2019年2月25日月曜日

今回も市場への理解不足が見える日経 滝田洋一編集委員「核心」

日本経済新聞の滝田洋一編集委員は市場に関する理解に欠ける面がある。25日の朝刊オピニオン面に載った「核心~統計『サプライズ』で動く」という記事でも変化は見えない。記事を見ながら問題点を指摘したい。
呼子大橋(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

一つ一つの統計に金融市場が目を凝らし、経済の流れが変わるとみれば敏感に反応する。政策当局者、なかでも歴代の米連邦準備理事会(FRB)議長もしかり。「金融政策は統計の結果を重視する」と折に触れて強調する。統計を通じて市場と当局が生き生きと対話しているのだ

毎月勤労統計の不正処理をきっかけに、日本でも統計の問題ににわかに関心が集まった。国会でも統計不正が集中審議された。野党は「アベノミクス偽装」という標語に表れるように、政府批判の格好の材料としているようだ。経済運営に役立てるため、統計をどう改善するかの議論はあまり聞かれない

それにしても統計の取り扱いに、なぜ日米でかくも大きな差が生じるのか。米国の場合、キーワードは雇用だ。



◎うまく比較できてる?

上記のくだりは説明として苦しい。米国では「統計を通じて市場と当局が生き生きと対話している」のに日本は違うというならば分かる。日本では「経済運営に役立てるため、統計をどう改善するかの議論はあまり聞かれない」のに、米国では活発な議論があるという話でも成り立つ。

しかし、そういう比較にはなっていない。なのに「統計の取り扱いに、なぜ日米でかくも大きな差が生じるのか」と言われても困る。

「滝田編集委員は市場への理解が足りない」と確認できるのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

そんななか市場参加者や政策当局者は、もどかしさを感じていた。たとえ経済統計が好調だったとしても、事前の予想ほどではなかったなら、市場にガックリ感が出てしまう。反対に統計が多少振るわなくとも、事前の予想がもっと悪ければ、市場はホッと一息つくことになる。

つまり市場の反応は、統計の実績と事前の予測の綱引きだ。そこで予測と実績を比べどちらが上回ったかを数値化した「サプライズ(びっくり)指数」がある。予測と実績の差、すなわちサプライズが大きければ、市場参加者が大急ぎで取引を巻き戻し、株価や為替相場が急変する。



◎当たり前の話では?

経済統計が好調だったとしても、事前の予想ほどではなかったなら、市場にガックリ感が出てしまう」のは当たり前だ。「政策当局者」はともかく「市場参加者」でそこに「もどかしさを感じ」る人などいるのか(いてもわずかだろう)。
旧出島神学校(長崎市)※写真と本文は無関係です

サプライズが大きければ、市場参加者が大急ぎで取引を巻き戻し」という説明も引っかかる。ここで言う「巻き戻し」とはポジションの解消を指すのだろう。「サプライズ」に相場を動かす力はあるが、それは「巻き戻し」に限らない。新規の売買につながる場合も当然ある。

次の説明も引っかかった。

【日経の記事】

サプライズ指数は為替のトレーディングの手段として米シティグループが開発した。FRBもリアルタイムの市場心理を測る物差しとして注目し、13年11月に調査報告をまとめている。ここでも統計をめぐって市場と当局が対話を重ねているのである。

シティは欧州や日本についてもこの指数を算出しているが、18年後半からユーロ圏の不振が目立つ。この流れに抗しきれず欧州中央銀行(ECB)は、19年中に目指す政策金利の引き上げを、見送らざるを得なくなりつつある。

日本のサプライズ指数は米国の波に沿うように動いている。そこで日本の株価や円相場も米国の後を追うことになりがちで、残念ながら日本の指標にはあまり反応しない



◎辻褄が合わないような…

引っかかるのは「日本のサプライズ指数は米国の波に沿うように動いている。そこで日本の株価や円相場も米国の後を追うことになりがちで、残念ながら日本の指標にはあまり反応しない」という説明だ。まず「米国の波に沿うように動いている」感じがあまりない。

記事に付けたグラフを見ると17年の後半に日本は80に迫る上昇を見せるが、この時の米国はゼロ近辺だ。その後に日本がゼロ近辺に低下すると、米国が80を超える水準に上昇する。

18年には日本がマイナス50近くまで下げているのに、その時の米国はプラスを維持している。その後に日本が20を超えるところまで上昇するのとは逆に、米国は低下を続けマイナス圏へ落ちていく。

動きはあまり似ていないし、似ているとしても日本の方が先に動いているようにも見える。「サプライズ指数」の動きを基に市場が「日本の指標にはあまり反応しない」根拠を見出すのは難しいだろう。

記事の終盤にも注文を付けたい。

【日経の記事】

日銀は大規模な金融緩和で年2%の物価上昇率を目指しているが、副作用として、とりわけ債券市場の感度は鈍っている。市場がほとんど関心を寄せないようでは、統計に基づいた経済政策の運営といっても切実感に乏しい



◎「切実感に乏しい」?

市場がほとんど関心を寄せないようでは、統計に基づいた経済政策の運営といっても切実感に乏しい」という解説は謎だ。「統計に基づいた経済政策の運営」の必要性と市場の「関心」は切り離して考えるべきだ。

雇用政策を考える上では雇用関係の統計が重要になる。正しく状況を把握できなければ、適切な「政策」は打ち出しにくい。これは、雇用関係の統計を市場関係者が重視するかどうかとは別問題だ。

最終段落にもツッコミを入れておきたい。

【日経の記事】

10月に予定される消費税の再増税について、判断の時期が迫る。なのに足元の景気指標ではなく、過去の統計ばかり話題になる。前でなくバックミラーを見て車を運転しているようで奇妙だ



◎どちらも「過去」では?

足元の景気指標ではなく、過去の統計ばかり話題になる」と滝田編集委員は言うが「足元の景気指標」も基本的には「過去の統計」だ。例えば「足元」の完全失業率は2.4%だが、これは18年12月という「過去」の数値だ。

滝田編集委員は「前でなくバックミラーを見て車を運転しているようで奇妙だ」と言うが、どうなれば「奇妙」でなくなるのか。「足元の景気指標」に注目しても「前でなくバックミラーを見て車を運転している」状況は変わらない気がするが…。


※今回取り上げた記事「核心~統計『サプライズ』で動く
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190225&ng=DGKKZO41632020S9A220C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。滝田洋一編集委員への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。滝田編集委員については以下の投稿も参照してほしい。


日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_4.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_24.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_5.html

引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_32.html

引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_40.html

市場をまともに見てない? 日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_69.html

日経 滝田洋一編集委員「リーマンの教訓 今こそ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_16.html

市場への理解が乏しい日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_9.html

株式も「空前の低利回り」? 日経 滝田洋一編集委員の怪しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_19.html

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