2018年1月25日木曜日

下手投げは「道なき道」? 日経 篠山正幸編集委員の誤解

日本経済新聞の篠山正幸編集委員が「牧田和久(西武―パドレス)」について「下手投げという道なき道を歩んできた」と記している。だが、牧田が「下手投げという道なき道を歩んできた」とは思えない。25日朝刊スポーツ面の「逆風順風~独創技術でメジャー挑戦」という記事の全文を見てから、この問題を考えてみたい。
新古賀病院(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

日本ハムからエンゼルスに移籍した大谷翔平ら、メジャー挑戦組のなかで、異彩を放っているのが牧田和久(西武―パドレス)だ。

自ら「絶滅危惧種」という、数少ないアンダースローの技術の担い手。遅い球でいかに打者を翻弄するか。そのチャレンジは、大げさにいえば“技術立国”たる日本野球の値打ちが問われる戦い、といえる。

静岡・静清工高(現静清高)のときに指導者の助言で下手で投げてみたら、結構いい球が放れた。筋はよかったのだろうが、楽な道のりではなかった。

通算284勝の山田久志さん、187勝の足立光宏さん(ともに阪急=現オリックス)ら、偉大な先達がいる。だが同じ下手投げでも、投法は違っていて、十人十色。

試行錯誤するなかで、テークバックで腕を大きく伸ばす山田さんのフォームをまねてみたものの、肩を痛めたという。肩の可動域などは個人差が大きい。結局、自分の体に合った投法を、自分で見つけなくてはならなかった。

球威があり、速球派ともいえた山田さんは例外で、下手投げの多くは技巧派に分類していいだろう。力で抑え込めない分、バットに当てられたときは被害甚大、となりかねない。

90キロほどのカーブを配しながら、打者をかわす投球の成否は度胸一つにかかっている、といってもいい。そのあたりの非凡さが表れたのが、ルーキーイヤーのクライマックスシリーズで、ソフトバンク・松中信彦に喫した満塁弾だった。

大一番のしびれる場面で、臆せずストライクゾーンに投げ込んだ。並の新人なら逃げてボール、ボールとなる場面。変な言い方になるが、あそこで打たれることができる投手だったから、メジャーの入り口まで来られたのだろう。

セットポジションでは長く球を持ち、打ち気にはやるメジャーの打者をじらそうかと策を練る牧田の表情には、小規模ながら、独創の技術で世界と戦う町工場の経営者の趣もある。

下手投げという道なき道を歩んできた牧田。新天地に、どんな足跡を残すだろう。


◎「偉大な先達がいる」ならば…

通算284勝の山田久志さん、187勝の足立光宏さんら、偉大な先達がいる」のならば、牧田が「下手投げという道なき道を歩んできた」とは言い難い。「自分の体に合った投法を、自分で見つけなくてはならなかった」のだとしても「下手投げ」としての道を牧田より先に歩んだ人は何人もいる。
日田駅に停車中のクルーズトレイン ななつ星 in 九州
             ※写真と本文は無関係です

牧田が出てくるまで日本のプロ野球界では長くアンダースローが不在だったのならば、まだ分かる。しかし、実際はそうなっていない。渡辺俊介(2001~13年 千葉ロッテ在籍)がいる。牧田の「ルーキーイヤー」が2011年なので、2人は同時期にプロ野球の世界にいた。そして、21世紀のプロ野球の世界でもアンダースローが通用することは、渡辺が既に証明していた。

日刊スポーツの1月11日の記事では牧田について「山田久志、渡辺俊介ら先達の映像で学んだ」と書いている。一方、日経の記事では「試行錯誤するなかで、テークバックで腕を大きく伸ばす山田さんのフォームをまねてみたものの、肩を痛めたという」だけで渡辺の名前は全く出てこない。

篠山編集委員が渡辺を知らないとは考えにくい。メジャーにも挑戦した渡辺に触れると、「(牧田の)そのチャレンジは、大げさにいえば“技術立国”たる日本野球の値打ちが問われる戦い、といえる」といった話に説得力が乏しくなるので、あえて言及しなかったのか。

ついでに2点を指摘しておきたい。


◎「バットに当てられたときは被害甚大」?

下手投げの多くは技巧派に分類していいだろう。力で抑え込めない分、バットに当てられたときは被害甚大、となりかねない」との説明は納得できなかった。「バットに当てられたとき=バットの芯で捉えられたとき」という意味ならば、「技巧派」であってもなくても「被害甚大、となりかねない」はずだ。

では「バットに当てられたとき=空振りが取れなかったとき」と考えた場合はどうか。奪三振が少なく打たせて取る「技巧派」であれば「バットに当てられた」こと自体に問題はない。ゴロやフライでアウトを稼げばいいだけの話だ。篠山編集委員は「下手投げの多くは技巧派だからバットに当てられてはまずい。三振を取らないと…」と信じているのだろうか。


◎どこで「メジャーの打者」と対戦?

牧田は現段階では「メジャーの入り口まで来られた」だけなのに「打ち気にはやるメジャーの打者をじらそうかと策を練る牧田の表情には、小規模ながら、独創の技術で世界と戦う町工場の経営者の趣もある」と既に「メジャーの打者」との対戦経験があると思える書き方をしている。これは分かりにくい。

牧田はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では「メジャーの打者」とも対戦している。「打ち気にはやるメジャーの打者をじらそうかと策を練る」のがWBCの舞台ならば、そこは明示してほしかった。


※今回取り上げた記事「逆風順風~独創技術でメジャー挑戦
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180125&ng=DGKKZO26107530U8A120C1UU8000


※記事の評価はD(問題あり)。篠山正幸編集委員への評価はDを維持する。篠山編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 篠山正幸編集委員「レジェンドと張り合え」の無策
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_10.html

「入団拒否」の表現 日経はどう対応? 篠山正幸編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post.html

大谷を「かぐや姫」に例える日経 篠山正幸編集委員の拙さ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_11.html

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