野外彫刻「遊星散歩」 上野丘子どものもり公園 展望広場(大分市) |
【日経の記事(12月8日)】
世界景気の不確実性が高い中でも株高、円安を起点に消費を喚起し、国内景気の浮揚につなげたい。その好循環のカギは賃上げだ。安倍晋三首相は来年の春季労使交渉で「今春並み以上」の賃上げをするよう経済界に求めた。4年目を迎える「官製春闘」の役割は一段と重みを増す。
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これを信じるならば、「円安を起点に消費を喚起し、国内景気の浮揚につなげたい」と考える日経は「4年目を迎える『官製春闘』の役割は一段と重みを増す」と「官製春闘」に大きな期待を寄せているはずだ。しかし、5日後には同じ朝刊1面で「『官製春闘』もういらない」と打ち出してしまう。その最終段落は以下のようになっている。
【日経の記事(12月13日)】
政労使が話し合うべきは時代に即した労働者への報い方ではないか。一律の労働者保護では強者が伸びず、成果なくもらいすぎる悪平等も生む。賃上げの空気しかつくらない「官製春闘」は4年で打ち止めにするほうがいい。
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どちらの記事が正しいとか間違っているとかの問題ではない。1週間も経たないうちに朝刊1面の企画記事で「『官製春闘』の役割は一段と重みを増す」と書いたかと思えば、一転して「『官製春闘』もういらない」と断言してしまう。そこにメディアとしての実力のなさを感じる。
「『官製春闘』は4年で打ち止めにするほうがいい」と書いているのだから、4年目までの「官製春闘」の重要性は否定していないとの弁明も不可能ではない。だが、かなり無理がある。「4年目を迎える『官製春闘』の役割は一段と重みを増す」と言われれば、5年目以降も「官製春闘」に期待していると受け取る方が自然だ。
8日の記事を担当した「景気動向研究班」と、13日の記事の筆者が別なのは分かる。だが、同じ新聞の同じ1面朝刊だ。180度違うとも言える主張を展開するのは感心しない。編集委員が署名入りで書く記事ならば「メディアとしての日経と個人の意見は別」とも解釈できる。だが、今回はそうではない。
矛盾に気付かなかったとすれば、チェックが甘すぎる。気付いていたのに止められなかったとすれば、組織としての風通しの悪さを感じる。いずれにしても褒められた話ではない。
13日の記事には、もう1つ矛盾を感じた。
【日経の記事(12月13日)】
そもそも春季労使交渉(春闘)など労使合意が及ぶ範囲は、大企業や製造業の正社員、現業に従事する労働者などに限られる。非正規労働者は全体の約4割を占め、労働組合の組織率も17%程度に下がった。
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「一律の労働者保護では強者が伸びず、成果なくもらいすぎる悪平等も生む」という理由で「『官製春闘』は4年で打ち止めにするほうがいい」と記事では主張している。一方、「そもそも春季労使交渉(春闘)など労使合意が及ぶ範囲は、大企業や製造業の正社員、現業に従事する労働者などに限られる」とも書いている。春闘の影響を受ける労働者が「限られる」のであれば「一律の労働者保護」とは言い難い。
ついでに、以下の段落に関しても注文を付けておこう。
【日経の記事(12月13日)】
戦後日本企業は終身雇用を前提に年功序列型の賃金で正社員に報いた。経営が順調で温かな労使関係を維持できるなら、毎年少しずつ賃金を上げるやり方でもいい。だが、事業規模や知名度では生き残れない。民間は時間でなく成果で報いる手法に向かいつつある。
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この説明は、厳しく言えば支離滅裂だ。「戦後日本企業は終身雇用を前提に年功序列型の賃金で正社員に報いた。経営が順調で温かな労使関係を維持できるなら、毎年少しずつ賃金を上げるやり方でもいい」と言うが、「年功序列型の賃金」は「毎年少しずつ賃金を上げるやり方」ではない。
「年功序列型の賃金」体系の下であっても、大幅な賃上げや賃下げは起こり得る。実際に1970年代のオイルショック時には大幅な賃上げとなった(もちろん物価も大きく上がった)。
「だが、事業規模や知名度では生き残れない」もつながりが悪い。「経営が順調で温かな労使関係を維持できる」企業は今もたくさんあるだろう。「事業規模や知名度では生き残れない」としても、それ以外の要因で「経営が順調」な企業は、なぜ「毎年少しずつ賃金を上げるやり方」を放棄する必要があるのか。
結局、この段落は何を訴えたいのか非常に分かりづらい。関係の乏しい話を無理に結び付けているように見える。
付け加えると、「民間は時間でなく成果で報いる手法に向かいつつある」という書き方も引っかかった。これだと企業が従業員に「時間」や「成果」を与えて、働きに「報いる」ように読める。「民間は時間ではなく成果に基づいて賃金を決める手法に向かいつつある」と言いたいのだろうが…。
※13日の記事の評価はD(問題あり)。
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