2019年3月18日月曜日

「日本防衛に“危機”」が強引な日経ビジネス田村賢司編集委員

久しぶりに日経ビジネスの田村賢司主任編集委員を取り上げてみたい。田村編集委員が書いた3月18日号の「米朝物別れで日本防衛に“危機”」という記事は色々と問題が多かった。中でも以下のくだりが最も引っかかった。
渋谷駅前(東京都渋谷区)※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

今回決定した米韓合同軍事演習の停止だけでも、「これが数年続けば兵員の練度が下がるのは確実」(海上自衛隊の元艦隊司令官、香田洋二氏)とされる。仮に在韓米軍の撤退、あるいはそれに近い事態となれば、日本の防衛線は対馬海峡まで下がることを想定する必要が出てくる。仮に有事の際の戦闘初期にミサイルなど火力で圧倒できない場合、有力な米軍兵力が韓国内になければ何が起こるか分からないからだ。



◎今の「防衛線」は38度ライン?

仮に在韓米軍の撤退、あるいはそれに近い事態となれば、日本の防衛線は対馬海峡まで下がることを想定する必要が出てくる」と田村主任編集委員は言う。つまり今の「日本の防衛線」は「対馬海峡」より北になる。それがどこか明示していないが、仮に北朝鮮と韓国の国境を「日本の防衛線」としよう。

だとすると、日本は北朝鮮が韓国に侵攻してきた時に「日本の防衛線」を突破されたことになる。この場合に日本は自衛隊を投入して北朝鮮を撃退し「日本の防衛線」を守る必要があるが、明らかな憲法違反だ。なのに「防衛線」と言えるだろうか。

ついでに言うと「仮に有事の際の戦闘初期にミサイルなど火力で圧倒できない場合、有力な米軍兵力が韓国内になければ何が起こるか分からないからだ」との説明も引っかかる。裏返して言えば「有事の際の戦闘初期にミサイルなど火力で圧倒できない場合でも、有力な米軍兵力が韓国内にいれば何が起こるか分かる」はずだ。しかし、「有事」でしかも「戦闘初期にミサイルなど火力で圧倒できない」のであれば、「有力な米軍兵力が韓国内」にいても、その後の展開は見通しにくい。

今回の記事のテーマは「米朝物別れで日本防衛に“危機”」だ。この見立ても苦しい。「今回の合同軍事演習停止」を受けて「日本にとっての影響は想定以上に大きいのではないか」と田村主任編集委員は分析している。しかし根拠は乏しい。

今回決定した米韓合同軍事演習の停止だけ」ならば「これが数年続けば兵員の練度が下がるのは確実」といった程度の問題だ。それで「日本防衛に“危機”」「日本の安全保障は大きな影響を受けかねない」と見るのは大げさすぎる。

仮に在韓米軍の撤退、あるいはそれに近い事態となれば、日本の防衛線は対馬海峡まで下がることを想定する必要が出てくる」とも書いているが、「在韓米軍の撤退、あるいはそれに近い事態」が現実的になっている感じもない。あくまで仮定の話だ。「米朝物別れで日本防衛に“危機”」との分析に説得力はない。

さらに言えば、最後の段落も理解に苦しんだ。

【日経ビジネスの記事】

まして日韓の政治関係が悪化し、自衛隊と韓国軍の間まで冷え込んでいる状況は、日本にとって楽観できないと言うべきだろう。有事の際、中国は軍事的に表だって北朝鮮を支援することはないが、「米国の占領などを黙ってみていることはあり得ない」が外交関係者の一致した見方。日韓関係の改善が見込めない今、防衛戦略も見直さざるを得なくなっているのではないか


◎なぜ「見直し」が必要?

日韓関係の改善が見込めない」と「防衛戦略」を見直す必要が出てくると田村編集委員は言う。どこをどう見直すべきか触れていないので判断は難しいが、日本の「防衛戦略」とは良好な「日韓関係」を前提にしたものなのか。韓国は同盟国でもない。
月隈公園(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

有事の際、中国は軍事的に表だって北朝鮮を支援することはないが、『米国の占領などを黙ってみていることはあり得ない』が外交関係者の一致した見方」ならば、「日本にとって楽観」できる状況ではないか。朝鮮半島での「有事の際」に「中国」が「軍事的に表だって北朝鮮を支援することはない」のだから、米中の直接対決は避けられる。


最後に文の作り方にも苦言を呈しておく。

【日経ビジネスの記事】

昨年末の日本海・能登半島沖での海上自衛隊機に対する韓国海軍駆逐艦からの火器管制レーダー照射問題や、韓国に寄港する海上自衛隊の護衛艦に自衛艦旗(旭日旗)掲揚自粛を求めるなど、政治同様にその関係は冷え込んでいる。



◎並べ方が…

上記の文は「」を使って何と何を並べているのか分かりにくい。形式的には「火器管制レーダー照射問題」と「自衛艦旗(旭日旗)掲揚自粛」だ。しかし、それだと「火器管制レーダー照射問題を求める」ことになり、意味が通じない。

文脈から判断すると「火器管制レーダー照射問題」と「自衛艦旗(旭日旗)掲揚自粛を求める」を並べているのだろう。だが名詞と動詞なので不自然だ。改善例を示してみる。

【改善例】

昨年末の日本海・能登半島沖での海上自衛隊機に対する韓国海軍駆逐艦からの火器管制レーダー照射問題や、韓国に寄港する海上自衛隊の護衛艦への自衛艦旗(旭日旗)掲揚自粛の要請などもあり、政治同様にその関係は冷え込んでいる。


※今回取り上げた記事「米朝物別れで日本防衛に“危機”
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00108/00011/


※記事の評価はD(問題あり)。田村賢司主任編集委員への評価はDを維持する。田村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_8.html

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_11.html

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_12.html

日経ビジネス「村上氏、強制調査」田村賢司編集委員の浅さ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_6.html

日経ビジネス田村賢司編集委員「地政学リスク」を誤解?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html

日経ビジネス田村賢司主任編集委員 相変わらずの苦しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_12.html

「購入」と「売却」を間違えた?日経ビジネス「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/09/blog-post_30.html

「日銀の新緩和策」分析に難あり日経ビジネス「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post.html

原油高を歓迎する日経ビジネス田村賢司編集委員の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_12.html

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