2018年1月22日月曜日

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張

ジャーナリストの大西康之氏がFACTA2月号に書いた「『英原発の毒』を呑む日立」という記事に、引っかかる説明があった。「経団連会長」の選び方に関するものだ。まずは当該部分を見ていこう。
久留米大学医療センター(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

【FACTAの記事】

日立は「日本を代表する企業」ではない。一番わかりやすい企業価値である株式時価総額(1月10日時点)を見れば、4兆4300億円の日立は国内ランキング27位。1位のトヨタ自動車(25兆1400億円)との比較は酷としても、同じ製造業のキーエンス(6位、8兆200億円)、任天堂(13位、6兆2600億円)に大きく引き離されている。トヨタの豊田章男社長が経団連会長就任を固辞したというのなら、キーエンスの山本晃則社長に就任を依頼するのが筋である


◎時価総額で決めるのが「筋」?

大西氏は「日本を代表する企業」の経営者が「経団連会長」になるのが「」だと考えているのだろう。一般社団法人である経団連がどうやって会長を選ぶかは会員企業の間で決めればいい話だとも思えるが、取りあえず「日本を代表する企業」から選ぶものだとしよう。

それでも疑問は残る。まず「株式時価総額」で判断するのが適当かという問題がある。例えば、時価総額ランキングで30位以下だという理由でGE、IBM、コカ・コーラ、マクドナルド、ボーイングなどを「米国を代表する企業ではない」と断言できるだろうか。個人的には違う気がする。

大西氏は、経団連の会長を出す企業について「日本を代表する企業」でかつ製造業という基準も持っているようだ。しかし、過去の会長企業には東京電力も入っているし、製造業にこだわるべきかどうかも意見が割れるだろう。

なので、仮に「株式時価総額」で見た「日本を代表する企業」の経営者から会長を選ぶべきだとしても「キーエンスの山本晃則社長に就任を依頼するのが筋」とは言い切れない。2~5位が非製造業だからと言って候補から除外する方が「」から外れているとの考えも成り立つ。

そう考えると「トヨタの豊田章男社長が経団連会長就任を固辞したというのなら、キーエンスの山本晃則社長に就任を依頼するのが筋である」との主張はやはり説得力に欠ける。

ついでに記事の続きにも注文を入れておこう。

【FACTAの記事】

だが企業の格にこだわる経団連では「昔の名前」が幅を利かす。戦後日本の経済発展で日立が果たした役割は大きいが、冷静に現状を観察すれば世界で戦う余力は残っていない。川村が施した大リストラで収益力が上がり、07年3月期から4年連続で最終赤字を計上したダメ会社は、ようやく5千億円前後の営業利益が確保できる体質になった。しかし隣国に目をやれば、サムスン電子の17年の営業利益は53兆6千億ウォン(約5兆7千億円)と桁が違う

実力も伴わないまま「財界総理」を輩出してしまった日立は、もはや国の言いなりになるしかない。「国策」に従ってズルズルと原発輸出を続ければ、ホライズンはやがてWHと同じ状況に陥り、日立の存立を脅かす存在になるだろう。

中西は経団連会長就任の抱負として「日本経済のグローバル化とデジタル化」を挙げたが、出身母体である日立は原発の底なし沼にはまり込み、グローバル化もデジタル化もままならない。まさに「一将功なりて万骨枯る」である。


◎なぜ「余力なし」と言える?

戦後日本の経済発展で日立が果たした役割は大きいが、冷静に現状を観察すれば世界で戦う余力は残っていない」との説明は無理がある。「5千億円前後の営業利益」だと「世界で戦う余力」さえないと大西氏は言い切る。「サムスン電子の17年の営業利益は53兆6千億ウォン(約5兆7千億円)と桁が違う」ことを根拠として挙げている。
福岡県八女市の蹴洞橋(けほぎばし)
           ※写真と本文は無関係です

しかし、日立は「サムスン電子」と事業内容がそれほど重なっていない。比較対象として意味があるのか。それに、同じ市場で戦っているとしても「営業利益が桁違いに多い企業が相手だと、利益の少ない側に戦う余力はない」とも言えない。

利益の少ない側が画期的な新製品を出せば状況は一変する。それができなくても、直接的な競合を避けてニッチ市場に活路を見出す選択もある。

例えば自動車業界でトヨタ自動車とスズキを比べると、営業利益はトヨタの方が桁違いに多い。だからと言って、インドなどで成功しているスズキに対して「世界で戦う余力さえ残っていない」と考える人はゼロに近いはずだ。

そもそも「5千億円前後の営業利益」があっても「世界で戦う余力」さえないとなると、「世界で戦う余力」のある企業はかなり少数になってしまう。本当にそうだろうか。

最後に言葉の使い方で1つ。「輩出」とは「すぐれた人物が続いて世に出ること。また、人材を多く送り出すこと」(デジタル大辞泉)だ。「実力も伴わないまま『財界総理』を輩出してしまった日立」と大西氏は書いているが、「財界総理」を初めて出した日立に関して、「輩出」を用いるのは好ましくない。最低でも2人は出していないと苦しい。


※今回取り上げた記事「『英原発の毒』を呑む日立
https://facta.co.jp/article/201802002.html

※記事の評価はD(問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

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