2018年6月10日日曜日

「借金は悪という誤解」を強引に設定する週刊ダイヤモンド

週刊ダイヤモンド6月16日号の特集「成長するならカネ借りろ! 借金経営のススメ」は企画の前提に無理がある。Part1の「“脱”日本の借金観 ない方が正しい企業経営!? 借金への誤解蔓延する日本」という記事では「長らく日本では、企業の経営陣もメディアも『無借金経営はいい経営』『借金は悪』というのが常識と考えられてきた」と記しているが、本当にそんな「常識」があるのか。
南蔵院(福岡県篠栗町)※写真と本文は無関係です

まず、「メディア」について見ていこう。

2014年2月6日付の「パナソニック、『無借金経営』と決別する日」という日経の記事には以下の記述がある。

【日経の記事】

企業の資本コストには株式によるものと負債によるものがあるが、通常は株式のほうが高い資本コストを要求される。このため、資本コストを引き下げるには負債比率を最適化することが必要だ。自社の手元資産から得られる収益率を無視して、いたずらに無借金経営を追求すれば資本コストを上回る利益を上げることができず、株価を上げることができない

◇   ◇   ◇

念のため、もう1つ。「最新版!『借金が多い企業』500社ランキング~3年連続1位は、海外大型M&A連発の『あの企業』」という2017年11月30日付の東洋経済オンラインの記事では以下のように書いている。

【東洋経済オンラインの記事】 

ネットキャッシュのマイナスが大きいと財務の安全性が不安視されるかもしれないが、企業買収や設備投資など積極的な事業の拡大には投資が欠かせない。「マイナス金利」が導入され、歴史的な低金利が続く日本において、借り入れを活用し企業成長を目指すのは時流に合った経営スタイルといえる無借金や自己資本比率の高さが必ずしも優良企業の証しとはいえないことを注意されたい

◇   ◇   ◇

そもそも企業経営に絡んで「無借金経営はいい経営」「借金は悪」と言い切っている記事を読んだ記憶がない。紹介した日経と東洋経済オンラインの記事内容は常識的なものだと思える。

もちろん「無借金経営なので資金繰りの不安はほぼない」「多額の借入金が経営を圧迫している」などと書くことはある。だが、ダイヤモンドの記事が言うような認識をメディアが常識としてきたとは考えにくい。

ダイヤモンドの記事では「借金はとにかく悪いもので、少なければ少ないほど良い。ゼロならばその企業の経営者は誇っていい。そんな認識の日本の経営者は多いが、それは誤解なのだ」とも書いている。

これに関して「そんな経営者は多くない」と言える材料を持ってはいない。ただ、「本当かな」とは思う。上場企業に関して言えば、ROEを全く意識しない経営者は稀だろう。そして、ROEを高めるためには借金をして自己資本比率を低くする方が有利だ。これぐらいのことは大多数の経営者が知っているはずだ。なのに、そんなに多くの経営者が「借金はとにかく悪いもので、少なければ少ないほど良い。ゼロならばその企業の経営者は誇っていい」と言い切るのか。

記事を読んでも「借金はとにかく悪いもの」と訴える経営者の具体名は出てこない。取材班は本当に多くの経営者から「借金はとにかく悪いもので、少なければ少ないほど良い」という言葉を聞いたのか。

推測だが、「借金は悪くない」という特集の主張を意義あるものに見せるために、「借金への誤解蔓延する日本」を強引に描き出したのではないか。今回の特集は企画の出発点から無理が生じていた気がする。

※今回取り上げた特集「成長するならカネ借りろ! 借金経営のススメ
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23701


※特集全体の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通り。

清水量介副編集長:暫定D→D
竹田幸平記者:暫定D→D
竹田孝洋副編集長:C→D
田上貴大記者:暫定C→暫定D

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