2018年9月12日水曜日

日経九州経済面「ウエスト、東南ア出店拡大」に足りないもの

12日の日本経済新聞朝刊 九州経済面に載った「ウエスト、東南ア出店拡大 5年で50店に」という記事は、入れるべき情報が抜ける一方で不要な記述が目立った。記事の全文を見た上で具体的に指摘したい。
農業公園ファームパーク伊都国(福岡県糸島市)
         ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

うどん店などを展開するウエスト(福岡市、若山和夫社長)は東南アジアへの出店を加速する。すでにそば店などを展開するタイで業態を増やすほか、新たにフィリピンやベトナムなどに進出。現在は6店舗にとどまるが、5年後に50店体制を目指す。日本食レストランの市場が拡大し、人口も増える東南アジアで店舗網を広げ需要を取り込む

2019年2月にタイの首都バンコクで新たに中華料理の業態を出店する。ウエストは現在、バンコクでそば店「あずま」や焼肉店など6店を展開しており、中華の業態は初めて。同月開業予定の商業施設内に出店する計画。近隣に既存店があるため、新業態の出店で自社競合を避ける狙いがある。

出店するのは福岡市内で展開する中華料理「小明(しゃおみん)」。価格帯の低い一品料理やアルコール飲料を充実させており、ビジネスマンの「ちょい飲み」需要を取り込む。タイでもこうした店舗が受け入れられるとみて、出店に踏み切る。

新業態の展開では、米国での事業のノウハウも生かす。ウエストは1980年代に米国に進出し、現在も現地の子会社がすし店やラーメン店など日本食レストランを約20店を展開する。9月にはカリフォルニア州で新たにラーメン店を開く。海外市場で多様な業態を運営してきた強みを東南アジア市場の開拓にも生かす。

バンコクを拠点に東南アジアの進出先も増やす。既にフィリピンで出店準備を進めているほか、今後は市場拡大が見込まれるベトナムやインドネシア、カンボジアにも進出する計画。バンコクで店舗網を広げるのと合わせ出店する国を増やし、東南アジアで5年後に50店体制を目指す

農林水産省などによると、アジアの日本食レストランは2017年時点で約7万店となり、2年前と比べ5割増えた。訪日客の増加により、アジア各地で日本食が浸透したことなどが背景にあるとみられる。

タイで日本とほぼ同じ味や食材で提供するウエストでも、従来多かった現地の日本人客だけでなくタイ人の来店が増えているという。日本食ブランドの認知が高まり現地の消費者にも受け入れられたとみて、事業をてこ入れする。(柏木凌真)


◎東南アジアで中華料理店を多店舗化?

東南アジア」で「5年後に50店体制を目指す」のは分かった。ただ、どの業態の店を出すのかは謎だ。「2019年2月にタイの首都バンコクで新たに中華料理の業態を出店する」とは書いてあるが、それ以降も「中華料理」の店を出すのか微妙だ。これは困る。業態が決まっていないのならば、その点を読者に伝えるべきだ。

北山ダム(佐賀市)※写真と本文は無関係です
日本食レストランの市場が拡大し、人口も増える東南アジアで店舗網を広げ需要を取り込む」「農林水産省などによると、アジアの日本食レストランは2017年時点で約7万店となり、2年前と比べ5割増えた」といった記述から判断すると、東南アジアでも「日本食レストラン」で勝負していくようにも思える。この辺りを漠然とさせたままで気にならないとすれば、経済記事の書き手としては苦しい。


◎「米国での事業のノウハウも生かす」?

新業態の展開では、米国での事業のノウハウも生かす」で始まる段落は不要だと感じた。「米国」と「東南アジア」が似た市場とは思えない。日本と東南アジアの方がまだ共通点がありそうだ。

米国で「すし店やラーメン店など日本食レストランを約20店を展開」しているのは分かるが、ウエストは日本でもノウハウを蓄積しているはずだ。「米国での事業のノウハウ」をどう生かすのか。

しかも「新業態」とは「福岡市内で展開する中華料理『小明(しゃおみん)』」だ。米国で展開している業態を東南アジアに持ち込むのならば「米国での事業のノウハウ」を生かすのも分かるが…。

「米国でのノウハウが生きる」と筆者の柏木凌真記者が確信しているのならば、具体的にどう米国での「ノウハウ」を生かすのか書いてほしかった。それができない場合、やはりこの段落はなくていい。


◎「事業をテコ入れ」ならば…

記事の最後に「事業をてこ入れする」と柏木記者は書いている。これには驚いた。「てこ入れ」とは「順調にいっていない部分や状態を、外部から援助を与えて活力を取り戻すように仕向けること」(デジタル大辞泉)だ。「事業をてこ入れする」のならば、これまでの東南アジアでの事業は「順調にいっていない」はずだ。しかし、記事では「順調にいっていない」状況を全く説明していない。むしろ「順調だから出店拡大する」と受け取れる書き方だ。


◎繰り返しを避けよう

最後に技術的な問題点を1つ指摘したい。

最初の段落で「5年後に50店体制を目指す」と書いているのに、その後で「バンコクで店舗網を広げるのと合わせ出店する国を増やし、東南アジアで5年後に50店体制を目指す」と繰り返している。「バンコクで店舗網を広げるのと合わせ出店する国を増やす」で十分だ。同じ情報を繰り返しても無駄に文字数を費やすだけだ。


※今回取り上げた記事「ウエスト、東南ア出店拡大 5年で50店に
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35224760R10C18A9LX0000/


※記事の評価はD(問題あり)。柏木凌真記者への評価も暫定でDとする。

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