2017年5月27日土曜日

良い意味で日経ビジネスらしくない特集「ヤマトの誤算」

日経ビジネス5月29日号の特集「ヤマトの誤算~本当に人手不足のせいなのか」は、良い意味で日経ビジネスらしくない内容だった。往時の週刊ダイヤモンドを彷彿させるような批判精神あふれる特集となっていた。
小倉城(北九州市)※写真と本文は無関係です

本体とも言える日本経済新聞が「宅配クライシス」と名付けてキャンペーンを展開するなど、ヤマト寄りの報道を続ける中で、ヤマトに対して「本当に人手不足のせいなのか」「アマゾンの被害者なのか」との問題意識を抱き、批判的に斬り込んでいった姿勢は称賛に値する。

今回の特集ではヤマトホールディングスとヤマト運輸が社長インタビューに応じている。にもかかわらず、臆せずヤマトを批判的に取り上げるのは、従来の日経ビジネスのイメージとはかけ離れている。何か好ましい変化が編集部内に起きているのかもしれない。

ここでは「PART2 誤算の研究~宅配危機を招いた経営の責任」という記事の中から、経営陣を批判的に描いている部分を抜き出してみる。

【日経ビジネスの記事】

夕方以降はアマゾンなどの当日配送が現場を苦しめる。ネット通販の荷物が営業所に届き、大量の荷物を午後7~9時に宅配しなければならない。以前は遅番のドライバーが夜を担当していたこともあったが、この数年は多くの社員が朝から晩まで勤務している。こうした現場の負荷増加の一部は、サービス残業に支えられていた。

経営陣は昨夏から異変に気付き働き方改革に動いたというが、現場は明らかにそれより前に疲弊していた。ヤマト運輸労働組合の森下明利・中央執行委員長は、「数年前から現場の窮状を会社側に申し入れていた」と言う。

現場の窮状の把握が遅れた原因として考えられるのが、「生産性向上」への過信だ。データ上は生産性が向上しているように見えても、経営数値に表れないサービス残業に支えられている場合もある。ヤマトホールディングス(HD)の山内雅喜社長は次のように話す。

「ドライバーの携帯端末で労働時間を管理していた。携帯端末で認識していなかった部分(編集部注:サービス残業)があれば、結果的に(労働時間が分母、荷物の数が分子の)割り算としては生産性が高まっていたことになる」

ヤマトは、パートが宅配ドライバーの作業を手伝う「チーム集配」などで、業務の効率化を目指してきた。こうした取り組みで生産性がある程度向上したことは確かだろう。しかし、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の安藤誠悟シニアアナリストは、「従業員の増加率に比べて宅急便の個数の増加率が大幅に上回っている。これだけ1人当たりの生産性が上がっていれば、経営陣はもっと早くおかしいと気づくべきだった」と指摘する。

◇   ◇   ◇

記事では「ヤマトホールディングス(HD)の山内雅喜社長」の言い分を安易に受け入れずに、アナリストのコメントなどを使って経営陣の問題点を指摘している。「世間で厳しく叩かれていない企業」を日経ビジネスが特集で批判的に取り上げているのは、やはり意外だ。
平尾台(北九州市)※写真と本文は無関係です

ただ、「サービス残業」に関しては物足りなさを感じた。ネット通販の普及などで荷物が多くなり残業が増えるのは分かる。だが、それがサービス残業になるのは、また別の話だ。今回の特集では「なぜサービス残業が起きたのか」の分析が甘い。

上記のくだりを読むと、「経営者は気付かなかった」との前提に立っているようだ。だが組合が「数年前から現場の窮状を会社側に申し入れていた」のであれば、「昨夏」までサービス残業に気付かなかったのは不自然だ。

特集を読んだ印象では「仕事の急増に対応して多くの従業員が自発的にサービス残業をした」と感じられる。だが記事でも指摘しているように「約190億円というヤマトの残業代未払いの額はあまりに大きい」。多くの現場で従業員にサービス残業を上から強いていたと考えるのが自然だ。だとすると、経営陣が気付かないうちにサービス残業が広がった可能性は低いだろう。「経営陣もサービス残業に気付いていたはずだ」と断定するのは難しいとしても、もう少し突っ込んで責任を追及してほしかった。

とは言え、特集全体への高い評価は揺らがない。特集を担当した大西孝弘記者、村上富美記者、大竹剛副編集長には、心から賛辞を贈りたい。


※特集の評価はB(優れている)。特集の担当者への評価は、大西孝弘記者と村上富美記者を暫定でBとする。大竹剛副編集長への評価はD(問題あり)からC(平均的)に引き上げる。

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