草千里ヶ浜(熊本県阿蘇市)※写真と本文は無関係 |
この企画でよくゴーサインが出たものだ。誰か止めようとする者はいなかったのか。9面の関連記事には「松尾博文、村山恵一、小川義也、丸山修一、加藤貴行、久門武史、佐野彰洋、鈴木大祐、長縄雄輝、平本信敬、高見浩輔、本田幸久、岩戸寿、黒瀬泰斗、寺井浩介、山口平、上間孝司が担当します」と出ていた。予想を覆す素晴らしい企画にこの17人が仕上げてくれることを祈ろう。
まず、連載の最初の事例が「断絶」を感じさせるものか見てみよう。
【日経の記事】
にゅるっ。にゅるっ。歯磨き粉に見えるペーストを押し出すと、石のように固くなっていく。形は自由自在だ。
骨の代わりに使える医療用の人工骨。育ての親の一人、日本特殊陶業インプラント技術課の浜口泰治さんは全国の病院を飛び回り、時には医師らと手術室に入る。
10時間近く立ちっぱなしのこともあるが、疲れはない。「今年は米国市場を開拓する。会社の新しい柱に育てたい」
日特は車のエンジンに不可欠な点火プラグで世界市場の4割を握る。得意のセラミック技術を使い、畑違いの分野に入る。
「今、動かないと間に合わない」。尾堂真一社長の背中を押したのは、大口取引先のトヨタ自動車が1年あまり前に打ち出した「脱・ガソリン車」宣言だった。
2050年までにエンジンだけで走る車をほぼゼロにする――。電気自動車(EV)など次世代エコカーが増えれば、点火プラグ市場は消える。
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「2050年までにエンジンだけで走る車をほぼゼロにする」のならば、かなり先の長い話だ。ある日突然に世界中がエコカーで埋め尽くされて、ガソリン車が一気に死滅するのならば「断絶」でもいいだろう。しかし、そうなりそうな話は記事には出てこない。
そもそも、主力事業が安泰なうちに将来の市場変化を見越して手が打てるのならば、そこで起きている変化は「断絶」と呼ぶようなものではない。
連載の最初の事例でもこれだけ説得力がないのだから、後は推して知るべしだ。記事の最後の事例は以下のようになっている。
【日経の記事】
断絶の時代を拒むか。成長に生かすか。選択肢は私たちが握っている。
利用者のマナー問題から規制の動きも広がる民泊。仲介大手エアビーアンドビーのサイトで「Taka」のニックネームを使う埼玉県在住の男性会社員は1年半ほど前に賛成派に転向した。
英語が苦手で、見ず知らずの人が家に入ることに抵抗もあった。トラブルの心配は尽きなかったが、「観光客をもてなすうち、変わっていく自分がいた。高齢化が進む郊外の街も民泊で活気づくのではないか」。この1月、Takaさんが貸し出す部屋はすでに予約で満杯という。
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これも辛い。短期間で既存のホテルや旅館が消えて「民泊」に置き換わるわけでもないだろう。なのになぜ「民泊」を材料に「断絶の時代を拒むか。成長に生かすか」と問えるのか。前提に無理があるので、説得力のある話に仕上げようがない。
さらに言えば、上記の「Takaさん」の話は辻褄が合っていない。
記事の説明を信じれば、「Takaさん」は民泊反対派から賛成派に「1年半ほど前に」転じている。その理由は、自宅を民泊に提供して「観光客をもてなすうち、変わっていく自分がいた」からだ。しかし、これは奇妙だ。民泊を始めてから賛成派に転じたのであれば、当初は反対派だったのに民泊を始めたことになる。どう理解すればいいのだろうか。
反対派だったのに事情があって民泊を始めたというケースがないとは言わない。だが、その場合は「事情」に必ず触れるべきだ。
この連載はやはり前途多難だ。
※記事の評価はD(問題あり)。
※今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。
第2回も予想通りの苦しさ 日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_3.html
肝心の「どう戦う」が見当たらない日経連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_5.html
「メガヨット」の事例が無駄な日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_25.html
そもそもファストリは「渡り鳥生産」? 日経「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_7.html
最後まで「断絶」に無理がある日経連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_8.html
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