2018年4月11日水曜日

日経の見出し「米ロ、拒否権の応酬」は誤り?

11日の日本経済新聞夕刊1面に載った「シリアの国連調査否決 化学兵器疑惑 米ロ、拒否権の応酬」という記事は、見出しに誤りがあると思える。「米ロ、拒否権の応酬」となっているが、記事を読むと「拒否権を行使」しているのはロシアだけだ。他社の報道を見ても米国が「拒否権を行使」しているとは考えにくいので、日経の見出しが間違っている可能性が非常に高い。
流川桜並木(福岡県うきは市)
        ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

11日夕刊1面の「シリアの国連調査否決 化学兵器疑惑 米ロ、拒否権の応酬」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは見出しの「米ロ、拒否権の応酬」です。「応酬」とは「互いにやり取りすること。また、先方からしてきたことに対して、こちらからもやり返すこと」(デジタル大辞泉)という意味なので、見出しが正しければ、米ロはともに「拒否権」を行使しているはずです。

筆者の高橋里奈記者は「シリアのダマスカス近郊での化学兵器使用疑惑を受け、独立調査機関の新設を求める米国の決議案を否決した。ロシアが拒否権を行使」とは確かに書いています。しかし、その後に「シリアのアサド政権を支えるロシアも同様の決議案を提出したが、独立性に疑問があるとして英米仏など7カ国が反対して否決した」と記しており、米国が「拒否権を行使」したとは述べていません。

ロシアが提出した決議案に関しては「欧米が反対。中国やボリビアなど6カ国が賛成したが、賛成票が足りず廃案となった」とも書いています。

さらに記事には「このほかロシアはOPCWによる化学兵器が使われた疑いがある東グータ地区ドゥーマでの迅速な調査を歓迎する決議案も提出したが、英米仏などが反対。賛成票は中国やボリビアなど5カ国にとどまりこれも否決された」との記述もあります。これも反対多数で否決されただけで、米国は拒否権を行使していないと解釈するのが自然です。

3つの決議案がいずれも否決され」たものの、高橋記者の説明を信じれば「拒否権を行使」したのはロシアだけです。見出しの「米ロ、拒否権の応酬」は事実と異なるのではありませんか(高橋記者の説明が間違っている可能性もあります)。見出しにも本文にも問題がないとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。

ついでで恐縮ですが「ロシアはOPCWによる化学兵器が使われた疑いがある東グータ地区ドゥーマでの迅速な調査を歓迎する決議案も提出した」というくだりでは、語順に問題があるために分かりにくくなっています。「OPCWによる化学兵器が使われた疑い」と書くと、「OPCW」が化学兵器の使用に関与しているようにも見えます。「ロシアは化学兵器が使われた疑いがある東グータ地区ドゥーマでのOPCWによる迅速な調査を歓迎する決議案も提出した」とすれば、かなり読みやすくなります。

◇   ◇   ◇

ちなみに日経の電子版では同じ内容の記事に対して「シリア化学兵器の国連調査、決議3案いずれも否決 ~安保理、欧米とロシア対立」という見出しも付いていた。

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「シリアの国連調査否決 化学兵器疑惑 米ロ、拒否権の応酬
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180411&ng=DGKKZO29242900R10C18A4MM0000


※見出しを除く記事の評価はC(平均的)。高橋里奈記者への評価はDからCへ引き上げる。高橋記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経の高橋里奈記者 「スタバ」で触れていない肝心なこと
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_13.html

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