筑後川橋と桜と菜の花(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
記事を順に見ていく。
【日経ビジネスの記事】
アジアを中心に海外事業が成長し、業績が拡大するファーストリテイリング。だが、衣料品チェーン世界最大手のインディテックスには、収益力で引き離されている。利益のほとんどをユニクロ事業に依存する体質の転換が「世界一」奪取のカギを握る。
4月12日、ファーストリテイリングの決算会見で、柳井正会長兼社長は自信に満ちた表情でこう語った。2017年9月~18年2月期の同社の営業利益は前年同期比で31%増の1704億円。中間期として過去最高になった。
とりわけ好調だったのは海外ユニクロ事業。売上高は29%増で、営業利益は66%増の807億円に達した。積極出店で、中国や東南アジアを中心に売上高が拡大、苦戦していた米国も効率化を進めて赤字幅が大幅に縮小した。
「売上高3兆円の目標は数年で確実に実現できる」。柳井社長はこう言い切る。「ZARA(ザラ)」を展開する、インディテックス(スペイン)は18年1月期の売上高が253億ユーロ(約3兆3500億円)。ファストリの18年8月期予想は2兆1100億円で、世界トップの背中は近づきつつあるように見える。
◎ファストリは世界2位?
ここまで読むと今の「ファーストリテイリング」は世界2位で、「世界トップ」の「インディテックス」を追いかけているとの印象を受ける。しかし、ファーストリテイリングのホームページによると、「アパレル製造小売業」の中で世界2位はH&Mだ。間に1社入っている。
「3位なんだから1位と比べるな」とは言わない。しかし、3位であることは記事中で示さないと読者に誤解を与えてしまう。
ついでに言うと「世界トップの背中は近づきつつあるように見える」と書いているのに、「ファーストリテイリングとインディテックスの主な経営指標」というグラフには「世界トップの背中はまだ遠い」と説明文を付けている。矛盾はないが、「どっちなの?」とは思ってしまう。
話が逸れた。記事の続きを一気に最後まで見ていこう。
【日経ビジネスの記事】
だが、そこには死角もある。収益力が大きく見劣りすることだ。インディテックスが18年1月期に営業利益として開示するEBIT(利払い前・税引き前利益)は43億ユーロ(約5700億円)。ファストリの今期の営業利益予想(2250億円)の2.5倍に当たる。
“ユニクロ一本足打法”といえる構造で、ほかに利益の柱がないことが課題だ。ファストリの中間期における各事業の営業利益は、国内と海外を合わせたユニクロ事業が1694億円。次の柱と期待される低価格ブランドの「ジーユー」は91億円にすぎない。買収などで手中にしたコントワー・デ・コトニエ、Jブランドなどの「グローバルブランド事業」は56億円の営業赤字だ。
一方のインディテックスは主力のザラ以外のブランドも稼いでいる。18年1月期は、若者向けブランドの「ベルシュカ」、高級ブランドの「マッシモ・ドゥッティ」など7つのブランドが全て黒字で、全社の利益の3割を占める。大半のブランドの利益率は15%を上回り、ザラブランドの18%に迫る。
グローバル化でもファストリは遅れている。進出する国・地域の数は、ファストリの19に対して、インディテックスは96と5倍強だ。同社はインド、東欧、中南米、中東など、ファストリが手つかずの市場を開拓している。
「世界一のアパレル小売り」を目指すファストリ。急成長するアジアで躍進するが、「ファッションの本場」の欧州や北米での存在感はまだ小さい。スペインの巨人を追い抜くには、出店地域の拡大に加え、収益源の多様化が求められる。好業績の勢いに乗って、収益力を高められれば、世界一の座は見えてくる。
◎「一本足」ではなぜダメ?
上記の説明で、なぜ「一本足」ではダメか理解できただろうか。有力候補は「インデックスが一本足打法ではないから」だろう。だが、インデックスと同じやり方でなければ利益を増やせないとは限らない。
久留米城跡の桜(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
「グローバル化でもファストリは遅れている」と記事では書いている。「出店地域の拡大」をユニクロでやって売り上げや利益を伸ばす選択もある。「それではインデックスには追い付けない」と考えるのならば、その根拠を示すべきだ。
「買収などで手中にしたコントワー・デ・コトニエ、Jブランドなどの『グローバルブランド事業』は56億円の営業赤字だ」とすれば、こうしたブランドからは撤退して、ユニクロ事情に経営資源を集中すべきとの考え方もできる。「そうではない。ユニクロ以外で利益を増やすべきなんだ」と筆者である山崎良兵副編集長と津久井悠太記者が確信しているのならば、なぜそう言えるのかきちんと解説してほしかった。
繰り返しになるが「インデックスがそうしているから」では、まともな分析とは言えない。
最後に、記事の結論部分に注文を付けておこう。
「好業績の勢いに乗って、収益力を高められれば、世界一の座は見えてくる」。これでは何も言っていないに等しい。読者としては「まぁ、それはそうでしょうね」と返すしかない。こんな意味のない結論を導くために紙幅を費やしてきたのか。
問題は「どうやれば収益力を高められるか」「それを実現させる力はあるか」といった点だ。課題が「一本足打法」からの脱却ならば、具体的にどうすべきか、実現可能性はどうかを論じて結論に持っていくべきだ。でなければ記事に説得力は生まれない。山崎副編集長と津久井記者は、そのことを肝に銘じてほしい。
※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY~好調ユニクロ、“一本足打法”の壁」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/041601004/?ST=pc
※記事の評価はD(問題あり)。山崎良兵副編集長への評価はC(平均的)からDに引き下げる。津久井悠太記者への評価は暫定でDとする。
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