耳納連山とハンググライダー(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
まずは記事の中身を見ていこう。
【日経の記事】
「物価がなぜ上がらないのか、もう一度精査を」。雨宮副総裁は5月、日銀の調査統計局に指示を出した。前年比2%上昇の物価安定目標が遠のけば、日銀は緩和の強化すら迫られる。黒田総裁の心配を受けて雨宮副総裁が目指したのが、伸びない物価は構造要因と説明し、長く緩和を続けるために副作用に目配りする「政策修正」だった。
ただ、副作用を意識するなら金利は上がる。脱デフレには強力な金融緩和が必要とするリフレ派は受け入れない可能性があった。若田部昌澄副総裁、原田泰委員、片岡剛士委員は物価の伸びが鈍いなら緩和を強化すべきだというスタンスだ。副作用対応の政策修正に動くと、9人の政策委員の表決が割れる。
なかでも執行部の一員でもある若田部副総裁は3月に就任したばかり。安倍晋三首相に近い本田悦朗・元内閣官房参与や岩田規久男・前日銀副総裁らリフレ派の推薦で就任した。若田部副総裁とは落としどころを探らなければ、日銀の迷いが表に出る。
実際、今回の政策修正では日銀内に不穏な空気すら流れた。
「どういうことだ」。リフレ派のある委員は日銀の事務方を問い詰めた。7月20日夜、日銀が金利の調整を検討するとの報道が流れたからだ。同じ日に公表された消費者物価指数は「心が折れるほど」(幹部)に鈍化。リフレ派にとっては2%への道筋が最優先なのに、事務方が水面下で副作用対応を画策しているかのように映った。
政策の最終調整が始まったのは7月30~31日に開く会合直前の7月26日。9人の委員の2020年度までの物価見通しが事務方に集まった。中央値は20年度ですら1.6%と、2%は遠かった。副作用への対応を前面に出した政策立案は難しくなった。
◎「落としどころ」はどうなった?
「若田部副総裁とは落としどころを探らなければ、日銀の迷いが表に出る」と書いているのに、どう「落としどころ」を探ったのかは記事を最後まで読んでも分からない。
「事務方が水面下で副作用対応を画策しているかのように映った」というくだりも理解に苦しむ。金融政策の方向性は金融政策決定会合での多数決で最終的には決まるものだと思っていた。実際には「事務方」が主導して決めるものなのか。だとしたら「どういうことだ」と「リフレ派のある委員は日銀の事務方を問い詰めた」のも分かる。
しかし、実質的にも形式的にも金融政策決定会合の多数決で決まるものならば、「事務方が水面下で副作用対応を画策」しても、いら立つ必要はない。多数決で退ければ済む話だ。仮に金融政策決定会合で少数派ならば勝ち目はないので「事務方」を責めても意味はない。この辺りがどうなっているのかは、日銀の内部事情に詳しくない読者にも分かるように説明してほしかった。
そもそも黒田総裁らは「リフレ派」に配慮する必要があるのかという疑問も残る。記事の説明に従えば、リフレ派は「若田部昌澄副総裁、原田泰委員、片岡剛士委員」の3人しかいない。残りの6人が「副作用への対応を前面に出した政策立案」を望むのならば、多数決で必ず勝てる。
賛否が分かれるのも大きな問題ではなさそうに思える。かつては5対4の僅差で政策変更を決めたこともある。「日銀の迷いが表に出る」のは、それほど珍しくないし、今回も「原田泰委員、片岡剛士委員」が反対に回り「9人の政策委員の表決が割れる」事態にはなっている。
記事の続きを見ていく。
【日経の記事】
苦心の末、採用されたのが「フォワードガイダンス(将来の指針)」。現状の低金利を「当分の間」続けると約束することで、引き締め方向の政策修正に動くとの観測を打ち消す狙いがある。
国債市場の取引を回復させるため長期金利のある程度の振れを容認したが、黒田総裁は「金利の引き上げは全く意図していない」とあくまで緩和の「強化」を強調した。
ある日銀幹部は「副作用対応の金利修正のハードルは高かった」と語る。
100メートル走から1000メートル走に変わった――。2年前に長短金利操作を導入した時、多くの日銀幹部は政策運営をこうたとえた。だが、いまや「黒田総裁任期末の22年度でも難しいかもしれない」との声も日銀内で漏れる。ゴールがあるかすらわからない長距離走だ。
しかし、出足はばたついている。長期金利の動きをこれまでの「倍程度」まで認めるという方針は、黒田総裁の記者会見での説明にとどまった。雨宮副総裁は2日の会見で「どの程度が『ある程度』かは委員の間でも微妙な感覚の違いはあるが、おおむね共通理解」としたが、声明文にない方針は市場を困惑させる。
苦心のフォワードガイダンスも中途半端だとして、原田委員が反対票を投じた。黒田2.0で生じた政策委員の間の溝は、この先の金融政策の難しいかじ取りを予見させる。
◎反対票を投じたのは「原田委員」だけ?
「苦心のフォワードガイダンスも中途半端だとして、原田委員が反対票を投じた」と書いてあると、他に反対は出なかったように感じられる。だが、日銀の発表資料によると「片岡剛士委員」も反対を表明している。だとしたら、間違いではないにしても誤解を与える書き方だ。
門司港(北九州市)※写真と本文は無関係です |
「副作用対応の金利修正のハードルは高かった」というコメントも腑に落ちない。金融政策決定会合で「金利修正」に反対する人が最多でも3人しかいないのならば、「ハードル」は低そうに思える。
「黒田2.0で生じた政策委員の間の溝は、この先の金融政策の難しいかじ取りを予見させる」という結論にも説得力は感じない。「副作用対応」に反対する側が必ず少数派になるのだから、「副作用対応」を進める上で「政策委員の間の溝」は大きな問題にはならないはずだ。筆者ら(後藤達也記者と福岡幸太郎記者)が「違う」と確信しているのならば、その根拠をしっかりと記事中で説明してほしい。
※今回取り上げた記事「真相深層~緩和修正、生まれた溝 日銀、苦心の『フォワードガイダンス』 リフレ派と間合い難しく」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180804&ng=DGKKZO33814290U8A800C1EA1000
※記事の評価はC(平均的)。後藤達也記者と福岡幸太郎記者への評価も暫定でCとする。
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