2018年11月1日木曜日

どこが「7年越しの決断」? 週刊ダイヤモンド鈴木洋子記者に問う

週刊ダイヤモンドの鈴木洋子記者が11月3日号に書いた「Inside~積年の課題事業をようやく売却へ 岐路に立つキリン海外事業」という記事は苦しい。冒頭で「まさに7年越しの決断である」と打ち出したものの、なぜ「7年越し」と言えるのかは教えてくれない。
伐株山(大分県玖珠町)※写真と本文は無関係

記事の前半は以下のようになっている。

【ダイヤモンドの記事】

まさに7年越しの決断である。キリンホールディングス(HD)は、低迷が続いていた豪総合飲料子会社、ライオンの飲料事業の売却を決めた。売却先や金額等は今後詰める。

そもそもキリンの海外事業のほころびは、ライオンの飲料事業のつまずきから始まった。発端は2007年と08年に当時3780億円(負債込み)で豪1位と2位の乳業メーカーを買収したことだった。この買収は当時計画していた、豪清涼飲料トップのコカ・コーラ・アマティルの買収をもって完成するパーツの一部だった。乳業・果汁でシェアを固めて価格決定力を強め、コカ・コーラの販売網を利用し東南アジアにも拡販するというシナリオだった。だが、コカ・コーラの買収が頓挫し、乳業事業は宙に浮いた。

ライオンは飲料事業で10年度にのれん代388億円を減損処理。その後、赤字こそ出してはいないものの、計画値の下方修正が続き、17年度は売上高1534億円に対して営業利益はわずか54億円。一方酒類事業は、1953億円の売上高で545億円の利益を稼いでおり、飲料事業は同社の“お荷物”となっていた。

近年では看板の加糖乳飲料商品でシェアを伸ばすなどの健闘もあったものの、豪大手スーパーのPB(プライベートブランド)に乳飲料市場全体の価格決定権を握られており、当初のもくろみは完全に外れていた。



◎分かるように書かないと…

まさに7年越しの決断である」と書くのならば、その直後に「7年越しの決断」だと読者を納得させる説明が要る。しかし、そんな話は出てこない。「2007年と08年に当時3780億円(負債込み)で豪1位と2位の乳業メーカーを買収した」と10~11年前から振り返り始め、「7年越しの決断」と言える理由に触れないまま話が進んでいく。

鈴木記者は「10年度にのれん代388億円を減損処理」した時点から「7年越しの決断」だと言いたいのかもしれない。だが、そうは書いていない。

付け加えると「豪大手スーパーのPB(プライベートブランド)に乳飲料市場全体の価格決定権を握られており、当初のもくろみは完全に外れていた」という説明も理解に苦しむ。
別府駅(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

コカ・コーラの買収が頓挫し、乳業事業は宙に浮いた」ために「価格決定権」を握れなかったと鈴木記者は考えているようだ。しかし、「豪清涼飲料トップのコカ・コーラ・アマティル」は「乳飲料市場」とは関係ないと思える。

豪1位と2位の乳業メーカーを買収」しても「豪大手スーパーのPB(プライベートブランド)に乳飲料市場全体の価格決定権を握られて」いるのに、「豪清涼飲料トップのコカ・コーラ・アマティル」を加えると「乳飲料」の「価格決定権」を握れるのか。「コカ・コーラ」が「乳飲料」も手掛けているのならば、その説明が要る。

今回の記事は色々な意味で説明が足りていない。

ついでに記事の後半も見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

キリンHDは2000年代中盤、食品業界の巨額M&A攻勢の先兵となってきた。しかし、振り返ってみればその内容は拙速なものが多かった。

11年に約3000億円で買収したブラジルのスキンカリオール(ブラジルキリン)は、15年度には上場来初となる473億円の当期赤字の元凶となってしまった。

そもそもスキンカリオールは、圧倒的なシェアを持つ1位企業から大きく離された2位企業だった。当時「かなり前にうちにも持ち込まれたが却下した」(ビール大手首脳)案件を、後から高値でつかんでしまった。結局ブラジルキリンは17年に取得時の半値以下で売却するに至る。

だが、海外の課題事業を切ったキリンHDの業績は、幸いなことに回復基調にある。ライオン酒類事業の好調で、17年度の海外事業の事業利益(のれん代等の償却前の営業利益)は、連結の33%以上に達した。

成長を海外に求めた一連の取り組みが、頓挫の経験も含めて“一周”した18年。キリンHDは何を学び、何を次の成長の柱として狙うのか。東南アジアで各社が狙っていた大型買収案件はほぼ売り先が決まり、“買い物リスト”の残りは少なくなっている。前任社長2人の買収の後始末を終えた磯崎功典社長の次の一手が待たれる


◎取材はしてない?

キリンHDは何を学び、何を次の成長の柱として狙うのか」と書いているが、鈴木記者はそれをキリン関係者に取材していないのか。「キリンHD」が「ライオンの飲料事業の売却」に関する発表をしたのは10月10日だ。そこから記事の締め切りまで2週間程度の時間があったはずなのに、何も聞かなかったのか。

九重"夢"大吊橋(大分県九重町)※写真と本文は無関係です
今回の記事で取材の跡が見えるのは「ビール大手首脳」のコメントぐらいだ。これも「ライオンの飲料事業の売却」に関する発表を受けて取材したものとは限らない。

しかも記事の結論は「前任社長2人の買収の後始末を終えた磯崎功典社長の次の一手が待たれる」という「成り行き注目」型だ。説明は下手で、キリンHDへの取材の跡は伺えない。そして結論が「次の一手が待たれる」では、記事として評価できる点が見当たらない。

こんな説明が雑で取材にも手抜きが目立つ記事を書くために記者をやっているのか。鈴木記者にはそこをしっかり考えてほしい。


※今回取り上げた記事「Inside~積年の課題事業をようやく売却へ 岐路に立つキリン海外事業
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/24924


※記事の評価はD(問題あり)。鈴木洋子記者への評価はDを据え置く。鈴木記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

ソニーの例えが下手な週刊ダイヤモンド鈴木洋子記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_19.html

週刊ダイヤモンド鈴木洋子記者のヨイショ記事に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_11.html

0 件のコメント:

コメントを投稿