旧門司三井倶楽部(北九州市)※写真と本文は無関係です |
【日経BPへの問い合わせ】
日経ビジネス編集部 武田健太郎様
4月16日号の「テクノトレンド~ロボアドバイザー プロの投資手法を初心者に」という記事についてお尋ねします。まず以下のくだりです。
「5営業日後の為替動向を予想する際は、過去に同じようなチャート形状が無いかを、10年以上前まで遡って探し出す。そして、似た形のチャート形状が、その後どのように変動したかを調べて将来予想に役立てる。例えば、似た形のチャートが過去に3回あり、そのうち2回で相場が上昇していたら、予想上昇率は66.6%となる」
引っかかるのは「予想上昇率は66.6%」という説明です。例えば、米ドルで「予想上昇率は66.6%」と書いてあれば、予想される今後の米ドルの「上昇率」が「66.6%」となるはずです。しかし、ここで言っているのは「上昇」になる可能性が「66.6%」という意味ではありませんか。記事に付けたチャートの横には「上昇可能性66.6%」と表記しています。
「予想上昇率は66.6%」という説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であればその根拠も併せて教えてください。
次に問題としたいのは以下の記述です。
「ただし、個人が自らの資産を運用する場合、プロとは別の課題に直面する。『心理の罠』と呼ばれる問題があるからだ。例えば、多くの個人投資家は株価が下落すると不安にさいなまれ、安い値段でも保有する株式を売るケースが多い。安値で買って高値で売るという投資の基本原則を、恐怖心のあまり忘れてしまうためだ」
これは一般的に言われていることと異なるのではありませんか。2017年8月26日付の日本経済新聞朝刊に載った「投資のワナを避ける知恵 損切り素早く、利食い急ぐな」という記事では「買った株式が値下がりして損失が膨らんでいるのに、いつまでも売れずに持ち続けてしまう――。投資で陥りがちなワナの典型が損切り(損失限定の売り)の先送りです」と記しており、なぜそうなるのかを行動経済学に基づいて解説しています。武田様の解説とは正反対です。日経の解説の方が常識的だと思えますが、いかがでしょうか。
最後にもう1つ。記事では「じぶん銀行が昨年6月に提供開始した『AI外貨予測』」を「お金のデザイン」や「ウェルスナビ」とともに紹介しています。しかし、「じぶん銀行」のサービスはロボアドではないと思えます。
「『ロボアド』残高1000億円突破 ITで運用指南 若者取り込み」という3月24日付の日経の記事では「ロボアドは年齢や投資目的、株価急落時の対応などの質問に答えると、投資期間やリスク許容度を見極めて運用戦略を提案するサービス」と説明しています。この定義に従えば、為替相場の動向に関してAIによる予測を提供するだけの「AI外貨予測」はロボアドには当たりません。
流川桜並木と人力車(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です |
武田様も記事の冒頭で「年齢や目標金額などを入力すれば、自動的に株式などを運用する『ロボアドバイザー』」と述べています。「AI外貨予測」をロボアドの1つとして紹介するのは間違っていませんか。
今回の記事のテーマは「ロボアドバイザー プロの投資手法を初心者に」です。「AI外貨予測」はロボアドではない上に「プロの投資手法を初心者に」とも言えません。このサービスが提供する予測の根拠は「チャート」のみです。しかし、プロの為替ディーラーはチャートだけに頼って売買している訳ではありません。
問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。
【日経BP社の回答】
日経ビジネスをご購読頂きまして誠にありがとうございます。
メールでご指摘頂いた3点について、以下の通り順番にお答えさせて頂きます。
① 「予想上昇率」との表記について
記事において、為替市場の参加者もしくはAIが「どれぐらいの確率で上昇を予想するか」を示すため、「予想上昇率」との表現を用いました。ただしご指摘の通り、為替相場の「値上がり率」についての予想値と混合されかねない表現でありました。
別の場所で使用した「上昇可能性」という表現で統一した方が、誤解を受ける可能性は
少なかったのではと考えております。ご指摘を真摯に受け止め、今後はより正確な表現になるよう心がけたいと思います。
②行動経済学 相場が下落すると安い値段でも保有株式を売るケースが多い点について
記事内で紹介した、相場下落時にパニックとなり金融商品を売り急ぐ行動は、行動経済学で「近視眼的損失回避」と呼ばれ、ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学大学院のリチャード・セイラー教授などが指摘している内容です。ただし、行動経済学は比較的新しい学問で、相反する様々な理論が存在するケースも現時点では多くみられます。
