玄海エネルギーパークの観賞用温室(佐賀県玄海町) ※写真と本文は無関係です |
「空飛ぶクルマ」が「痛勤一変」をもたらすと筆者は本気で信じているのだろうか。記事の全文を見た上でツッコミを入れていきたい。
【日経の記事】
勤勉なビジネスパーソンを悩ませる朝の通勤ラッシュ。この現代社会の問題をテクノロジーが解決してくれる日が近づいている。カギを握るのは「空飛ぶクルマ」がもたらす日々の移動の3次元化だ。
「トーキョーでも満員電車に乗る機会は減るだろう」。2015年設立のスタートアップ、ヴィマナ・グローバル(リヒテンシュタイン)。イブゲニ・ボリソフ最高経営責任者(CEO)は実証実験の現状を説明しながら予告する。
ヴィマナが開発中の空飛ぶクルマは標準タイプで4人乗り。8つのプロペラを備え、垂直に離着陸するため滑走路がない場所でも使える。パイロットは不要で、自動システムが他の機体と通信しながら衝突を回避する。試作機で飛行試験を進めており、20年以降に量産に乗り出すという。
現代の大都市では朝夕は自動車が渋滞を引き起こし、電車は通勤・通学客であふれかえる。「モビリティー(移動手段)が2次元から3次元に移行するのは必然だ」。ボリソフCEOは、地上のインフラが飽和した先に普及するのは、空を含めた3次元空間の移動だとみる。
米ボーイングや欧州エアバスから、ライドシェアの米ウーバーテクノロジーズ、中国のイーハンまで空飛ぶクルマの実現を目指す企業は多い。50年ごろには、見上げた空に多数のクルマが行き交っている光景が現実になっている可能性はある。
無人運転の空飛ぶクルマがオフィスまで連れて行ってくれるなら、通勤時間は大幅に短縮されそうだ。いま都内で働く人の平均通勤時間は40分ほど。この時間でオンライン学習をするか、映画を見るか。自己研さんに生かせるかでライバルと差が付く。「痛勤」から解放されても、新たな悩みが出てくるかもしれない。
◇ ◇ ◇
気になった点を列挙してみる。
(1)「空飛ぶクルマ」と言える?
そもそも「ヴィマナが開発中」の製品は「空飛ぶクルマ」と言えるのか。記事に付けた写真を見ると車輪は確認できないし、車幅が広すぎて公道を走れないように見える。
「垂直に離着陸するため滑走路がない場所でも使える」のはヘリコプターでも同じだ。「パイロットは不要で、自動システムが他の機体と通信しながら衝突を回避する」のだとしても「空飛ぶクルマ」より「自動運転のヘリコプター」に近い。
「空飛ぶクルマ」に明確な定義はないのだろうが、個人的には「公道で離発着できて公道を走れるクルマ」でないと苦しい気がする。
(2)「通勤時間は大幅に短縮」できる?
「無人運転の空飛ぶクルマがオフィスまで連れて行ってくれるなら、通勤時間は大幅に短縮されそうだ」と筆者は言う。本当にそう信じているのか。
早稲田アリーナ(東京都新宿区)※写真と本文は無関係です |
「50年ごろには、見上げた空に多数のクルマが行き交っている光景が現実になっている」としよう。日経の本社がある東京・大手町周辺も「空飛ぶクルマ」だらけだ。それで「通勤時間は大幅に短縮」できるのか。
「空飛ぶクルマ」が「プロペラを備え、垂直に離着陸する」としたら、巻き起こす風の問題があるので都心での「離着陸」はビルの屋上がほとんどになるだろう。仮に数百人の社員が「空飛ぶクルマ」で通勤するだけでも朝の屋上は混雑しそうだ。
そもそも数百台の「空飛ぶクルマ」をどこに収容するのかという問題も生じる。自動車での通勤さえ社員に認めていない都心の会社で「空飛ぶクルマ」での通勤ができるのか。
そう考えると「『空飛ぶクルマ』を使うより電車通勤の方が早いし確実。離発着のスペースもないし…」といった話になりそうだ。
なのに、なぜか「勤勉なビジネスパーソンを悩ませる朝の通勤ラッシュ。この現代社会の問題をテクノロジーが解決してくれる日が近づいている」と筆者は言い切ってしまう。これが「空飛ぶクルマ」という言葉の持つ力なのか。
(3)結局、今と同じでは?
「いま都内で働く人の平均通勤時間は40分ほど。この時間でオンライン学習をするか、映画を見るか。自己研さんに生かせるかでライバルと差が付く。『痛勤』から解放されても、新たな悩みが出てくるかもしれない」と記事の最後に出てくる。
これは今も同じではないか。電車通勤を前提に考えれば、今でも「この時間でオンライン学習をするか、映画を見るか。自己研さんに生かせるかでライバルと差が付く」。自分では運転しないのだから、自動運転の「空飛ぶクルマ」でも電車通勤でも、乗っている間に「オンライン学習」はできる。
百歩譲って「空飛ぶクルマ」で通勤時間が短縮できるとしても、大きな変化はない。自宅でも電車内でも「オンライン学習」は可能だ。
※今回取り上げた記事「新幸福論 Tech2050~空飛ぶクルマ 3次元移動、痛勤一変」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190104&ng=DGKKZO39583310Q8A231C1TJC000
※記事の評価はD(問題あり)。連載全体の評価もDとする。今回の連載に関しては「渡辺康仁、前村聡、西岡貴司、上阪欣史、鈴木輝良、堀田隆文、新井重徳、生川暁、加藤宏志、川上尚志、栗本優、小園雅之、佐藤亜美、佐藤初姫、佐藤浩実、高尾泰朗、舘野真治、深尾幸生、丸山大介、宮住達朗、村越康二、八木悠介、兼松雄一郎、細川倫太郎、強矢さつきが担当します」と出ていた。「渡辺康仁」氏を連載の責任者だと推定し、同氏への評価を暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「産業革命」の説明に矛盾あり 日経正月企画「新幸福論Tech2050」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/tech2050.html
説明が成立してない日経1面「新幸福論 Tech2050(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/tech20504.html
「ブロックチェーンで銀行口座」の説明が苦しい日経「新幸福論 Tech2050」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/tech2050_6.html
失敗作と評価するしかない日経正月企画「新幸福論 Tech2050」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/tech2050_8.html
※渡辺氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
日経1面連載「砂上の安心網」取材班へのメッセージ
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/02/blog-post_22.html
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