2018年12月20日木曜日

「首相官邸の意向」週刊ダイヤモンドが同じ号で矛盾する説明

産業革新投資機構」の報酬問題で「首相官邸」はどういう意向を持っていたのか。「報酬が『(最大で)1億円を超えるのか……』という首相官邸の何げない感想」を経産省が「過剰に忖度」しただけなのか。それとも「首相官邸」は明確な「怒り」を持ち「敏感に反応した」のか。
小石川後楽園(東京都文京区)
      ※写真と本文は無関係です

週刊ダイヤモンド12月22日号では、この件の事実関係に関して2つの記事で全く異なる説明をしている。編集部には以下の内容で問い合わせを送った。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド 中村正毅様 藤田章夫様 村井令二様

12月22日号の「DIAMOND REPORT 取締役9人が一斉辞任~巨大官民ファンド機能不全の全内幕」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

それはさておき、JICの報酬委員会がキャリーなどの議論を始めたのは、書面を受け取った翌営業日の9月25日。コーポレートガバナンスの専門家で、JICの社外取締役を務める冨山和彦委員長の主導の下、約1カ月かけて報酬基準を策定したという。その後、坂根氏に報告し、正式に機関決定したのが11月6日のことだ。ところが、この直後に経産省が豹変する。報酬が『(最大で)1億円を超えるのか……』という首相官邸の何げない感想を過剰に忖度し、減額指示だと受け止めた経産省は突如、取締役の報酬案について白紙撤回したのだ

上記の説明は同じ12月22日号の「後藤謙次 永田町ライヴ!Number 418 産業革新投資機構が空中分解~政権内の意思疎通の欠如を露呈」という記事の内容と整合しません。「永田町ライヴ!」では以下のように記しています。

なぜ経産省は報酬案を撤回したのか。きっかけは11月3日付の『朝日新聞』が報じた記事にあったようだ。『官民ファンド 高額報酬』この報道に敏感に反応したのが首相官邸だった。『ファンドで一番難しいのは資金集めだ。その資金集めをやらずに原資は国が税金から出す。1億円もの高額報酬は国民に説明がつかない』『官房長官は庶民感覚を極めて重視する政治家だ。そこが怒りの震源地だ』官房長官の菅義偉に近い自民党幹部はこう語る

こちらを信じれば「首相官邸」は「1億円もの高額報酬」に対して明確な「怒り」を持っていたことになります。どちらかの記事の説明が間違っているはずです。どう理解すべきなのか教えてください。

永田町ライヴ!」の筆者は「後藤謙次」氏ですが、週刊ダイヤモンドの同じ号に載せるのならば事実関係は整合させるべきです。他社の報道を見ると「永田町ライヴ!」の説明の方が多数派のようです。御誌の2本の記事を比べても「永田町ライヴ!」の方がしっかり取材している印象はあります。なので「DIAMOND REPORT」の説明に誤りがあるのではと推測しています。

せっかくの機会なので「DIAMOND REPORT」に関する他の疑問点も挙げておきます。

(1)「重大な問題」はどこへ?

記事には「この日、JICのオフィスを訪れた経産省の糟谷敏秀官房長は、田中社長をはじめとする代表取締役を1人ずつ呼び出し、仰々しく書面を手渡した。代表取締役たちは深々と礼をしながら受け取ったが、その書面には政府のお墨付きを得たことを示す経産相の印鑑が押されていなかった。それが後に重大な問題を引き起こすことになる」との記述があります。
道の駅くにみ(大分県国東市)※写真と本文は無関係です

しかし、記事を最後まで読んでも「経産相の印鑑が押されていなかった」ためにどんな「重大な問題」が起きたのか不明です。これは困ります。


(2)「いったん受け入れ」たのなら…

記事では「事態は混迷を深め、11月9日には嶋田次官がJICを訪れて田中社長に撤回について陳謝。だが、『信義にもとる行為だ』などと田中社長が激しく面罵することとなった」と記しています。これだと「田中社長」が「撤回」を受け入れた感じはありません。

しかし、記事に付けた表を見ると、「撤回」について「11月9日」に「田中社長はいったん受け入れ」と出てきます。記事では基本的に「経産省」を悪玉、「田中社長」を善玉として描いています。しかし、「いったん受け入れ」たのに、「田中社長」が態度を変えたのであれば、話は変わってきます。それだと困るので「面罵」だけで話を展開させたのではありませんか。


(3)どこが「話が違う」?

