九州北部豪雨後のJR日田彦山線(福岡県東峰村) ※写真と本文は無関係です |
具体的に見ていこう。
【日経の記事】
米国株式の長期上昇相場は8年を経過した。株高を支えた量的金融緩和策の転換を控え、国内外の金融資本市場の一部では先行き警戒感も出始めている。いつかはやって来る相場の転機に備え、個人の資産運用も少しずつ守りを固めたい。
「すでに一部の資産では調整が始まっている」。ピクテ投信投資顧問の萩野琢英社長はそう指摘する。
米連邦準備理事会(FRB)は今月にも資産の縮小を決める見通し。米金融政策はリーマン危機後の量的緩和から正常化に向かう。足元で米国上場のMLP(共同投資事業)や不動産投資信託(REIT)の相場がもたついているのは、金融機関の貸し出し態度が先々厳しくなる可能性をにらんでのことという。
◎今も「量的金融緩和策」が続いてる?
言いたいことは分かるが、米国に関して「量的金融緩和策の転換を控え」と説明するのは感心しない。「米国は今も量的金融緩和策を採用している」とのニュアンスを感じるからだ。実際には2014年に量的緩和策を終了させている。
「今月にも資産の縮小を決める見通し」となったことを受けて「量的金融緩和策の転換を控え」と書いたのだろうが、正確さに欠ける。
今度は後半部分を見ていこう。記事の中で最も理解に苦しんだのが以下の記述だ。
【日経の記事】
萩野氏はMLPやREITなど、レバレッジ(借金活用による利益極大化)をかけた資産からの撤退に加え、今後は資産分散の徹底、資産全体のリスク抑制、株式や債券とは異なる値動きをするヘッジファンドの組み入れなどが大事になると指摘する。
これらを個人が実行するのは難しく、こうした運用をするバランス型投信に一部、資金シフトするのが現実的な対応になる。「相場の急変時には現金の組み入れ比率を5割程度に引き上げるような、機動的に資産配分を変更できるバランス型投信を選びたい」と話す。
◎「レバレッジ」がダメなら…
「ピクテ投信投資顧問の萩野琢英社長」は「MLPやREITなど、レバレッジ(借金活用による利益極大化)をかけた資産からの撤退」が大事だと言っているらしい。REITは「借金」も活用して不動産を購入するので「レバレッジをかけた資産」と呼んでいるのだろう。だとしたら、株式もダメではないか。多くの上場企業では「借金活用」によって事業展開している。なのに「バランス型投信を選びたい」とは、どういう考えなのか。バランス型投信を選んでしまうと、ほとんどの場合は株式も投資対象に入ってしまう。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市※写真と本文は無関係です |
さらに言うと、「MLPやREITなど、レバレッジ(借金活用による利益極大化)をかけた資産からの撤退」は分散投資の観点からはマイナスだ。「資産分散の徹底」を図るならば、REITなども入れた方がよい。
「バランス型投信に一部、資金シフトするのが現実的な対応になる」という北沢所長の説明も納得できない。記事の中で北沢所長は「物価上昇や今後の消費税率引き上げを想定すると、現金を保有し資産の実質的な目減りを放置するのは得策ではない」と訴えてきた。なのに「相場の急変時には現金の組み入れ比率を5割程度に引き上げるような、機動的に資産配分を変更できるバランス型投信」を選んでどうする。「現金を保有」するのは「得策ではない」と言ったのを忘れてしまったのか。
「現金の組み入れ比率を5割程度に引き上げるような」バランス型投信を保有するぐらいならば、現金そのものを持っていた方がマシだ。バランス型投信の現金部分には信託報酬がかかる。仮に2%とすると、金利マイナス2%の預金を抱えているようなものだ。積極的に保有資産を減らしたい人以外には薦められない。
さらに問題点の指摘を続けたい。次は以下のくだりだ。
【日経の記事】
では、これから資産づくりを始めるとしたら、今は時期が悪いのだろうか。龍谷大学の竹中正治教授は「定時定額の積み立て投資なら、スタートをためらう理由は何もない」と話す。
資産価格が最高値圏にあると仮定した場合、ここで一括投資をすれば単なる高値づかみ。しかし長期の積み立て投資なら、相場が今後下落しても安値で資産を仕込む好機になるからだ。
◎何が言いたいのか…
ここは何が言いたいのか解釈に迷った。まずは「最高値圏=未来も含めた最高値圏」との前提で考えてみよう。
鳥栖プレミアム・アウトレット(佐賀県鳥栖市) ※写真と本文は無関係です |
その場合「ここで一括投資をすれば単なる高値づかみ」とは言える。しかし、「長期の積み立て投資なら、相場が今後下落しても安値で資産を仕込む好機になる」とは思えない。今の相場が「未来も含めた最高値圏」にあるのに、これから「長期の積み立て投資」をしようとするのは、かなり奇特な人ではないか。
「安値で資産を仕込む好機になる」になったとしても、元の相場に戻るのが精一杯では投資対象として魅力がなさすぎる。投資に関して「スタートをためらう理由」にはなるはずだ。
では「最高値圏=現在まででの最高値圏」としたらどうか(記事の書き方から判断して可能性としては低い)。これだと「ここで一括投資をすれば単なる高値づかみ」とは言い切れない。さらに値上がりが続いて大きな利益を得る可能性も十分にある。
記事には他にもツッコミどころがあるのだが、この辺りで終わりにする。北沢所長の言うことが投資初心者にとってあまり参考にならないのは分かってもらえたと思う。
今回の記事は「いつかはやって来る相場の転機に備え、個人の資産運用も少しずつ守りを固めたい」時にはどうすべきかがテーマだった。これに関しては、リスク資産の比率を減らせばいいだけだ。例えば、リスク資産(株式など)7割、安全資産(国債など)3割で運用している人は、その比率を五分五分にするといった具合だ。
リスク資産に投資するために信託報酬の高いバランス型投信などに手を出す必要はない。と言うか手を出してはダメだ。今回の記事でバランス型投信を推薦していたのは「ピクテ投信投資顧問の萩野琢英社長」だった。そしてもちろん、ピクテではバランス型投信を手掛けている。
※今回取り上げた記事「相場転機に備え守り固める 為替ヘッジや分散重視」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170902&ng=DGKKZO20639970R00C17A9PPE000
※記事の評価はD(問題あり)。北沢千秋QUICK資産運用研究所長への評価はDを維持する。北沢所長に関しては以下の投稿も参照してほしい。
日経 北沢千秋編集委員への助言(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_30.html
日経 北沢千秋編集委員への助言(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_11.html
日経 北沢千秋編集委員への助言(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_38.html
説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_62.html
説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_15.html
説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_1.html
日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_81.html
日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_17.html
日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_18.html
生存者バイアス無視の日経「定説覆す?アクティブ投信」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_23.html
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