2018年1月20日土曜日

FACTAに問う「東芝に半導体売らせぬ」のどこが「悪巧み」?

FACTA2月号に載った「東芝に『半導体売らせぬ』悪巧み~増資で一儲けしたアクティビスト。もう一山当てようと『虎の子売るな』の大合唱に入る」という記事は「アクティビスト」を悪者として描いているが、説得力は乏しい。
福岡県うきは市の白壁通り※写真と本文は無関係です

まず、見出しにもなっている「東芝に『半導体売らせぬ』悪巧み」について考えてみたい。記事の当該部分は以下のようになっている。

【FACTAの記事】

東芝とウエスタン社の和解発表前に、香港に拠点を置くヘッジファンドのアーガイル・ストリート・マネジメントは東芝にこんな書簡を送りつけている。「急いでメモリー子会社の株式を売却する必要はなくなった」

東芝が分社した半導体子会社の「東芝メモリ」を売ろうとしたのは18年3月期に7500億円の債務超過に陥ることを回避するのが目的だった。しかし6千億円の第三者割当増資が完了し、財務基盤への不安はなくなったのだから、虎の子を売る必要はないという主張だ。

半導体事業を売却した東芝に成長の芽はない。アクティビストがそんなクズ株を持ち続ける理由はないが、東芝が方針を転換し、半導体を手元に残せば、株価の急上昇が見込める。「半導体事業の売却を予定している3月末に向け、東芝に対して、同じような揺さぶりをかけるアクティビストは増える。それに東芝も応じざるを得なくなるだろう」と株式市場関係者は言う。


◎「売らせぬ」はなぜ「悪巧み」?

記事を読んでも「東芝に『半導体売らせぬ』」ことがなぜ「悪巧み」なのか理解できない。東芝は東芝メモリを積極的に手放したかったわけではない。債務超過解消のために言わば渋々だ。「6千億円の第三者割当増資が完了し、財務基盤への不安はなくなった」のであれば、売却取り止めは東芝にとって悪い話ではない。

半導体を手元に残せば、株価の急上昇が見込める」のであれば、「アクティビスト」はもちろん、それ以外の東芝株保有者にとっても好ましい。東芝メモリの買い手には不満を持つ向きもあるかもしれないが、記事ではそこには触れていないので「悪巧み」の根拠ではなさそうだ。株式投資で利益を得ようとすること自体が「悪巧み」なのか。結局、よく分からなかった。

次に「増資で一儲けしたアクティビスト」について見ていく。記事では以下のように説明している。

【FACTAの記事】

政府が脛に傷を持つことを見透かしてなのか、アクティビストの傍若無人な振る舞いは止まらない。6千億円の第三者割当増資を巡って、東芝株は不可解な動きを見せたが、「主体はアクティビストだろう」というのが市場関係者の共通した見方だ。

増資を決議した11月19日に先立つ11月9日にNHKが第1報を流すと売買高は急増。8日の終値321円に対して10日は297円まで下落した。株価下落を最も喜んだのは、発行額が安ければ安いほど第三者割当増資での保有株数が増えるアクティビストだ。増資の引き受け価格は1株262円80銭。11月19日の直前営業日である17日の終値(292円)に0.9を乗じて決めた。これを下回ると有利発行とみなされ株主総会の特別決議が必要となる。ギリギリの水準で決めたことからしても、東芝の株主となったアクティビストが株価下落を熱望していたことがうかがえる。

「報道の経緯は調べるつもり」と金融庁幹部は言うが、積極的な動きは見られない。増資を巡って一儲けしたアクティビストたちが東芝に半導体を売らせず、もう一儲けするのを咎める動きは恐らくない。


◎どこで「一儲け」?

記事を信じれば「アクティビスト」はすでに「増資で一儲けした」はずだ。しかし、何を以って「一儲け」と言っているのか謎だ。
えーるピア久留米(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係

増資で得た株を売却して利益を得ているのならば立派な「一儲け」だが、そうは書いていない。増資の引き受け価格が下がったことを指しているのかもしれないが、それだけでは「一儲け」とは言い難い。少なくとも利益を確定させてはいない。

8日の終値321円に対して10日は297円まで下落した」と書いているので、その過程で空売りでも仕掛けて「一儲け」したのかもしれないが、そうとも書いていない。しかも「主体はアクティビストだろう」というのは、あくまで市場の見方なので、「増資で一儲けした」と断言できる材料にはならない。

結局、「増資で一儲けした」かどうかを記事からは判断できない。これでは困る。

不可解な動き」という説明も引っかかった。どこが「不可解」なのか、またしても判然としない。「増資を決議した11月19日に先立つ11月9日にNHKが第1報を流すと売買高は急増。8日の終値321円に対して10日は297円まで下落した」というだけならば、自然な流れに見える。報道機関が発表前にニュースを流すのは日常茶飯事だし、増資のニュースが出て売買が膨らみ株価が下がるのも分かる。

不可解な動き」と言うのならば、どの辺りが「不可解」なのか、もう少しきちんと説明すべきだ。話が漠然とし過ぎている。

また、明確な根拠もなしに「アクティビストの傍若無人な振る舞いは止まらない」と言い切るのも感心しない。「アクティビスト」を批判するのは問題ない。だが「傍若無人な振る舞いは止まらない」とまで言っているのに、記事ではまともな根拠を示せていない。


※今回取り上げた記事「東芝に『半導体売らせぬ』悪巧み~増資で一儲けしたアクティビスト。もう一山当てようと『虎の子売るな』の大合唱に入る
https://facta.co.jp/article/201802004.html


※記事の評価はD(問題あり)。

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