2018年11月16日金曜日

「減り続けるATM」に無理がある日経ビジネス藤村広平記者

企画を立てて記事を書く時にはストーリーを想定する必要がある。行き当たりばったりの取材では、まともな記事にはなりにくい。だからと言って想定にこだわり過ぎてもダメだ。
渋谷モディ(東京都渋谷区)
      ※写真と本文は無関係です

日経ビジネス11月12日号に載った「SPECIAL REPORT 『現金難民』に救いの手~減り続けるATM、『お金が下ろせない』に対応」という記事は「減り続けるATM」「現金難民」という想定への固執が垣間見える。結果として「減り続けるATM」も「現金難民」も無理のある説明になってしまった。

この件での日経ビジネス編集部への問い合わせと、それに対する回答は以下の通り。

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 藤村広平様

11月12日号に載った「SPECIAL REPORT 『現金難民』に救いの手~減り続けるATM、『お金が下ろせない』に対応」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは、見出しの「減り続けるATM」にも関連する以下のくだりです。

<記事の当該部分>

国内のATMの設置台数は減少している。メガバンクを含む都市銀行が設置しているのは17年時点で2万6034台。13年と比べると1000台減っている。三菱UFJ銀行や三井住友銀行は今年春、ATMの共同利用を検討すると明らかにしており、削減は今後本格化しそうだ。

地方銀行も事情は同じ。地銀のATMも17年に4万6186台と、過去10年で3000台近く減っている。この傾向は変わっていない。京都銀行は今後、全体の15%にあたる150台、西日本シティ銀行も同20%にあたる約300台を1年半で削減する方針を今夏以降、相次ぎ表明した。

従来はコンビニがATMを増やし、銀行のATMや店舗の統廃合を補ってきた。確かにセブン銀行など主要4社の設置台数は18年春の時点で約5万6000台と、10年前より2倍に増えている。

--ここからが質問です。

記事では「国内のATMの設置台数は減少している」と書いていますが、辻褄が合いません。単純に増減を見ると「都市銀行」が「1000台減って」いて、「地方銀行」も「3000台近く減って」います。一方で「コンビニ」は「2倍に増えている」ので約2万8000台の増加です。合算すると2万4000台の増加となります。

記事では「都市銀行」だけ「13年と比べ」ているので、10年前との比較で揃えてみましょう。記事に付けたグラフから判断すると17年は07年比で1000台弱の増加のようです。つまり、10年前と比べると「都市銀行」「地方銀行」「コンビニ」の合計で約2万6000台の増加となります。

国内のATMの設置台数は減少している」との説明は誤りではありませんか。記事のデータを信じれば、10年前に比べて「国内のATMの設置台数」は「増加」しています(信金・信組などは、ここでは考慮しません)。

付け加えると「都市銀行」だけ「13年と比べる」のは感心しません。「本来ならば比較する時期を揃えるべきだ」と藤村様も分かっているはずです。しかし、10年前との比較では「都市銀行」のATM設置台数が増えてしまうので「13年と比べ」てしまったのではありませんか。この手のご都合主義的なデータの見せ方を続けていると、結局は記事や書き手への信頼性を損なってしまいます。

せっかくの機会なので、記事の冒頭に出てくる八丈島の事例にも注文を付けておきます。「『現金難民』が地方の課題になりつつある」例として「八丈島」の話を取り上げたのでしょうが、中身は説得力に欠けます。記事は以下のようになっています。

<記事の当該部分>

午後5時45分に会社の終業時刻を迎えるや否や、猛ダッシュでバイクに飛び乗る。向かう先は勤務先近くにある銀行のATM。口座から当面の生活費を下ろせたら、ほっと胸をなで下ろす……。東京・八丈島に暮らす長田麻耶さん(20)にとって、これが今年夏までの当たり前の日常だった。

最盛期に1万2000人を超えた島民は7500人まで減り、一部の金融機関は営業体制を縮小。島内のATMは地元信用組合やゆうちょ銀行、出張所を置くみずほ銀行などの8台まで減った。平日でも全て午後6時には稼働を終え、都会なら当たり前のコンビニエンスストアもない。

島にはクレジットカードや電子マネーを受け付けない商店も多く、現金がなければ買い物はできなくなる。ATMの終了時刻に間に合わなければ、その日の夕飯すら危うくなりかねない。だから「仕事を終えた夕方は、いつもバタバタでした」と、長田さんは話す。

--ここから疑問点を挙げていきます。

(1)なぜ昼休みに利用しない?

長田麻耶さん(20)」はなぜ昼休みにATMを利用しないのでしょうか。「勤務先近くにある銀行のATM」ならば、時間的にも問題はないと思えます。


(2)なぜ頻繁にATMを使う?

仕事を終えた夕方は、いつもバタバタ」というコメントから判断すると「長田さん」は平日にはほぼ欠かさずATMを利用していたのでしょう。「会社の終業時刻」から「ATMの終了時刻」まで15分しかないのに、そこまでこまめに現金を引き出すのは、かなり不自然です。


(3)なぜ土日に利用しない?

調べてみると、島内の七島信用組合や三根郵便局では土日もATMが使えるようです。土日に1週間分の生活費を引き出しておけば「仕事を終えた夕方」に「いつもバタバタ」する必要はなさそうです。なぜそうしないのか謎です。
長崎鼻(大分県豊後高田市)
       ※写真と本文は無関係です

島民は7500人」のそれほど大きくない島に「8台」のATMがあって、一部は土日にも使えるとなれば「現金難民」と呼ぶほどの状況にはなりそうもありません。

付け加えると「ATMの終了時刻に間に合わなければ、その日の夕飯すら危うくなりかねない」との説明も大げさではありませんか。

八丈島観光協会のホームページによると、「スーパーあさぬま」「八丈ストア」といった島内のスーパーではクレジットカードが使えるようです。「長田さん」も「ATMの終了時刻に間に合わな」い時には、カード払いで食材を買えます。

『現金難民』が地方の課題になりつつある」と決めてしまったために、話に無理が生じていませんか。「現金難民は、四方を海に囲まれた八丈島だけに限った問題ではない」と藤村様は書いていますが、「八丈島」でも大した「問題」ではない気がします。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【日経BP社の回答】

弊誌「日経ビジネス」をご愛読いただき、誠にありがとうございます。

11月12日号のスペシャルリポート「『現金難民』に救いの手」にお問い合わせいただいた件につきまして、回答いたします。

記事中、「国内のATMの設置台数は減少している」との記述についてご指摘をいただきました。当該部分の前段より銀行の事情について触れてきた流れを受け、銀行のATMを念頭に「減少している」といたしました。しかしながら、コンビニエンスストア設置のATMなどを含めると増加しているのはご指摘の通りです。今後はより厳密な表現をするよう注意して参ります。

また、八丈島の事例についての疑問もいただきました。取材対象者の生活スタイルなどを踏まえた実感を基に記述いたしましたが、誌幅の都合やプライバシーに関わる部分もあるため、伝わりにくい部分があったかもしれません。ご指摘を参考に今後、意図が伝わるよう配慮して参りたいと思います。

ご意見をありがとうございました。

よろしくお願い申し上げます。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「SPECIAL REPORT 『現金難民』に救いの手~減り続けるATM、『お金が下ろせない』に対応
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/262664/110500267/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。藤村広平記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。藤村記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

読むに値しない日経ビジネス藤村広平記者の「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_30.html

瑣末な問題あるが日経ビジネス「コンビニ大試練」を高評価
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_28.html

Jフロントは保育事業に参入済み? 日経ビジネスの見解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_12.html

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