由布岳登山口(大分県) ※写真と本文は無関係 |
【エコノミストへの問い合わせ】
週刊エコノミスト編集部 種市房子様
12月25日号の「商社の深層128~住商の北米鋼管事業 流通網改革で収益改善」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは最初の段落です。種市様は以下のように記しています。
「最近3年ほど、住友商事の懸案だった鋼管事業の業績が回復している。売り上げや取り込み損益、配当収入などを合計した『基礎収益』は、2018年度中間期(4~9月期)決算で98億円。期初の通期予想(100億円)を上回るペースで推移している」
住商の決算関連資料では「基礎収益=(売上総利益+販売費及び⼀般管理費(除く貸倒引当⾦繰⼊額)+利息収⽀+受取配当⾦)×(1-税率)+持分法による投資損益」となっています。だとすると「基礎収益」は「売り上げや取り込み損益、配当収入などを合計した」のではなく「売上総利益や取り込み損益、配当収入などを合計した」のではありませんか。
「基礎収益」では販管費も考慮しているので、「営業利益に取り込み損益や配当収入も加味した『基礎収益』」と書いても大筋では合っています。しかし「売り上げ~などを合計」は苦しいでしょう。
記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。
上記の段落には他にも問題があります。
(1)「最近3年ほど業績が回復」と読めます
「最近3年ほど懸案だった」と種市様は伝えたいのでしょう。しかし、読点の関係もあり「最近3年ほど業績が回復している」と理解する方が自然な書き方になっています。例えば「2015年から住友商事の懸案となっていた鋼管事業の業績がここに来て回復している」とすれば問題は解消します。
(2)前年同期との比較がありません
「中間期」の実績を「期初の通期予想」と比べても「回復している」かどうか分かりません。例えば、前の「中間期」の「基礎収益」が200億円だった場合、「2018年度中間期」が「98億円」となっても「回復」とは言えません。どの数字と比べるべきかは慎重に検討すべきです。
最初の段落以外の問題点にも触れておきます。
(3)「悪循環」になってますか?
記事には「15年に入ると原油価格が急落→資源開発がストップ→鋼管需要減という悪循環に見舞われた」との説明が出てきます。これでは「悪循環」とは言えません。「悪循環」とは「ある事柄が他の悪い状態を引き起こし、それがまた前の事柄に悪影響を及ぼす関係が繰り返されて、事態がますます悪くなること」です。
「鋼管需要減」→「原油価格が急落」という流れがあるのならば「悪循環」で問題ありません。しかし、そうは書いていません。「鋼管需要減」が「原油価格」を押し下げる力は、仮にあってもかなり小さいでしょう。
(4)資源価格に左右されるのでは?
「鋼管事業は資源価格、ひいては資源開発数の上下動によって収益が変動する。住商は15年からの原油価格低迷時に、資源価格の変動に左右されないよう構造改革を断行した」と種市様は述べていますが、その内容を見る限り「資源価格の変動に左右されない」とは思えません。
記事では「柱は問屋網の立て直しだ。北米にはエジェン▽パイプコ▽プレミア・パイプ▽ピラミッドの四つの問屋運営子会社・関連会社があった。まず、エジェンの油井管部門である『B&L』を外に出してパイプコと統合し、重複部分を統廃合した。残るプレミア・パイプ、ピラミッドについても在庫や人員を絞り込んだ」と説明しています。「重複部分を統廃合した」としても「油井管部門」を残すのであれば「収益」は「資源価格の変動に左右され」るはずです。
記事では「そのうえで、今年に入り、三井物産から『チャンピオン・シンコ・パイプ・アンド・サプライ』を買収した。一見、統廃合した問屋網をまた増やすようにも見える。しかし、チャンピオン社は、有力鋼管メーカー『バローレック・スター』(仏バローレックと住友商事の合弁)の指定問屋でもあり、独自の高機能製品を供給できる。また、チャンピオン買収による北米での住商全体のシェア拡大→顧客・仕入れ先との価格交渉力アップという狙いも垣間見える」とも書いています。ここからも「資源価格の変動に左右されないよう構造改革を断行した」様子は見えてきません。
住商としては「資源価格の変動に左右されないよう構造改革を断行した」のではなく「資源価格の変動に耐えられるように構造改革を断行した」のではありませんか。
問い合わせは以上です。回答をお願いします。「基礎収益」の説明は誤りであれば、次号で訂正を掲載してください。間違い指摘に対してどう対応すべきか種市様は既に分かっているはずです。問題は実行できるかどうかです。読者に対して誠実な書き手であろうとすれば、苦しくても正しい道を選ぶしかありません。
「種市様ならば、きっと期待に応えてくれる」。一読者として、そう信じています。
◇ ◇ ◇
追記)結局、回答はなかった。
※今回取り上げた記事「商社の深層128~住商の北米鋼管事業 流通網改革で収益改善」
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20181225/se1/00m/020/045000c
※記事の評価はD(問題あり)。種市房子への評価もDを据え置く。種市記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。
事前報道に懐疑的な週刊エコノミスト種市房子記者に期待
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/04/blog-post_12.html
不足のない特集 週刊エコノミスト「固定資産税を取り戻せ」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/05/blog-post_6.html
英国EU離脱特集 経済4誌では週刊エコノミストに軍配
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_7.html
一読の価値あり 週刊エコノミスト「ヤバイ投信 保険 外債」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_20.html
これで「バブル」? 週刊エコノミスト「電池バブルがキター」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/02/blog-post_7.html
「独占」への理解が不十分な週刊エコノミスト種市房子記者
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_17.html
「自社株買い=株式希薄化」? 週刊エコノミスト種市房子記者の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_19.html
「人格攻撃やめて」と訴える週刊エコノミスト種市房子記者に贈る言葉
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_21.html
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