小倉城(北九州市)※写真と本文は無関係です |
記事の前半部分は以下のようになっている。
【日経の記事】
小学校のテストでこの答えはもちろん×(バツ)だ。しかし、ダイバーシティの世界では○(マル)だ。例えば、ある会社で今、管理職の女性はゼロ。それではダメだと管理職に占める女性の比率を30%にしたい。だが、会社が成長しないなら管理職の数だけを増やすわけにはいかない。総数の100人を維持したまま、女性の比率を30%にするということは、男性管理職を30人減らして70人にしないと計算が合わない。
こんな計算なら小学生でもわかる。しかし、現実の社会ではわかっていてもやらない。故に、女性の登用は特に日本では進まない。少しは進んでいるが「遅々として進んでいる」。これではグローバル競争に勝ちようがない。日本を除く世界各国のスピードは速い。相撲のような何百年の歴史がある国技でも横綱が10人に増えたことはないし、いくらかの増減はあっても幕内力士の数は基本的には定員制だ。野球のスターティング・メンバーが15人になったという話も聞いたことがないし、サッカーは11人がフィールドでの定員だ。
◎「ダイバーシティの世界では○」?
「100+30=100」という答えは「小学校のテスト」では「×」で「ダイバーシティの世界」では「〇」だと松本氏は言う。×は分かる。問題は〇の方だ。
「総数の100人を維持したまま、女性の比率を30%にするということは、男性管理職を30人減らして70人にしないと計算が合わない」と言うのだから、現在の管理職100人のうち30人を外して新たに女性管理職30人を加えることになる。この場合の計算式は「100-30+30=100」だ。「100+30=100」は「ダイバーシティの世界」でも×だと思えるが…。
相撲、野球、サッカーの話もあまり意味がない。「野球のスターティング・メンバー」の人数が決まっているからと言って、企業の管理職の数が固定されるわけではない。野球で言えば「スターティング・メンバー」は9人で変わらなくても、管理職に当たる監督・コーチの人数は決まっていない。記事の例えの使い方は不適切だ。
せっかくのなので、記事を最後まで見ていこう。
【日経の記事】
一方、日本企業の多くはこんな当たり前のことをなかなか実行しない。従って、女性の登用は進まない。抵抗勢力は金・地位・権力の既得権を、上司にゴマをするなどして何が何でも死守する。結果、企業も組織も男性社会の心地よさを守り変革しない。
私は過去18年間多くの管理職の男性から嫌われることを覚悟して力づくでムキになって特に女性を登用してきた。ダイバーシティはトップマネジメントがコミットして力づくでやらないと強い抵抗勢力に負けてしまう。日本は遅々として進んでいる。遅いことは牛でもやりますヨ!
◎女性管理職を増やすと競争力が増す?
記事では「女性管理職を増やすのは好ましい」との前提に立って話が進む。「これではグローバル競争に勝ちようがない」と松本氏は訴えているので「女性登用で企業の競争力が増す」と信じているのだろう。だが、怪しい気がする。
高島(大分市)※写真と本文は無関係です |
ここでは「原因と結果の経済学~データから真実を見抜く思考法」(ダイヤモンド社)という書籍の一部を紹介したい。
【「原因と結果の経済学」の引用】
ノルウェーでは、女性取締役比率が2008年までに40%に満たない企業を解散させるという衝撃的な法律が議会を通過した。南カリフォルニア大学のケネス・アハーンらは、この状況を利用して、女性取締役比率と企業価値のあいだに因果関係があるかを検証しようとした。
(中略)アハーンらが示した結果は驚くべきものだ。女性取締役比率の上昇は企業価値を低下させることが示唆されたのだ。具体的には、女性取締役を10%増加させた場合、企業価値は12.4%低下することが明らかになった。
◇ ◇ ◇
ノルウェーの話だし、女性管理職ではなく「女性取締役」についての研究なので「日本で女性管理職を増やしても競争力は高まらない」と結論付けるつもりはない。ただ、松本氏のように「女性管理職を増やせば競争力が高まる」と単純に信じ込むのは危険だとは分かる。
松本氏は明確なエビデンスに基づいて、女性管理職を増やしてきたのだろうか。「私は過去18年間多くの管理職の男性から嫌われることを覚悟して力づくでムキになって特に女性を登用してきた」と松本氏は書いている。仮に、競争力向上との因果関係が明確になっていないのに「ムキになって」男性社員を管理職から外してきたとすれば、その犠牲となった男性社員には同情を禁じ得ない。
※今回取り上げた記事「あすへの話題~100+30=100」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180319&ng=DGKKZO27997170S8A310C1MM0000
※記事の評価はD(問題あり)。筆者への書き手としての評価は見送る。
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