2017年10月7日土曜日

東芝メモリ売却の「教訓」に説得力がない週刊ダイヤモンド

週刊ダイヤモンド10月7日号の「DIAMOND REPORT~遅過ぎた決着 東芝メモリ売却 買い手が二転三転した理由と代償」という記事について問題点をさらに指摘したい。記事では「東芝メモリ売却の顛末を見てみると、幾つかの教訓が浮かび上がる」とした上で、「日本企業の共通課題が浮き彫りに」というタイトルの図で「東芝メモリの売却から得られる教訓」を3つ挙げている。これがどうも説得力に欠ける。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

記事では「最大の課題は、国が民間企業の売却交渉に介入することの限界だ」と書いているので、まずは3点のうち「国の民間介入は競争力を削ぐ」という項目を見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

高い買収額を提示した候補者が東芝メモリを買うのが市場原理。国の介入はそれをゆがめる。淘汰されるべき会社が残り、最適な買い手に事業が渡らない。



◎「日本企業の共通課題」?

まず、子会社売却に国が介入してくることが「日本企業の共通課題」と言えるのか。国が介入するケースが全体の過半に達するのならば「日本企業の共通課題」かもしれない。だが、そういう状況とは思えない。東芝はかなり特殊なケースに分類できるのではないか。

国の民間介入は競争力を削ぐ」という主張も納得できなかった。ここで言う競争力が「東芝メモリ」のことならば、「高い買収額を提示した候補者」に買われる方が競争力を高めるとは限らない。2兆1000億円で買収する企業の方が、2兆円で買収する企業よりも東芝メモリの競争力を高められると言える根拠はないと思える。

では、東芝本体はどうか。東芝が「淘汰されるべき会社」だとして、「淘汰される」と競争力が高まるという論理も理解できない。「淘汰される東芝が消滅する」という意味ならば、東芝そのものがなくなるのだから、東芝の競争力が高まるはずがない。

東芝メモリの売却に国が介入する必要はないとは思う。ただ、介入すると「競争力を削ぐ」とか、介入しなければ競争力が削がれないという話ではないだろう。

次に3番目の「東芝の決断力・ガバナンスに問題あり」という項目にも注文を付けたい。ここの説明には矛盾を感じた。

【ダイヤモンドの記事】

東芝役員が、銀行が推す日米連合に東芝メモリを売ろうとするグループとそれ以外に分裂。国と銀行に依存して意思決定能力を失った。



◎銀行はどっち側?

上記の説明だと銀行は「日米連合」への売却を求めていたと考えるほかない。しかし、別の図では銀行のところに「(日米連合でも日米韓連合でも)どっちでもいいから早く売って、金を返せ」という吹き出しが付いている。本文中にも「『どこでもいいから早く決めてほしい』と早期決着を求める主力行」と出てくる。辻褄が合っていない。
豪雨被害を受けた筑前岩屋駅(福岡県東峰村)
          ※写真と本文は無関係です

さらに言えば「東芝の決断力・ガバナンスに問題あり」は「日本企業の共通課題」とは言い難い。あくまで東芝の話だ。「国と銀行に依存して意思決定能力を失った」姿が日本企業に共通するとは考えにくい。そもそも、ほとんどの企業は経営危機に陥っても「」に依存できないはずだ。

結局、この記事は読むに値する中身になっていない。記事を担当した千本木啓文記者と村井令二記者には猛省を促したい。


※今回取り上げた記事「DIAMOND REPORT~遅過ぎた決着 東芝メモリ売却 買い手が二転三転した理由と代償
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/21428


※記事の評価はE(大いに問題あり)。千本木啓文記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Eへ引き下げる。村井令二記者への評価はEで確定とする。今回の記事については以下の投稿も参照してほしい。

東芝メモリ買い手を「強盗と詐欺師」に見せる週刊ダイヤモンド
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_2.html

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