宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です |
【日経への問い合わせ】
日本経済新聞社 黒沼晋様
3日の朝刊総合3面に載った「風見鶏~真のイギリス流野党とは」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下の記述です。
「野党第1党の議席数は自民党の2割にすら満たない。対抗するには『大きな塊』をつくるべきだとの総論では皆一致するが、実態は立憲民主党、国民民主党、無所属の3派に割れたままだ。希望の党から無所属に転じた細野豪志元環境相は『二大政党制を目指した四半世紀の歴史は終わった』と総括する」
黒沼様の説明を信じれば、野党には「3派」しかないはずです。しかし1日の「野党6党派、国民投票法改正案の7日審議入り認めず」という記事では、日経自身が「立憲民主党など野党6党派」との表現を用いています。ここで言う「6党派」とは立憲民主党、国民民主党、共産党、自由党、社民党、衆院会派「無所属の会」を指すと思われます。
今回の記事で言えば「実態は立憲民主党、国民民主党、無所属など6派に割れたままだ」となります。「3派に割れたまま」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。野党は「6派」ではなく「3派」との判断であれば、その根拠も併せて教えてください。また、「3派」が正しい場合、1日の記事の説明が誤りとなるはずです。
御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社の一員として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。
付け加えると「対抗するには『大きな塊』をつくるべきだとの総論では皆一致する」のに、細野氏が「二大政党制を目指した四半世紀の歴史は終わった」と総括しているのには整合性の問題を感じました。細野氏は「二大政党制」の実現は不可能であり、「大きな塊」は作れないと判断しているのではありませんか。だとすると、現時点では「『大きな塊』をつくるべきだとの総論」に賛意を示さない可能性が高そうです。「不可能だが作るべきだ」と考えているかもしれませんが、やや無理があります。
次に問題としたいのが以下の記述です。
「とはいえ、安倍政権の基盤が強固なわけではない。3分の2を超える議席を持ちながら、学校法人『森友学園』『加計学園』問題で揺れる。日本経済新聞の5月の世論調査では不支持率が53%と過去最高だ」
この書き方だと「安倍政権の不支持率は53%で歴代政権の中で最も高い」と受け取る人がいても不思議ではありません。5月27日付の記事では「不支持率は53%(前回は51%)で2012年の第2次安倍内閣発足以降の最高を更新した」 と書いているので、黒沼様の言う「過去最高」とは「第2次安倍内閣発足以降で最高」という趣旨でしょう。誤解を招かない正確な記述を心掛けてください。
説明不足と言う点では「野党第1党の議席数は自民党の2割にすら満たない」「3分の2を超える議席を持ちながら」といった部分にも問題があります。これらは衆院についての記述でしょうが、記事に「衆院」の文字は見当たりません。不親切かつ不正確な書き方だと思いませんか。
記事の結論部分にも注文を付けておきます。黒沼様は以下のように記しています。
「『いかなる政府も、手ごわい野党なくしては長く安定することはできない』。19世紀後半の英国首相、ディズレーリはこんな言葉を残している。与党の政権運営に緊張感を与えるのは野党の重要な役割だ。真のイギリス流野党はどうあるべきか。現行制度を見直す余地はたくさんある」
まず、「ディズレーリ」の言葉に意味がないでしょう。日本では戦後に「手ごわい野党」がいない状況で、自民党が「長く安定」して政権を担いました。例えば、7年以上の長期政権となった佐藤栄作首相の時代には「手ごわい野党」が存在したでしょうか。「手ごわい」かどうかは主観的な問題なので、かつての社会党などを黒沼様は「手ごわい野党」だと見なしているのかもしれませんが…。
原田駅(福岡県筑紫野市)※写真と本文は無関係です |
それよりも問題なのが「現行制度を見直す余地はたくさんある」という最後のくだりです。そう感じているのならば、なぜ具体的に論じないのですか。日本の野党がなぜ「手ごわい野党」になれないのかに関して、黒沼様は制度的な問題点を全く指摘していません。なのに、最後に「現行制度を見直す余地はたくさんある」と問題点を理解しているような言葉を残されても困ります。「余地はたくさんある」のならば、その一端でも見せるべきです。
記事中では「総選挙前に野党の政治家が各省庁の幹部と政権移行のための協議をすることができる」といった英国の制度を紹介しています。こうした制度を導入すれば「手ごわい野党」になると信じているのならば、そう書くべきです。個人的見解ですが、こうした制度を導入しても「手ごわい野党」を育てる役には立ちそうもありません。
黒沼様もそう思っているのではありませんか。だとしたら「現行制度を見直す余地はたくさんある」というより、「現行制度の見直しによって手ごわい野党を生み出すのは難しい」とでも書くべきです。
何を訴えたいかを事前に明確にしないまま記事を書き始めて、適当に結論を導いているから今回のような結びになってしまうと思えます。「自分は記事を通じて何を訴えたいのか。その結論に説得力を持たせるためにどうストーリーを展開させればいいのか」を熟慮した上で記事を構成するように心がけてください。そうすれば、よりレベルの高い記事が書けるはずです。
最後に、国名表記について指摘しておきます。記事では「英国をモデルとする二大政党制」「英国型議院内閣制」「二大政党制のお手本とされた英国」「モデルは英国議会のクエスチョンタイム」「19世紀後半の英国首相」などと「英国」表記が続いた後で、最後に「真のイギリス流野党はどうあるべきか」と「イギリス」が出てきます。それを受けて見出しも「真のイギリス流野党とは」となっています。
「日経の記事スタイルでは『英国』と決めているのだから、そう表記すべきだ」とは言いません。しかし、同じ記事の中で「英国」「イギリス」の両方を使うのならば、それなりの理由が必要です。今回の場合、最後を「真の英国流野党はどうあるべきか」としても何の問題も生じません。だったら表記を統一すべきです。
問い合わせは以上です。回答をお願いします。
◇ ◇ ◇
追記)結局、回答はなかった。
※今回取り上げた記事「風見鶏~真のイギリス流野党とは」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180603&ng=DGKKZO31196690R30C18A5EA3000
※記事の評価はD(問題あり)。黒沼晋記者への評価も暫定でDとする。
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