宝満川(福岡県久留米市・佐賀県鳥栖市) ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
1998年にA格以上は58%だったが、99年に50%に低下。財務強化を狙い投資より借金返済を急いできた。米主要企業はシングルA格以上の比率が4割前後で、日本企業の格付けは先進国のトップランナーになった。
◎「シングルA格以上の比率」で決まる?
筆者の竹内弘文記者は「シングルA格以上の比率」が高いと「前を走っている」、低いと「後ろを走っている」と判断しているようだ。その考えに基づき「日本企業の格付けは先進国のトップランナーになった」と断言している。
この考えには賛成できない。企業経営とは格付けの高さを競うものではない。AA格の企業はA格の企業の前を走っていて、A格の企業はAA格の企業に追い付こうと頑張っている訳ではない。
記事の中で竹内記者も「日立製作所は円滑な資金調達にA格は不可欠と言うが『むやみに上げることは最適ではない』とも話す」「京都大学の川北英隆客員教授は『財務戦略は企業ごとに異なるはず』と話す」などと書いている。だったらなぜ「日本企業の格付けは先進国のトップランナーになった」と表現してしまったのか。
記事には他にも気になる部分があった。
【日経の記事】
日本企業の信用力を示す格付けが右肩上がりに上昇している。高格付けの目安となる「A格」以上の比率は足元で75%に達した。約4割の米国の2倍だ。バブル経済の崩壊以降、借金に苦しんだ日本企業は強い財務を経営課題に据えた。気が付けば上場企業の過半が実質無借金で世界屈指の高格付け国になった。その裏側で成長投資が不足し企業価値を示す株価では海外に及ばない。四半世紀に及ぶ財務戦略の転換を迫られている。
格付投資情報センター(R&I)の格付けを取得した上場企業約450社を集計した。シングルA格とダブルA格は計75%と過去最高の比率。10年間で10ポイント上昇した。米S&Pグローバルの格付けでも8割を占める。
◎なぜR&I格付けで比較?
「R&Iの格付けを取得した上場企業約450社を集計」して「75%」という数字を出し、それを「米国の2倍だ」と紹介している。これは解せない。米国の格付けはR&Iのものではないはずだ。他に方法がないなら分かるが「米S&Pグローバルの格付けでも8割を占める」と書いている。だったら「S&Pグローバルの格付け」を使って比較すればよいのではないか。「R&Iは日経のグループ企業だから」との配慮が働いているのかもしれないが…。
うきはアリーナ(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係 |
さらに言えば「気がつけば格付け先進国」「日本企業の格付けは先進国のトップランナーになった」と打ち出しているのに、米国以外との比較がないのも引っかかる。今回の記事には「シングルAに格上げとなった主な企業」というタイトルの表が付いている。こんなものを載せる余裕があるのならば、「日本企業の格付けは先進国のトップランナー」だと納得できる「米国以外のデータ」を示してほしかった。
米国との比較では、要因分析に「市場の厚み」という視点が抜けているのではないかとも感じた。社債市場は日本より米国の方が大きく、特に低格付けのハイイールド債では圧倒的な差があると言われている。記事でも「日立製作所は円滑な資金調達にA格は不可欠と言う」と触れているように、日本では低格付けだと債券発行が難しい。これが米国との差に表れている面もあるのではないか。
日本では財務体質の悪い企業は債券発行を目指さないので格付けも取得しない。一方、米国では低格付けでも債券発行が容易なので積極的に格付けを取得する。こうした傾向があれば、日米で企業の財務体質に大きな差がなくても「シングルA格以上の比率」には大差が付いてしまう。その辺りも含めて分析してほしかった。
※今回取り上げた記事「気がつけば格付け先進国 日本企業、75%がA格 米の2倍 成長より借金返済 市場は低評価 」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171224&ng=DGKKZO25012220T21C17A2EA2000
※記事の評価はC(平均的)。竹内弘文記者への評価も暫定でCとする。
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