2018年8月27日月曜日

「マネー凍結懸念」ある? 日経「認知症患者、資産200兆円に」

26日の日本経済新聞朝刊1面に載った「認知症患者、資産200兆円に 30年度 マネー凍結懸念、対策急務」という記事は、問題設定に無理がある。最後まで記事を読んでも、認知症患者に関して「マネー凍結懸念、対策急務」とは思えなかった。
マリゾン(福岡市早良区)※写真と本文は無関係です

最初の段落は以下のようになっている。

【日経の記事】

高齢化の進展で認知症患者が保有する金融資産が増え続けている。2030年度には今の1.5倍の215兆円に達し、家計金融資産全体の1割を突破しそうだ。認知症になると資産活用の意思表示が難しくなり、お金が社会に回りにくくなる。国内総生産(GDP)の4割に相当するマネーが凍結状態になれば、日本経済の重荷になりかねない。お金の凍結を防ぐ知恵を官民で結集する必要がある。


◎「認知症=マネー凍結」?

筆者ら(広瀬洋平記者と水戸部友美記者)によると「認知症になると資産活用の意思表示が難しくなり、お金が社会に回りにくくなる」らしい。そして「国内総生産(GDP)の4割に相当するマネーが凍結状態になれば、日本経済の重荷になりかねない」とも訴えている。本当にそうだろうか。

まず「認知症になると資産活用の意思表示が難しくなり」という認識が雑だ。多くの場合、重度でなければ「資産活用の意思表示」はできる。もちろん「合理的な判断ができる」とは言わない。ただ、金融機関などに勧められるまま投資商品に手を出してくれるという意味で、軽度の認知症患者の「マネー」はむしろ活発に動くとも考えられる。

もう少し記事を見てみよう。

【日経の記事】

 日本の家計金融資産は30年度時点で2070兆円と推計される。認知症高齢者の保有割合は17年度の7.8%から10.4%に高まる。政府や金融機関はこうした資産が使われなくなることに危機感を強めている

高齢者の消費が減るだけではない。株式などの運用が凍結されれば、ただでさえ欧米より少ない日本のリスクマネーは目減りし、成長のための投資原資がますます少なくなりかねない。不動産取引の停滞も予想される。「投資で得た収益が消費に回るといった循環がたちきられ、GDPの下押し圧力になる可能性がある」(第一生命経済研の星野卓也氏)


◎「運用凍結=リスクマネー目減り」?

百歩譲って、認知症になるとその人の「マネーが凍結状態」になってしまうとしよう。だからと言って「日本のリスクマネーは目減り」するだろうか。

高齢者Aさんが銀行預金2000万円、TOPIX連動型ETF8000万円の金融資産を持っていたとする。そのAさんが認知症になってしまったので、資金は「凍結状態」に陥る(金利はゼロ、ETFの値動きもないとする)。

ここで「日本のリスクマネーは目減り」すると考える理由が謎だ。ETFの8000万円を「リスクマネー」とするならば、Aさんが認知症になった後も8000万円の残高を維持している。「成長のための投資原資がますます少なくなりかねない」と心配する必要はない。

Aさんは趣味が海外旅行で、ETFを徐々に売却して旅行代金に充てるつもりだったとしよう。その場合「認知症になって海外旅行が難しくなったおかげでリスクマネーの残高が維持できる」ともいえる。

政府や金融機関はこうした資産が使われなくなることに危機感を強めている」という話も理解に苦しむ。Aさんの場合、ETFはもちろん預金の2000万円も「使われなく」なっているわけではない。預金は銀行が企業などに融資する原資となっている。それはAさんが認知症であろうとなかろうと同じだ。

認知症になると消費が活発でなくなる面はあるだろう。だが、それは他の病気でも同じだ。高齢者になれば足腰も弱るし、心肺機能も低下する。認知症だけを取り出して論じるのが適当だとは思えない。

認知症になって消費を控えるようになっても、介護などの費用は増える可能性が高い。それに対応して資産を取り崩す必要も出てくる。単純に「マネーが凍結状態」になると考えるのは、やはり違う気がする。


※今回取り上げた記事
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180826&ng=DGKKZO34605990V20C18A8MM8000


記事の評価はD(問題あり)。広瀬洋平記者と水戸部友美記者への評価は暫定でDとする。

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