ご指摘の通り、日経新聞の解説記事内にあった理論も存在します。雑誌記事である以上、文字数に限界はありますが、ご意見を参考にして、様々な視点を読者に提示していきたいと考えます。
③AI外貨予測について
ロボアドは金融業界における新しいサービスで、明確な定義がまだ出来ていない分野です。
広義の定義では、テクノロジーを活用した助言・運用などで、利用者の利便性を高める
金融サービスのことを指すと考えております。
一方で、記事中で「自動的に株式などを運用する」と説明した部分は、狭義のロボアドの
定義にあたると解釈しております。ご指摘のAI外貨予想は、広義のロボアド定義には当てはまる一方で、狭義の定義には当てはまらないサービスでした。
ロボアドの定義について丁寧な説明をしていれば避けられる誤解だったと理解しております。
ご指摘ありがとうございました。
◇ ◇ ◇
基本的にこれで良いと思えるが、1つだけ説明を追加したい。
◎「近視眼的損失回避」はちょっと違うような…
「『株価が下落すると不安にさいなまれ、安い値段でも保有する株式を売るケースが多い』という『心理の罠』は一般に言われていることと逆では?」との問いに対しては、ハーディング現象で説明するのかと思っていた。ところが回答は「近視眼的損失回避」だった。
産経の2014年10月18日の記事でニッセイ基礎研究所の北村智紀氏は以下のように説明している。
「実は投資の成果を頻繁に確認する人ほど、リスクをとることが嫌いになる現象が確認されています。国内外でこれに関連した多くの研究があり、『近視眼的損失回避』と呼ばれています。短期的な視点で損を回避する行動をするという意味です」
この説明が正しければ、「安い値段でも保有株式を売る」というより「投資に消極的になる」との側面が強い。産経の記事をもう少し見てみよう。
「例えば、株式投信に投資したところ、運悪く値下がりし、毎月1万円ずつの損失があったとしましょう。1年間の累積で12万円の損失です。ある人は、自分が買った投信がどのようになったのか見るのが好きで、毎月損したことを知ったとします。別の人は値動きにはあまり関心がなく、1年分まとめて損失を知ったとします。結局、どちらの人も損失額は同じですが、毎月見るたびに損失を被ったと感じる人の方が、リスクのある投資をいやになってしまいます。極端な話、株式投信を買うことはその後なくなるというものです」
武田記者は回答の中で行動経済学について「相反する様々な理論が存在するケースも現時点では多くみられます」と述べている。だが、損切りを回避して塩漬けにしやすい傾向と「近視眼的損失回避」は両立する。
産経の記事の例で言えば「持っている投信の損は確定させず塩漬けにするが、新規投資はしない」となれば矛盾はない。
注文が長くなってしまった。全体として見れば、回答に大きな問題はない。きちんと回答してくれたことには感謝と敬意を表したい。
※今回取り上げた記事「テクノトレンド~ロボアドバイザー プロの投資手法を初心者に」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/122600029/040600016/?ST=pc
※記事の評価はD(問題あり)。武田健太郎記者への評価はDを維持する。今回の記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。
※武田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。
デサントは「巨大市場に挑まない」? 日経ビジネスの騙し
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_11.html
「人生100年」に無理がある日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/100100.html
年金支給開始85歳でも「幸せ」? 日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/85-100.html
今世紀中は高齢者が急増? 日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/100_7.html
「高齢者人口が急増」に関する日経ビジネスの回答に注文
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_8.html
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