2019年4月1日月曜日

具体的「ゴール」見えぬ日経 石鍋仁美編集委員の「経営の視点」

1日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「経営の視点~ポスト働き方改革の行方 時短はゴールではない」という記事は、具体性に欠ける内容だった。「時短はゴールではない」と見出しで打ち出しているが、筆者の石鍋仁美編集委員にも「ゴール」の明確な形は見えていないようだ。
流川桜並木(福岡県うきは市)
   ※写真と本文は無関係です

説明として成立しているのか疑問を感じるくだりもあった。まずはそこから見ていこう。

【日経の記事】

新しい枠組みで若者らは生き生きと働き、暮らせるか。働く人と経営者の双方から疑問の声が伝わる

1つはワークとライフの線引きだ。デートはともかく結婚、子育てとなると時間は不足し心のゆとりも失う。「賃金は支払われなくても家事や育児は本来ワーク」と働き方を研究する常見陽平・千葉商科大学国際教養学部専任講師。仕事と子育て以外に自分の時間も確保できるべきだと説く。

金融大手の経営者は仕事と私生活を分け、前者を減らすことがベストか自問する。「思い切り仕事に打ち込みたい若者も多い」が、政府の方針に沿い残業を禁じ早く帰宅させる。その結果、横並び意識が薄い外資系企業に優秀で意欲の高い若者が流れると嘆く



◎「横並び意識」の問題なら…

働く人と経営者の双方から疑問の声が伝わる」と言うものの「働く人」からの「疑問の声」は見当たらない。「常見陽平・千葉商科大学国際教養学部専任講師」も「働く人」ではあるが、あくまで「働き方を研究する」立場からの意見だ。

それに、なぜ「1つはワークとライフの線引きだ」となるのか謎だ。「家事や育児は本来ワーク」(個人的には同意しないが…)であり「仕事と子育て以外に自分の時間も確保できるべきだ」との判断ならば、「線引き」は難しくない。「仕事」「家事」「育児」が「ワーク」で、それ以外が「ライフ」だ。

これで「線引き」は決まるが、それで「仕事と子育て以外に自分の時間も確保できる」ようになるわけでもない。ならば本当に「ワークとライフの線引き」が問題なのか。

さらに分からないのが「金融大手の経営者」の話だ。「政府の方針に沿い残業を禁じ早く帰宅させる」と「横並び意識が薄い外資系企業に優秀で意欲の高い若者が流れる」という。

まず、政府は企業に「残業を禁じ」るよう求めているのか。そんな「政府の方針」は聞いたことがない。

百歩譲って、残業禁止が「政府の方針」で、「横並び意識が薄い外資系企業」は「政府の方針」に従わないとしよう。その影響で「優秀で意欲の高い若者」が「外資系企業」に流れて困るのであれば、「横並び意識」を改めれば済む話だ。

こんな経営者の声をわざわざ記事で取り上げる石鍋編集委員の気持ちが理解できない。「経営の障害になっているのに、なぜ『横並び意識』を捨てられないのですか?」とでも聞いてほしかった。

そして石鍋編集委員は具体性に欠ける結論を導く。

【日経の記事】

労働時間短縮という形だけにこだわれば意欲ある人材を逃がす。短時間でも窮屈な仕事環境ならストレスは大きい。一人ひとりの価値観や事情を組み込んだきめ細かい仕組みこそが生産性と満足度を上げる。今から始まる新たな働き方は一つの通過点にすぎない。



◎具体策を示せば…

一人ひとりの価値観や事情を組み込んだきめ細かい仕組みこそが生産性と満足度を上げる」のかもしれない。だが「そんな制度が作れるの?」と思う。石鍋編集委員はその疑問には答えないまま、「今から始まる新たな働き方は一つの通過点にすぎない」と記事を締めてしまう。

リンデンホールスクール(福岡県太宰府市)
          ※写真と本文は無関係です
一人ひとりの価値観や事情を組み込んだきめ細かい仕組み」が必要だと感じたならば、具体的にどんな制度か考えて記事に盛り込むべきだ。思い付かない場合、記事で論じるのは避けてほしい。

「財政再建と経済成長を両立させながら、国民の誰もが幸福に暮らせるための社会保障制度を作り上げていくべきだ」と誰かが主張したとしよう。異論はないが「どうやって?」とは聞きたくなる。「具体案はないよ」と返ってきたら、その人の意見に耳を貸す気にはなれない。

石鍋編集委員には、それに似たものを感じる。


※今回取り上げた記事「経営の視点~ポスト働き方改革の行方 時短はゴールではない
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190401&ng=DGKKZO43037730Y9A320C1TJC000


※記事の評価はD(問題あり)。石鍋仁美編集委員への評価はDを据え置く。石鍋編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「シェアリング」 日経 石鍋仁美編集委員の定義に抱いた疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_88.html

どこに「自己否定」? 日経 石鍋仁美編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_31.html

ダイバーシティー必要論に根拠乏しい日経 石鍋仁美編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_27.html

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