荒井ペーパー」に関する説明も理解に苦しみました。当該部分は以下のようになっています。

<記事の引用>

東京都内の帝国ホテル。会合に参加したのは、経産省からは嶋田次官、荒井勝喜大臣官房総務課長、佐々木啓介産業創造課長と同課の担当課長補佐の4人。一方のJIC側は、田中社長と社長室長、経産省出身の三浦章豪氏と財務省出身の齋藤通雄氏の両常務取締役の同じく4人だった。

先手を打ったのは経産省側だ。A4判12枚に及ぶペーパーを参加者に配り、なぜかこれまでJICとの議論に一度も参加したことのない、経産省で国会担当を務める荒井課長が説明を始めた。

ペーパーのタイトルは「基本的考え方」。書類をめくると、取締役の報酬を最大3150万円に大幅に減額することや、孫ファンドにも事実上認可を必要とすることなど、これまでの議論と全く異なる内容がふんだんに記されていた。とりわけ田中社長らの神経を最も逆なでしたのは、表紙にある「総論」部分の記述だった。

「事業遂行の基本哲学」として、(1)政策目的の達成と投資利益の最大化、(2)政府としてのガバナンス(ファンドの認可など)と現場の自由度(迅速かつ柔軟な意思決定の確保)の両立、(3)報酬に対する国民の納得感、透明性と優秀なグローバル人材の確保(民間ファンドに比肩する処遇)の両立という三つの論点が書かれていたのだ。

さらに官民ファンドの手法として、投資ファンドが日常的に行っているデリバティブ取引を禁じただけでなく、インデックス投資、不動産投資はリスクヘッジ目的でない限り認めないといった、当たり前過ぎることもご丁寧に記されていたのだ。

JIC側とすれば、そうした哲学について十分に理解した上で、幾度も議論を重ねてきた。にもかかわらず、これまでの議論を半ば無視するかのように国会担当者があらためて論点を提示し、まるで「おまえたちは政治に従っていればいい」と言わんばかりの態度だったという。

会合は2時間に及んだものの、そうした状態で不信と嫌悪という感情だけが交錯し、まともな議論には到底ならなかった。

「話が違う! このままではJICを育てることはできない!」。田中社長がそう怒りをあらわにし、最後は席を蹴ったことで両者の対立はついに決定的なものになった。

--引用はここまでです。

田中社長らの神経を最も逆なでしたのは、表紙にある『総論』部分の記述だった」と書いてあるので、「田中社長」が「怒りをあらわ」にした主な原因も「総論」にあるはずです。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
   ※写真と本文は無関係です

しかし「総論」で触れた「事業遂行の基本哲学」に関しては「そうした哲学について十分に理解した上で、幾度も議論を重ねてきた」と説明しています。だとすれば「話が違う! このままではJICを育てることはできない!」との発言とは整合しません。

総論」に関しては「当たり前過ぎることもご丁寧に記されていた」かもしれませんが、これも「話が違う」には結び付きません。強いて挙げれば「デリバティブ取引を禁じた」ことでしょうか。しかし、それだけで「話が違う! このままではJICを育てることはできない!」となるでしょうか。

さらに言えば「取締役の報酬を最大3150万円に大幅に減額することや、孫ファンドにも事実上認可を必要とすることなど、これまでの議論と全く異なる内容がふんだんに記されていた」との説明も解せません。

荒井ペーパー」が出てきたのは「11月24日の会合」です。「11月9日には嶋田次官がJICを訪れて田中社長に撤回について陳謝」し、「田中社長はいったん受け入れ」たのであれば、「取締役の報酬を最大3150万円に大幅に減額すること」は「これまでの議論と全く異なる内容」とは言えません。むしろ、これまでの話し合いに沿った「内容」です。

全体として「強引に経産省を悪者にしている」との印象を受けました。「JIC」側が取材に協力的だったので、それに引っ張られたのではと推測しています。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「DIAMOND REPORT 取締役9人が一斉辞任~巨大官民ファンド機能不全の全内幕
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/25327


※記事の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。

中村正毅(暫定C→暫定D)
藤田章夫(Dで確定)
村井令二(Dを維持)

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