豪雨被害を受けた比良松中学(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
世界貿易機関(WTO)によると2016年の世界貿易量は前年比1.3%増と15年ぶりに世界の経済成長率(2.3%)を下回った。17年は2.4%増を見込むが、これも世界銀行の成長率見通し(2.7%)を下回る。
貿易の保護主義、移民制限――。英国のEU離脱やトランプ政権の誕生を招いた内向き志向は、ヒト、モノ、カネの自由な流れを促すグローバル化による世界の成長を阻みかねない。
G20会議の起源は、今から20年前のアジア通貨危機にさかのぼる。新興国発の危機に対処するため米国が主導して1999年にG20財務相会議を創設した。ところが今は米国が輸入制限をちらつかせ、中国、ロシア、インドなどBRICS首脳が保護主義反対を訴える構図に変わった。
米国抜きのG19では自由貿易体制やグローバル経済は守れないことをトランプ氏が気づくまで、世界は米国を説得し続けるしかないようだ。
◎現状は自由貿易体制?
「米国抜きのG19では自由貿易体制やグローバル経済は守れない」と言うのだから、藤井編集委員の考えでは、既に「自由貿易体制」が実現できているのだろう。だが、そうは思えない。「自由貿易」とは「国家が商品の輸出入についてなんらの制限や保護を加えない貿易。輸入税・輸入制限・為替管理・国内生産者への補助金・ダンピング関税などのない状態」(大辞林)を指す。米国だけでなくEUや日本も関税など貿易に関するある程度の「制限や保護」を残しているのだから、現状は「自由貿易体制」になっていない。
ついでに貿易量と成長率の関係に関しても注文を付けておきたい。
◎内向き志向だから貿易伸び悩み?
上記の記事を読むと「内向き志向が強まっているので貿易が伸び悩んでいる」との印象を受ける。だが、そうだろうか。「2016年の世界貿易量は前年比1.3%増と15年ぶりに世界の経済成長率(2.3%)を下回った」と言うが、英国のEU離脱決定は同年6月で米国の大統領選挙は同年11月。「英国のEU離脱やトランプ政権の誕生」が16年の貿易量に大きな影響を与えたとは考えにくい。
鳥栖プレミアム・アウトレット(佐賀県鳥栖市) ※写真と本文は無関係です |
16年の貿易量が伸び悩んだとすれば「目立った保護主義的な動きがなかったにもかかわらず貿易量の伸びが小さかった」と見るべきではないか。だとすると「英国のEU離脱やトランプ政権の誕生を招いた内向き志向は、ヒト、モノ、カネの自由な流れを促すグローバル化による世界の成長を阻みかねない」と警鐘を鳴らすのは少し無理がある。
そもそも貿易量の増加率が経済成長率を下回るということは、「貿易量が伸び悩んでも経済成長にはそれほど影響が出ない」との見方もできる。
さらに言えば、「移民制限」には貿易拡大効果が見込める場合もある。例えば、米国がメキシコからの移民に頼って米国内で自国民向けの自動車生産を続けているとしよう。「移民制限」でメキシコからの移民に頼れなくなれば、米国内での生産が難しくなり、メキシコなどからの自動車の輸入が増える。これが望ましい姿かどうかは別として、貿易量の伸び率を重視するならば「移民制限」はプラスに作用する可能性も十分にある。
「内向き志向が強まると保護主義的な政策が実行に移されなくても貿易を抑制してしまうのか」「貿易量の伸びと経済成長にはどの程度の因果関係があるのか」といった点について、藤井編集委員にはもう少しじっくり考えてほしかった。
※今回取り上げた記事「米抜き協調に限界」
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170709&ng=DGKKZO18650780Z00C17A7MM8000
※記事の評価はC(平均的)。藤井彰夫編集委員への評価も暫定でCとする。
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