大分県日田市の三隈川(筑後川) ※写真と本文は無関係です |
記事の記述を見ていこう。
【日経の記事】
国内外の債券市場で信用力の低い社債に資金が流入している。10日までの1週間で世界の低格付け(ハイイールド)債ファンドへの資金流入は10億ドル超と半年ぶりの高水準。国内でも利回りの高い社債を求める投資家が増えている。ただ、市場では金融政策の出口を巡り金利が不安定になれば売りに転じかねないとして、危うさを指摘する声もある。
「最近は売り物すらなかなか出ない」。信用力が低く利回りが高い企業の社債について国内運用会社のファンドマネジャーはこうこぼす。ようやく出てきた売り物は「あっという間に高値がついてしまう」という。
投資適格債の中で最も信用力が低いトリプルB格の社債の利回りは軒並み低下(価格は上昇)している。格付けがトリプルBプラスの大王製紙の5年物社債の国債に対する上乗せ幅(スプレッド)は12月の発行以降、0.53%から0.51%台へとほぼ一本調子で低下。同水準の社債の平均も5カ月ぶりの低水準だ。
信用力の低い債券が人気を集める理由は複数ある。1つは世界的な景気拡大だ。格付けの低い債券は景気拡大で収益力や財務内容が向上すれば信用力が改善するため、下押し圧力が小さいと期待される。
◎巧妙に逃げてはいるが…
普通に読むと「投資適格債の中で最も信用力が低いトリプルB格の社債」は「低格付け(ハイイールド)債」に含まれると理解したくなる。しかし、SMBC日興証券の「初めてでもわかりやすい用語集」では「ハイイールド債」について「格付会社などで信用格付がBB(ダブルビー)以下の評価をされている債券で、信用度が低い分、格付の高い債券より金利が高く設定されています」と解説している。
高崎山自然動物園(大分市)の猿 ※写真と本文は無関係です |
なので、「トリプルB格の社債」を「低格付け債」に含めるのはまずい。筆者の富田美緒記者はおそらくこの問題に気付いている。そして巧妙に逃げを打っている。「トリプルB格の社債は低格付け債ではないのでは?」と問われた時は以下のように答えるのではないか。
「『低格付け(ハイイールド)債ファンドへの資金流入は10億ドル超と半年ぶりの高水準』とは書いたが、『トリプルB格の社債』については『信用力が低く利回りが高い企業の社債』『信用力の低い債券』『格付けの低い社債』といった表現を用いており『低格付け債』『ハイイールド債』には含めていない」
この弁明は「明らかに無理がある」とは言わないものの、かなり苦しい。「格付けの低い社債」と「低格付け債」を同一視するのは自然だし、別物だと分かるような説明も記事中でしていない。素直に読めば「トリプルB格の社債は低格付け債なんだな」と理解するのが自然だし、そう読み取った読者を責められない。
記事には「国内の社債発行額は2017年まで2年連続で10兆円を上回ったが、うちシングルA未満の社債は1割以下」との記述がある。「低格付け債=ダブルB格以下の債券」とすると、国内では低格付け債が非常に限られてくるのだろう。なので、トリプルB格の社債を「低格付け債的な社債」として扱おうと思い付いたのではないか。だが、今回のような説明では、読者に誤解を与えかねない。
どうしてもトリプルB格の社債を「格付けの低い社債」として扱いたかったら、「トリプルB格だと『低格付け(ハイイールド)債』には入らない」と記事中で明示すべきだ。そうなると、記事の説得力がかなり減じてしまう。しかし、読者を欺くような作りにするよりは好ましい。
※今回取り上げた記事「低格付け債に資金流入 高利回り、景気拡大で安心感 金融政策巡りリスクも」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180113&ng=DGKKZO25624550S8A110C1EN2000
※記事の評価はD(問題あり)。富田美緒記者への評価はDで確定とする。冨田記者については以下の投稿も参照してほしい。
データの扱いが恣意的な日経「企業の現預金、世界で膨張」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_3.html
メキシコは「低税率国」? 日経1面「税収 世界で奪い合い」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_3.html
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