豪雨被害を受けた家屋(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係です |
まず以下のくだりを見てほしい。
【ダイヤモンドの記事】
3年ぶりに訪れた北京では──。「半年に1度で、ギリギリキャッチアップできるかな」「リアルな中国を知るには2カ月に1度でも足りないと思いますよ」。
どうも、動きがさらに加速しているようなのである。確かに、街の景色は様変わりした。端的に言えば、スマートフォンがないと身動きが取れない。スマホがないと生きていけなくなった。
◎スマホなしで生きていける社会の方が…
中国は「スマートフォンがないと身動きが取れない」社会になっているらしい。これが本当だとして、「日本は負けた」と感じるだろうか。個人的には、スマホなしでは生きられない社会よりも、スマホなしでも生きていける社会の方がいい。あえて勝ち負けで言えば、スマホなしで生きられる日本の勝ちだ。
記事には以下のような記述もある。
【ダイヤモンドの記事】
実際に、中国の超キャッシュレス社会を体験してみたいと思い、銀行口座を作ることにした。
現在、外国人が銀行口座を作るハードルが高くなっている。政府が人民元の流出を防ごうとコントロールしているようだ。口座開設の難しさについては事前に分かっていたので、研修目的で現地企業に雇ってもらい労働実績を作ることで口座を開設できた。
ちなみに、口座開設には中国の携帯電話も必須になる。ただし、スマホを購入すること自体には特段のハードルはなく、すんなりと買うことができた。
後ろめたいことはないのに、たった1枚のクレジットカードを作るだけで半日も要してしまった。これで全ての準備が完了!
◎中国は外国人にとって最悪?
記事には「『中国での豊かで便利な生活を手に入れるには、まず中国人であることが条件』とある現地駐在員は言う」との説明もある。「超キャッシュレス社会」なのに、外国人にとってキャッシュレスで決済するのが非常に難しいとなれば、外国人旅行者にとっては最悪だ。
九州北部豪雨後の福岡県立朝倉光陽高校(朝倉市) ※写真と本文は無関係です |
記事の解説が事実ならば、中国を旅行で訪れたたいとは思わない。そんな国が本当に「勝っている」のか。
ただ、「スマートフォンがないと身動きが取れない。スマホがないと生きていけなくなった」という説明は怪しい気がする。記事に付いた表を見ると、中国の2016年のスマートフォン普及率は58%。つまり、スマホを利用していない人がかなりいる。「スマホがないと生きていけなくなった」こういう人たちは中国でどうやって生きているのか。
記事で前向きに紹介している自転車シェアリングも、褒められたビジネスではない。
【ダイヤモンドの記事】
日本上陸が話題になっている自転車シェアリングの「モバイク」。北京・中心地区の歩道には、おびただしい数の自転車が割に整然と並んでいる。シェアリング会社によってカラーが違っていて、オレンジ、黄色、緑、青など色とりどりの自転車が混在している。
このシェアリングサービスが急速に広まったのは、わずか半年前のこと。にもかかわらず、すでにシェアリング会社の淘汰が始まっている。「2カ月に1度」の動きとはこういうことか!
30分以内ならばどこでも乗り捨て可能で0.5元(約8円)。キャンペーンを利用すればタダでも乗れる。そんな採算度外視の競争を繰り広げた結果、オレンジの「モバイク」と黄色の「ofo」が最終決戦に臨んでいる。乗り方は簡単だ。スマホの電子決済で料金を支払う。
◎「どこでも乗り捨て可能」は素晴らしい?
自転車シェアリングで「どこでも乗り捨て可能」を認めているのが怖い。好き勝手に乗り捨てられたら危険だし邪魔だ。ダイヤモンドの記事では触れていないが、中国でも社会問題になっているようだ。それはそうだろう。「どこでも乗り捨て可能」を認める国と認めない国があったら、認めない国に住みたい。
タクシーに関しても気になる記述があった。
【ダイヤモンドの記事】
北京では、流しのタクシーをつかまえることは至難の業だ。手を挙げて空車のタクシーを止めようにも、乗車拒否して去っていってしまうのだ。
そこで、皆が利用しているのが配車アプリ。タクシーを呼び、現在位置を知らせて乗車、お会計もスマホ決済で完結してしまう。最もポピュラーなのが、「Didi Chuxing(滴滴出行)」で、昨年には、配車サービス本家のUberチャイナを買収するなど勢力拡大中だ。
◎「タクシーがつかまらない国」の勝ち?
「北京では、流しのタクシーをつかまえることは至難の業だ。手を挙げて空車のタクシーを止めようにも、乗車拒否して去っていってしまうのだ」という説明が引っかかる。流しのタクシーの利用が難しいから「配車アプリ」に頼るのならば、むしろ不便な国だ。大都市であれば容易に流しのタクシーが拾える日本の方が便利だ。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市内 ※写真と本文は無関係です |
「配車アプリ」で「タクシーを呼び、現在位置を知らせて乗車、お会計もスマホ決済で完結してしまう」というのも特に目新しさは感じない。電話でタクシーを呼んでクレジットカードで決済するのは、日本でも随分と前から可能だ。タクシーを呼ぶ「配車アプリ」も日本でも利用できる。日本はどこで負けているのだろうか。
ついでに言うと「流しのタクシーをつかまえることは至難の業」で、めったに止まってくれないとすれば、北京で営業している流しのタクシーはどうやって収益を上げているのか疑問が残る。
最後に記事の筆者に日常生活について1つ助言したい。
【ダイヤモンドの記事】
日本では、手数料の高さからクレジットカードが使えない飲食店が少なくない。コンビニでの買い物は小銭で、切符はJR東日本の「スイカ」、飲食店ではクレジットカード決済と現金決済を併用──となると、結局、普段から電子マネーも小銭もお札も持ち歩かなければならない。つくづく、日本のIT後進国ぶりを痛感した。
◎「コンビニでの買い物は小銭」?
筆者は「コンビニでの買い物は小銭」で決済しているようだが、少なくとも大手のコンビニではクレジットカードが使える。「日本のIT後進国ぶり」をそんなに嘆くのならば、コンビニではクレジットカードを使ってみてはどうか。
また、百歩譲ってコンビニでクレジットカードが使えないとしても、「小銭もお札も持ち歩かなければならない」は言い過ぎだ。「お札」があれば、「小銭」がなくてもコンビニで買い物ができる。おつりをもらえばいいだけだ。そんなことは言われなくても分かっているはずだ。なのに上記のような書き方をしているのは、無理に「日本のIT後進国ぶり」を強調しているからではないか。
今回のような記事の書き方をしていると、読者からの信頼を失ってしまうだけだ。特集を担当した「中国特別取材班(個人名は明かされていない)」のメンバーは、そのことを肝に銘じてほしい。
※今回取り上げた記事「とっくに日本は負けていた! キャッシュレス社会の衝撃」
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/20651
※記事の評価はD(問題あり)。
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