諫早公園(長崎県諫早市)※写真と本文は無関係です |
最初の事例を見ていこう。
【ダイヤモンドの記事】
オフィスカジュアルの煽りを受け、売り上げ減にあえぐ紳士服メーカーに光明が差している。レディーススーツの売り上げが好調なのだ。
今年5月19日、AOKIホールディングスは、旗艦店のAOKI渋谷宮益坂店をフルリニューアルし、レディース売り場を大幅に拡張した。百貨店のような売り場のレイアウトは同社初の試みで、20代の新規客を中心に、オープン1週間の売り上げは、前年同期比144%と好調。今後都市部を中心にレディースフロアの改装を進める方針だ。
◎本当に「絶好調」?
店舗を「フルリニューアル」したのであれば「オープン1週間の売り上げ」が「前年同期」を上回るのは当然だ。しかも「レディース売り場を大幅に拡張した」という。ならば売り上げが前年同期比44%増でも驚くには値しない。仮に「レディース売り場」を5割増やしたのならば「前年同期比144%」では期待外れとも言える。
しかも顧客は「20代の新規客」が中心らしい。今回の記事では「アラ管(30代後半から50代まで)」が主役のはずなのに、最初からズレている。
この後の段落には相馬記者の実力不足が顕著に見て取れる。
【ダイヤモンドの記事】
業界トップの青山商事では、レディーススーツへの肩入れはそれ以上だ。今年2月に発表した中期経営計画では、2021年3月期にレディース部門で、連結売上高の約12%に当たる350億円の売上高を目標に掲げる。山本龍典執行役員は、「13年までは女性用はリクルートスーツなど新卒向けの売り上げが100%だったが、最近はフォーマルやキャリアファッションが伸び、構成比がそれぞれ30%強となった」と語る。
◎比較がないと…
「2021年3月期にレディース部門で、連結売上高の約12%に当たる350億円の売上高を目標に掲げる」と言われても、「レディーススーツへの肩入れはそれ以上」なのかどうか判断できない。「レディース部門」の売り上げを伸ばして構成比も高める計画だとは思うが、これまでとの比較がないので何とも言えない。
有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です |
書き手としての基礎が身に付いてくれば、この手の比較を省いて記事を書くことに耐えられなくなるはずだ。相馬記者はその域にまだ達していないのだろう。
次は「紳士服メーカー」に丸め込まれたと思える記述を見ていく。
【ダイヤモンドの記事】
スーツ作りは難易度が高く製造できる工場も限られているため、一般のアパレルメーカーと比べて紳士服メーカーに一日の長がある。「『品質の割に安い』というところで勝負する」(山本執行役員)と鼻息は荒い。
◎「一日の長がある」?
「スーツ作りは難易度が高く製造できる工場も限られているため、一般のアパレルメーカーと比べて紳士服メーカーに一日の長がある」という説明が怪しい。例えば、「一般のアパレルメーカー」が急に「レディーススーツ」に参入してきたのならば分かる。だが、昔から婦人服のアパレルメーカーも「レディーススーツ」を作ってきた。
「スーツ作りは難易度が高く製造できる工場も限られている」としても、「レディーススーツ」で実績がある婦人服アパレルは「難易度」の高さをクリアしているはずだし、「製造できる工場」も押さえているのではないか。「『品質の割に安い』というところで勝負する」と青山商事の執行役員も語っているのだから、高価格帯の商品では「一般のアパレルメーカー」でも十分に勝負できている気がする。
次に移ろう。
【ダイヤモンドの記事】
レディーススーツ好調の背景には、女性活躍推進法の影響で、管理職昇進前後の30代後半から50代までのいわゆる「アラ管(アラウンド管理職)」世代に一気に需要が生まれたことがある。
コナカの「SUIT SELECT」でも、レディーススーツの主な購入者は20~30代前半だったのが、30代後半~40代へと少しずつ年齢層が広がっている。また、「女性の場合、管理職になると『下の世代と同じものは着られない』と、より良く見えるものを購入する傾向がある」(安部公政・コナカ執行役員)ことも、紳士服メーカーにとって追い風となった。
◎なぜ「レディーススーツ」だけ伸びる?
