2017年4月28日金曜日

日経「Q&A~高齢者のがん、治療指針なぜ作成」にも残る疑問

27日の日本経済新聞朝刊1面の「高齢者のがん治療に指針 厚労省、抗がん剤に頼らぬ選択肢」という記事に続いて、28日の朝刊経済面でも「Q&A~高齢者のがん、治療指針なぜ作成 オプジーボ登場、国の財政に影響」との解説記事を掲載していた。詳細に報じようとする姿勢は評価できるが、この記事にも疑問は残る。
久留米大学医療センター(福岡県久留米市)

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

厚生労働省は高齢のがん患者を治療する際の指針(ガイドライン)の作成に乗り出す。治療データの大規模な調査により、抗がん剤を投与した場合の延命効果などを検証し指針に反映する。世代を限った治療方針を初めて検討する背景には何があるのか。

Q なぜ新たに指針を作成するのか。

A 国の財政に影響を与える抗がん剤が登場したことが一つのきっかけだ。2014年に承認された抗がん剤「オプジーボ」は年1兆7500億円必要との試算も出た。効く患者と効かない患者もいる中、医療現場で「どこまで高額の抗がん剤を使っていいのか」と悩む声も出ているからだ。

Q 対象を高齢者にした理由は。

A 若い世代に比べ高齢者は体力の衰えなどで亡くなってしまうこともあり、抗がん剤による延命効果は低くなるもし延命効果がなければ患者の生活の質(QOL)を上げるため苦痛を和らげる緩和ケアという選択肢もあるためだ。

Q どうやって調べるのか。

A 新たに高齢者を対象にした臨床試験で結果を得るには数年以上かかる。国立がん研究センターがこれまで治療した高齢者約1500人の蓄積データを分析したが、がん種別では対象人数が少なく延命効果を確認できなかった。そのため膨大なデータを遡り大規模調査に乗り出すことになった

Q 患者にはどんな影響があるのか。

A 延命効果がなければ高額の抗がん剤を保険適用で使えなくなる可能性がある。財政が限られる中、医療費の削減につながるメリットはあるが英国でも年齢による抗がん剤の使用制限を持ち出した際、患者などから大きな反発があった。今後、大規模調査の結果と厚労省が策定する指針は大きな議論を呼びそうだ。


◎話が変わっているような…

27日の1面の記事では「 厚生労働省は高齢のがん患者を治療するときの指針(ガイドライン)を新たに作成する。患者が少しでも希望する暮らしを送れるように、抗がん剤を過度に使わず、痛みや苦しみを和らげる治療を優先することを選択肢として示す方向だ」と書いていた。しかし、今回の「Q&A」では少し話が変わっている。
流川桜並木(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

今回は「国の財政に影響を与える抗がん剤が登場したことが一つのきっかけだ。2014年に承認された抗がん剤『オプジーボ』は年1兆7500億円必要との試算も出た」と書いている。1面の記事では「患者が少しでも希望する暮らしを送れるように」と厚生労働省が患者本位で考えているような印象を与えていた。実は「国の財政」への影響を抑える方策なのか。だとすると、1面の記事の報じ方に問題を感じる。


◎「オプジーボ」問題と分けて考えないと…

さらに言えば、「オプジーボ」などの免疫チェックポイント阻害薬と、それ以外の抗がん剤(ここでは「従来型抗がん剤」と呼ぶ)は分けて考えないと意味がない。理由は2つある。前提として、従来型抗がん剤は効果があるかどうか微妙だが、免疫チェックポイント阻害薬は効く人には効くとしよう。

従来型抗がん剤に延命効果が認められないとしても、免疫チェックポイント阻害薬は別だ。効く人には効くのだから、患者本位で考えれば緩和ケアを中心に据える必要はない。「あまりに高額なので、財政負担の面から一定以上の年齢の人には保険適用を認めない」という考え方は一理ある。しかし、従来型抗がん剤の効果の乏しさを根拠に免疫チェックポイント阻害薬の使用を制限するのは無理筋だ。

2番目の理由は、免疫チェックポイント阻害薬に関するデータが乏しいことだ。記事によると「抗がん剤を投与した場合の延命効果などを検証し指針に反映する」らしい。どうやって検証するかと言うと「新たに高齢者を対象にした臨床試験で結果を得るには数年以上かかる」との理由で、「膨大なデータを遡り大規模調査に乗り出す」という。つまり既存のデータを活用するわけだ。

しかし「オプジーボ」は「2014年に承認された」ばかりだ。保険適用となるがんの種類が増えていくのもこれからだ。なので、いくら過去の「膨大なデータ」を遡っても、延命効果に関する有用な情報は得にくい。仮に得られるとしても、わずかな種類のがんにとどまるはずだ。


◎既に「延命効果」は分かってる?

今回の解説記事でもう1つ気になった点がある。「若い世代に比べ高齢者は体力の衰えなどで亡くなってしまうこともあり、抗がん剤による延命効果は低くなる」という説明だ。この書き方だと、各年代で抗がん剤がどの程度の延命効果を持つのか分かっているよう印象を受ける。だとすると、改めて「大規模調査に乗り出す」必要はない。
矢部川沿いの桜(福岡県八女市)※写真と本文は無関係です

しかし、記事では「もし延命効果がなければ」と続けている。だとすると必ずしも「延命効果」は確認できていないことになる。

「60代以下には延命効果があり、70代以降では下がると確認できている。ただ、70代以降でも効果があるかどうかは確認できていない」ということであれば、記事の説明でも問題ない。だが、現実的にはちょっと考えにくい。

今回のガイドライン作成は結局、オプジーボ問題を受けた医療費抑制が目的なのだろう。その狙いをぼかそうとして「患者の生活の質(QOL)を上げるため苦痛を和らげる緩和ケアという選択肢」といった話を厚生労働省が持ち出しているのではないか。

だからと言って記者が厚労省と歩調を合わせる必要はない。オプジーボ問題(医療費の問題)を抗がん剤の延命効果の問題とごちゃ混ぜにせず、きちんと分けて議論が進むように記事を書いてほしい。


※今回取り上げた記事「Q&A高齢者のがん、治療指針なぜ作成 オプジーボ登場、国の財政に影響
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170428&ng=DGKKZO15852730X20C17A4EE8000


※記事の評価はC(平均的)。27日朝刊1面の「高齢者のがん治療に指針 厚労省、抗がん剤に頼らぬ選択肢」という記事に関しては以下の投稿を参照してほしい。

色々と疑問浮かぶ日経1面「高齢者のがん治療に指針」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_27.html

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