門司港駅(北九州市)※写真と本文は無関係です |
「INTERVIEW 共働き時代に国と企業ができること」という記事で、野田氏の発言の問題点を具体的に見ていこう。
【東洋経済の記事】
──日本社会にとって共働き家庭を増やすことの意味合いは。
共稼ぎを増やすことに意味があるというより、もともと日本は共稼ぎの国。江戸時代でも夫妻ともに働き家計を担うのが当たり前だった。途中、政策の変更で、女性を働けないようにしてしまった。
従来の形に戻していく必要があるが、現状は険しい山道のような状態。女性活躍どころではない。
◎「江戸時代」に戻すべき?
いきなり凄い話になっている。「共稼ぎを増やすことに意味がある」かどうかは脇に置いて、「もともと日本は共稼ぎの国」だから「従来の形に戻していく必要がある」と野田氏は主張する。
戻るべき姿を「江戸時代」に求めるのならば、「もともと日本は貿易を厳しく制限する国。江戸時代には幕末に開国するまで貿易相手をオランダと中国に限っていた。従来の形に戻していく必要がある」とも言える。この考えに野田氏は賛成できるのか。できないとしたら、なぜ「共稼ぎ」については「従来の形に戻していく必要がある」のか。
「途中、政策の変更で、女性を働けないようにしてしまった」という説明も謎だ。江戸時代の日本では農民が圧倒的に多かったので、女性も農作業を担う「共稼ぎ」だったとは言えそうだ。それは明治や大正でも変わらないはずだ。なので、この時期に「政策の変更で、女性を働けないようにしてしまった」とは考えにくい。
だとすると、過去100年ぐらいのどこかで「政策の変更」があって、女性労働禁止令のようなものが出たのか。これもあり得ない気がする。学校の教員が全員男性になったり病院から看護婦が消えたりした時代があったとは、とても思えない。富田記者は何の疑問も持たずに野田氏の話を受け入れてしまったのか。
この後も、おかしな発言は続く。
【東洋経済の記事】
また、今の経営幹部の男性たちは高度経済成長とバブル期を経験してきた人たち。そのときの成功体験から抜け出せず、男女の役割分担があったから日本は経済大国になったという意識がある。
加えて岩盤が硬く崩すのが難しいのは、男性たちにある大黒柱意識だ。女性を働かせることは恥という勘違いをしている。
◎そんな「岩盤」ある?
「岩盤が硬く崩すのが難しいのは、男性たちにある大黒柱意識だ。女性を働かせることは恥という勘違いをしている」という発言も驚きだ。そんな「岩盤」が本当にあるのだろうか。
恋愛・婚活マッチングサービスのPairsによる2015年の調査が参考になる。男性では妻に専業主婦になってほしいと答えた人はわずかに3.4%。残りは「共働き」か「こだわらない」だ。一方、女性では13.9%が専業主婦を希望している。専業主婦になってほしいと答えた3.4%の男性も「女性を働かせることは恥」とまで思っているとは限らない。そう考えると、野田氏の言う「岩盤」に当てはまる男性は現役世代では1%もいないはずだ。
個人的にも、「女性を働かせることは恥」という価値観を持った男性に出会ったことがない。強いて崩すべき「岩盤」を探すならば、女性の専業主婦願望の方ではないか。Pairsの調査結果もそれを裏付けている。
最後にもう1つ、野田氏のおかしな主張を紹介したい。
【東洋経済の記事】
終身雇用制の下、年功序列で社長になった人は、リストラと同じくらい女性雇用ができない。変えるには厳しい法律も必要だ。「俺はやりたくないが、国が法律を定めたから残業しないし、女性も雇用する」という方便になると思う。
◎「女性雇用ができない」会社とは?
「終身雇用制の下、年功序列で社長になった人は、リストラと同じくらい女性雇用ができない」という発言も理解に苦しむ。「終身雇用制の下、年功序列で社長になった人」という説明は分かりにくい部分もあるが、とりあえず「新卒で入社した後に昇進を重ねて社長まで上り詰めた人」と考えよう。
着陸直前のハンググライダー(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
例えば、高島屋、三越伊勢丹ホールディングス、Jフロントリテイリングといった大手百貨店の社長はいずれもこのパターンに当てはまる。こうした企業は「女性雇用ができない」と言えるのか。常識的に考えて「女性雇用ができない」百貨店が現在まで生き残っているとは考えにくい。
ちなみに「女性の活躍推進企業データベース」で高島屋を見ると2015 年度の「労働者に占める女性労働者の割合」は正社員で56%となっている。
「終身雇用制の下、年功序列で社長になった人」は本当に「女性雇用ができない」のか。個人的には、具体的な企業名が思い浮かばなかった。野田氏は何社も名前を挙げられるのだろうか。
さらに言えば、「国が法律を定めたから残業しないし」も引っかかる。野田氏は法律で残業を禁止すべきとの立場なのか。本気とは思えないし、賛成もできないが、今後に注目したい。
さらについでに言うと、上記の「方便」の使い方はおかしい。「本当は女性を雇用したいけれど社員の反対が強くてできない」という状況の社長が「俺はやりたくないが、国が法律を定めたから女性も雇用する」と言って社員を説得するならば「方便」かもしれない(法律で決められたら、そもそも社内を説得する必要はない気もする)。だが、女性を雇用したくない社長が法律で義務付けられて嫌々「雇用しよう」と言い出すだけならば、「ある目的を達するための便宜上の手段」(デジタル大辞泉)という意味での「方便」とは言い難い。
ここまで見てきたように、野田氏の発言には色々と問題がある。だが、責めを負うべきはやはり富田記者だ。野田氏は多忙な中で時間を割いて取材に応じてくれたはずだ。なのに、野田氏の見識に疑問符が付くような内容に仕上がっている。
記者に力量があれば、取材と編集作業によって野田氏を「きちんとした主張ができる人」に見せられるはずだ。富田記者には、それができる書き手になってほしい。
※今回取り上げた記事「INTERVIEW 共働き時代に国と企業ができること」
※記事の評価はD(問題あり)。富田頌子記者への評価はC(平均的)からDに引き下げる。富田記者については以下の投稿も参照してほしい。
東洋経済「保険に騙されるな」業界への批判的姿勢を評価
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_15.html
「子どもの貧困が深刻化」に根拠乏しい東洋経済「連鎖する貧困」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_10.html
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