2018年9月6日木曜日

東洋経済「西友の適正価格」算出と説明に問題あり

週刊東洋経済9月8日号に載った「ニュース深掘り~西友売却の行方 資産価値を独自検証 西友の“適正価格”は?」という記事を読むと、筆者ら(梅咲恵司記者と松浦大記者)が手間をかけて「資産価値を独自検証」したのは分かる。ただ、その労が報われて完成度の高い記事に仕上がっている訳ではない。むしろ「“適正価格”」の算出と説明に問題が目立つ。
芥屋の大門(福岡県糸島市)※写真と本文は無関係

東洋経済編集部には以下の内容で問い合わせを送った。

【東洋経済への問い合わせ】

週刊東洋経済 編集部 梅咲恵司様 松浦大様

9月8日号の「ニュース深掘り~西友売却の行方 資産価値を独自検証 西友の“適正価格”は?」という記事についてお尋ねします。

記事に付けた表では、西友が関東で自社保有する23店舗を一覧にした上で「都心に保有する資産はそれほど多くない」とのタイトルを付けています。これを信じれば、西友は都心にある程度の資産を保有しているはずです。

都心」の定義は明確ではありませんが、ここでは「都心=東京都心」とし、範囲を広く見て「東京都心都心5区(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)」との前提で話を進めます。

表に載せた店舗のうち、23区内にあるのは「新小岩店、クッターナ(葛飾区)」「赤羽店(北区)」「三軒茶屋店(世田谷区)」「高野台店(練馬区)」「下高井戸店(世田谷区)」「石神井公園店(練馬区)」「関町店(練馬区)」「下丸子店(大田区)」だけです。つまり、都心5区に店はありません。

梅咲様と松浦様は東京で働いているので分かると思いますが、常識的に考えてもこれらの店のある場所を「都心」とは言わないはずです。店舗ベースで考えれば「都心に保有する資産はそれほど多くない」ではなく「都心に保有する資産はない」とすべきではありませんか。

もう1つ指摘しておきます。以下のくだりについてです。

売却先として、GMS(総合スーパー)大手のイオンやイトーヨーカドーを運営するセブン&アイ・ホールディングス、8月から共同でネットスーパーを始めた楽天などが取りざたされる

この書き方だと「セブン&アイ・ホールディングス」が「GMS(総合スーパー)大手のイオンやイトーヨーカドーを運営する」と取れます。「GMS(総合スーパー)大手のイオンや、イトーヨーカドーを運営するセブン&アイ・ホールディングス」と読点を入れるべきです。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

ここからは記事の感想を述べてみます。まず店舗価値についてです。ここでは2つの疑問が湧きました。

そこで本誌では西友の資産状況の把握を試みた。関東145店の不動産登記簿をほぼすべて取得し、土地の所有形態を調べた。自社物件と判明したのは23店。確認できた土地面積に2018年度の路線価を掛け合わせ、不動産価格を算出したものが右表だ」と記事では書いています。

しかし「ウォルマートの年次報告書には、店舗の総面積は196.7万平方メートルで、自社物件が56店とある」のならば「56店」の「不動産価格を算出」すべきでしょう。

地方にも33店の自社物件があり、北海道の手稲店や京都の山科店、福岡の春日店などが自社物件であることが確認できた。ただ、資産の中心は関東だろう」と弁明はしています。関東以外の比率が全体の数%ならば無視してもよいでしょう。しかし関東の「23店」に対し関東以外が「33店」ならば、これを考慮せずに「不動産価格を算出」しても、あまり意味がありません。

手間がかかるのは分かります。しかし、やるなら徹底的にやるべきです。難しいのならば、全面的に諦めるのが得策でしょう。中途半端は良くありません。

また「確認できた土地面積に2018年度の路線価を掛け合わせ、不動産価格を算出した」との説明にも疑問を抱きました。建物の価値は無視してよいのでしょうか。「建物の価値はほとんどない」「建物はほとんど自社保有ではない」といった事情があるのならば、その点を記事に盛り込むべきです。

さらに引っかかったのが以下のくだりです。

西友の業績にはさまざまな見方があるが、本誌の取材によると、16年度の売上高は約7800億円、営業利益は100億円近くとみられる(単独決算ベース)。西友は老朽化した店舗が多く、建物の償却費はそれほど大きくないと推定できる。となれば、EBITDA(減価償却前の利益)は100億円+α。その10倍を事業面から期待できるCFとすれば、西友の企業価値は1000億円強となる。実は、ウォルマートの年次報告書によると、西友には18年1月時点で1800億円の長期借入金がある。買収の際には一定のプレミアムを乗せるのが通常だが、3000億円という数字は、この借入金の肩代わりを含めた額ではないか

その10倍を事業面から期待できるCFとすれば、西友の企業価値は1000億円強となる」と書いていますが、なぜ「10倍」という数字を使うのか説明がありません。これでは困ります。「事業面から期待できるCF」を「10倍」に設定する理由は入れるべきです。

あくまで推測ですが「EV/EBITDA倍率で10倍までが買収の適正価格とされるから」との判断で「10倍」としたのではありませんか。

この場合「EV(企業価値)=株式時価総額+純有利子負債額」となります。「西友には18年1月時点で1800億円の長期借入金がある」と書いてあるので、純有利子負債はこれより100億円少ない1700億円と仮定しましょう。EBITDAを仮に110億円とすると、この10倍は1100億円です。株式時価総額をゼロとしてもEV/EBITDA倍率は10倍を軽く超えるので割高となります。

買収の際には一定のプレミアムを乗せるのが通常だが、3000億円という数字は、この借入金の肩代わりを含めた額ではないか」の意味するところは分かりにくいのですが、借入金を肩代わりするのは買収する側で「買収額=株式取得額+純有利子負債額」との前提で考えると、買収額が3000億円であれば、株式取得額は1300億円となります。「借入金の肩代わりを含めると株式取得額はゼロでも割に合わないのに、プレミアムを付けて1300億円で取得する。ゆえに買収額3000億円という数字になる」との趣旨であれば辻褄が合います。

繰り返しますが、あくまで推測です。「西友の“適正価格”」が記事のテーマなので、算出に関する説明はしっかりしてください。今回はそれができているとは思えません。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「ニュース深掘り~西友売却の行方 資産価値を独自検証 西友の“適正価格”は?
https://dcl.toyokeizai.net/ap/registinfo/init/toyo/2018090800


※記事の評価はD(問題あり)。梅咲恵司記者への評価はDで確定とする。松浦大記者は暫定でDとする。梅咲記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

ミナミはキタより「1カ所集中」と東洋経済 梅咲恵司記者は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_13.html

「断トツ」が3施設? 14位でも「三大SC」? 東洋経済に問う
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/14sc.html

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