当面のところ変わらないだろう。まず貿易不均衡の是正、次いで海洋覇権の断念、3つ目が投資・貿易と安全保障にまたがる知的財産の窃取をやめること」と話す。
◎またしても、これだけ?
日本に関する記述はこれで終わりだ。この内容ならば、わざわざ台湾の事例から学ぶ必要はない。「台湾の行方は日本にも他人事ではない」と最初の段落で書いているが「確かにそうだな」と納得できる中身になっていない。
そして話は「総統選」へと移ってしまう。書くことがなくなってしまったので、脱線させて行数を稼いだのだろう。それでも一応、見ておこう。
【日経の記事】
台湾では20年1月に総統選がある。民進党の蔡英文総統は米国との関係強化を進め、中国の統一への圧力をかわそうとしている。19年4月には中国製の情報機器の調達規制を公的機関から公営企業に拡大し、技術流出に一段と厳しい姿勢をみせた。
これに対し、国民党から突然、出馬する意向を示したのが、鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長だ。同社は中国で100万人ともいわれる雇用を生み、アップルのスマホ「iPhone」などを製造する。中国企業と組み、大陸で半導体をつくるためにシャープの技術も活用する構えだ。
出馬の真意は不明だが、習国家主席との近さや、事業成功のカギが大陸との関係にあったことを考えれば、経済も技術も「大陸との間の壁をもっと低く」という主張に傾いても不思議ではない。
総統選の行方を占うのは時期尚早だが、民進党が政権を維持するのは簡単ではないというのが大方の見方だ。
◎「時期尚早」なら…
「20年1月」に迫った「総統選」について「行方を占うのは時期尚早」とは思えないが、仮に「時期尚早」だとしよう。だったら「民進党が政権を維持するのは簡単ではないというのが大方の見方だ」などと書くのも「時期尚早」ではないのか。「大方の見方」に意味はないはずだ。意味があるのならば「時期尚早」の方が怪しくなってくる。
それに「『大陸との間の壁をもっと低く』という主張に傾いても不思議ではない」と原田論説委員長が見ている「鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長」にも勝つ見込みがあるのならば「中国とのハイテクを巡る『分断』が現実化する恐れ」はさらに弱まる。
そして記事の最終段落は以下のようになっている。
【日経の記事】
複雑に絡み合う「ハイテク生態系」。半導体と台湾を巡る米中攻防で生態系にひびが入りつつあるが、終着点はまったくみえていない。
◎やはり訴えたいことが…
最後に「終着点はまったくみえていない」と逃げて記事を締めている。「中国とのハイテクを巡る『分断』が現実化する恐れ」と打ち出したのだから、それに関する原田論説委員長の判断を入れてほしい。
例えば「もはや台湾と中国のハイテク分断は不可避だ。そして次に中国との分断を迫られるのは間違いなく日本だ」などと締めていれば「さすが論説委員長。リスクを取って大胆な主張をしたな」と思える(もちろん、その結論に説得力を持たせる構成にしなければならないが…)。
今回のように過去の出来事をあれこれ書いて、総統選の話に脱線して、最後に「終着点はまったくみえていない」で締めればいいのならば、書き手としての力量は大して必要ない。この手の記事を世に送り出していると「日経の論説委員長は力量が低くてもなれる」と読者に見破られてしまう。それは避けたい。
※今回取り上げた記事「核心~米中『新冷戦』揺れる台湾」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190429&ng=DGKKZO44192290V20C19A4TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。原田亮介論説委員長への評価はDを維持する。原田論説委員長に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「2%達成前に緩和見直すべき?」自論見えぬ日経 原田亮介論説委員長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_77.html
財政再建へ具体論語らぬ日経 原田亮介論説委員長「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_33.html
日経 原田亮介論説委員長「核心~復活する呪術的経済」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_20.html
日経 原田亮介論説委員長「核心~メガは哺乳類になれるか」の説明下手
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post.html
中国「中進国の罠」への「処方箋」が苦しい日経 原田亮介論説委員長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_57.html
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