そもそも紳士用スーツが「オフィスカジュアルの煽りを受け、売り上げ減にあえぐ」のに、なぜ「レディーススーツ」だけ需要が急拡大するのか疑問だ。相馬記者によると「女性活躍推進法の影響で、管理職昇進前後の30代後半から50代までのいわゆる『アラ管(アラウンド管理職)』世代に一気に需要が生まれた」らしい。
しかし、「女性活躍推進法の影響で」女性がスーツを着て仕事をするようになるのも不思議な話だ。営業などでスーツを着る必要があるのならば、管理職でなくてもスーツを着るだろう。「オフィスカジュアル」の動きに逆行するように、これまでスーツを着ないで働いていた「アラ管」の女性が「一気に」スーツを着るようになったのか。どうも怪しい。
ここまで来たので、最後まで見ていこう。
【ダイヤモンドの記事】
他のチャネルも手をこまねいているわけではない。高島屋は2店舗で、働く女性向けの売り場に「スーツクローゼット」というコーナーを設置。購入者は高級志向のアラ管世代が多く、売り場全体の1人当たり平均客単価2万1000円と比べ、スーツクローゼットは3万4000円と高めだ。EC市場も同様で、ZOZOTOWNは「17年度の女性向けスーツの合計売上高は、前年度比で約2倍」(スタートトゥデイ広報)という。
さらに、都心以外にも動きがある。SUIT SELECTの地方店舗では、子育て後に復職する女性のスーツ購入が急増。青山商事は、郊外店の女性客獲得のため、今月より各ブロックに教育マネジャーを置き、営業力アップを急ぐ。女性客獲得レースはすでに始まっている。
◎「同様」になってる?
高島屋では「『スーツクローゼット』というコーナー」の客単価が他の売り場よりも高いという話を受けて「EC市場も同様で、ZOZOTOWNは『17年度の女性向けスーツの合計売上高は、前年度比で約2倍』(スタートトゥデイ広報)という」と相馬記者は書いている。どこが「同様」なのか理解に苦しむ。「EC市場」に関して客単価が他の商品より高いという話は出てこない。
宇佐駅(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です |
話は逸れるが、今回の記事で「女性用スーツの販売が絶好調」をきちんと感じられる唯一の事例が「ZOZOTOWN」だ。「ZOZOTOWN」自体が伸びてはいるのだろうが、なぜこの話を柱にせず、AOKIや青山の微妙な事例を大きく取り上げたのか。この辺りからも、相馬記者が「紳士服メーカー」に取り込まれているのではとの疑念が膨らむ。
「さらに、都心以外にも動きがある」という説明も奇妙だ。その前まで「都心」の話をしてきたと相馬記者は思っているのだろう。しかし、高島屋の「2店舗」の場所には触れていない。「EC市場」に関しても「都心」限定の話ではないはずだ。
「女性客獲得レースはすでに始まっている」と結んでいるのも意味がない。例えば「レディーススーツ」が今の世の中には存在せず、来年に各社が売り出すのなら、準備段階での動きを捉えて「女性客獲得レースはすでに始まっている」との結論を導くのも分かる。
しかし、「レディーススーツ」を各社とも売り続けてきたのではないか。だとしたら「女性客獲得レースはすでに始まっている」のは大前提だ。わざわざ最後に持ってくる気が知れない。
この記事はやはり問題が多い。相馬記者を要注意の書き手として注目していきたい。
※今回取り上げた記事「Inside~女性用スーツの販売が絶好調 『アラ管』が紳士服業界を救う?」
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23768
※記事の評価はD(問題あり)。相馬留美記者への評価も暫定でDとする。
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