佐世保駅(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です |
まず以下のくだりの説明に疑問を感じた。
【日経の記事】
米経営学者トーマス・アレン氏は同僚との物理的距離とコミュニケーション頻度を研究し、アレン曲線と呼ばれる相関関係を見いだした。距離が離れるほどコミュニケーションを取る確率が急激に減るという。1週間に1度以上会話する確率は同僚との距離が1メートルほどなら50%強あるが、30メートル以上離れると5%を割る。縦横無尽なコミュニケーションを促すフリーアドレス制オフィスのような仕組みは、ダイバーシティー効果を高める。たとえ女性比率がまだ低くとも、女性の同僚と情報を交換する機会が増え、その知恵と発想を組織で共有できるからだ。
◎女性との「コミュニケーション頻度」が高まる?
「縦横無尽なコミュニケーションを促すフリーアドレス制オフィスのような仕組み」を導入すると「女性の同僚と情報を交換する機会が増え、その知恵と発想を組織で共有できる」ようになるだろうか。
A社のオフィスでは、席を固定している時には1メートル以内に1人、30メートル以内に10人の女性がいたとしよう。これを「フリーアドレス制」にするとどうなるか。
基本的には「1メートル以内に1人、30メートル以内に10人の女性」がいる状況は変わらないはずだ。近くにいる女性はコロコロ変わるはずなので、多くの女性と接する可能性は高まるが、代わりに「ほとんどの女性とたまにしか会話しない」という状況になるだろう。
全体で見て「女性の同僚と情報を交換する機会が増え」るかどうかについては、単純に考えれば変化はない。ただ、実際には減る気がする。
まず、よく知らない女性が近くにいる場合、あまり積極的にコミュニケーションを取らずに済ませる場合が多くなりそうだ。明日は席が隣にならない可能性が高いので、忙しい時に気を使ってまで話す必要性も薄い。
また「空いている場所を使う」という仕組みならば、隣に誰もいない席を選ぶ人も多いはずだ。この場合は、席を固定していた時と比べて1メートル以内に女性がいる確率は下がってしまう。
次に移ろう。
【日経の記事】
厚生労働省によると、課長級以上の女性管理職比率は16年9.3%。先進国の中ではいまだ最低レベルだ。正規雇用者に占める女性比率は3割を超えているのに、なかなか女性管理職が増えない。国は20年30%の目標を掲げるが実現は厳しい状況だ。その一因に「オールド・ボーイズ・ネットワーク」がある。オフィスの喫煙室や終業後の居酒屋などで男性同士は親睦を深める。あくまで非公式なコミュニケーションだが、重要な人事異動や根回し、新プロジェクトがこうした場で決まることも多い。女性は蚊帳の外。仕事に有益な情報や機会を男性同士で分かち合うオールド・ボーイズ・ネットワークは日本に限らず、米国でも女性のキャリア形成を阻害する要因に挙げられている。
同じ属性の者が群れたがるのは人の常。結びつきを強制的に断ち切るのは難しい。対抗策の一つは組織内コミュニケーションを活性化し、性別を超えた接点を意図的につくること。女性の同僚の考え方や経験、人となりを知る機会が増えれば彼女らに仕事上のチャンスを提供しようと男性も考えるようになる。オールド・ボーイズ・ネットワークに風穴が開けば女性は今よりずっとキャリアアップがしやすくなる。
◎本当に「オールド・ボーイズ・ネットワーク」が一因?
日本で女性管理職が増えない一因として「オールド・ボーイズ・ネットワーク」があると記事では解説している。これが成り立つためには「管理職になりたい女性はたくさんいるのに、なかなか登用されない」という状況が要る。日本はこういう状況にあるのだろうか。
基山町民会館(佐賀県基山町)※写真と本文は無関係です |
例えば日経の17年5月19日の記事では以下のように記している。
【日経の記事】
十六銀行傘下の十六総合研究所(岐阜市)は、2017年度の新入社員の意識調査結果をまとめた。入社後の昇進について「経営者・役員」「部長クラス」「課長クラス」と答えた女性の割合は15年度の合計6.8%から17年度は13.4%に上昇。女性の管理職志向が強まっていることを示す結果となった。男性は48.8%でこれまでの傾向と変わらなかった。
◇ ◇ ◇
この記事を基に「女性は1割、男性は5割が管理職志向」と仮定してみる。「正規雇用者に占める女性比率は3割を超えている」ようなので、「正規雇用者」は女性3割、男性7割としよう。この場合、「正規雇用者」全体で管理職志向の女性が3%、管理職志向の男性が35%を占める。この中から男女の差がなくほぼ同じ確率で管理職に就くと考えると、管理職の中で女性の比率は8%となる。
「課長級以上の女性管理職比率は16年9.3%」なので、現実の数字とほぼ同水準だ。「オールド・ボーイズ・ネットワーク」が原因で男性をひいきしているのならば、こうはならないはずだ。また、女性の管理職志向は「15年度」には「合計6.8%」に過ぎなかったことを考慮すると、今いる女性の「正規雇用者」の中で管理職志向は1割を大きく割っていたと推測できる。
そう考えると、男性優遇がないどころか女性優遇が起きている可能性も捨て切れない。「オールド・ボーイズ・ネットワーク」は本当に女性管理職が生まれるのを阻害しているのか。筆者(おそらく石塚由紀夫記者)は慎重に検討してほしい。
付け加えると、「オフィスの喫煙室や終業後の居酒屋などで男性同士は親睦を深める」と言うが、普通は「喫煙室」で女性を除外していない。男女間、女性同士でも「親睦」は深まるはずだ。
「終業後の居酒屋」での付き合いで「女性は蚊帳の外」というのも考えにくい。オフィス街で「終業後の居酒屋」を覗いてみれば分かる。男女が交じった会社員のグループは珍しくない。そんなに強固な「オールド・ボーイズ・ネットワーク」が本当にあるのか疑問だ。
※今回取り上げた記事「『オールド・ボーイズ・ネット』に風穴」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180322&ng=DGKKZO28406320R20C18A3TCP000
※記事の評価はD(問題あり)。筆者と推定した石塚由紀夫への評価もDを維持する。石塚記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「女性活躍後進国」と日経 石塚由紀夫編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_2.html
※「ポスト平成の未来学 第5部 少子社会の針路~林業ガール 相棒はIT 消える男女別職種」という記事については以下の投稿を参照してほしい。
IT企業の社員は「林業ガール」? 日経 若狭美緒記者に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/03/blog-post_23.html
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