2016年12月20日火曜日

第2回で早くも「2030年」を放棄した日経「砂上の安心網」

日本経済新聞朝刊1面の「砂上の安心網~2030年不都合な未来」という連載は19日の第2回で早くも「2030年」の「不都合な未来」を描かなくなってしまった。第1回の内容から考えても、そうなる予感はあったが…。第1回の記事に「ご意見や体験談を取材班にお送りください」と書いてあったので、そこに出ていた取材班のメールアドレスに意見を送ってみた。ここではその内容を紹介したい。
夜明ダム(福岡県うきは市・大分県日田市)
              ※写真と本文は無関係です


◇取材班に送ったメールの内容◇


「砂上の安心網」取材班の皆さんへ

砂上の安心網~2030年不都合な未来(2) 超高額薬時代の序章 『革命』に揺らぐ皆保険」という記事に関して意見を述べさせていただきます。

まず気になったのは、第2回で早くも「2030年」を論じることを放棄してしまった点です。第1回でも「なぜ2030年に絞るのか」は曖昧でしたし、「2030年、支え合いは限界に」と断定しているのに、まともな根拠を提示していないといった問題はありました。それでも、「2030年」を描こうする意思は伝わってきました。

しかし、第2回では「2030年不都合な未来」に全く触れていません。取り上げているのは「2016年」の今そこにある問題です。第2回で「2030年」を描くことを諦めてしまうのならば、なぜ「2030年不都合な未来」というタイトルを選んだのですか。このタイトルを選んだ以上、石にかじりついてでも「2030年」の「不都合な未来」を読者に示し続けるべきです。

せっかくの機会なので、他にも引っかかった点を列挙しておきます。

【日経の記事】

人生が暗転した。肺にある腫瘍が脳にも転移し、主治医から事実上、余命6カ月だと告げられた。栃木県真岡市の医師、橋本紳一さん(57)のがんとの闘いは2010年3月から始まった。強力な抗がん剤治療を始め、味覚障害や手足のしびれ、脱毛が襲った。

◆疑問その1~転移までは「暗転」せず?

上記の書き方だと「肺にある腫瘍が脳にも転移」した時点で人生が「暗転した」と解釈できます。しかし、普通はがんだと判明した時点で「暗転」するのではありませんか。がんが見つかった時点で「転移」があったのかとも思いましたが、記事の書き方から判断すると、当初は肺だけだったのに、脳にも転移したから「暗転した」と理解する方が自然です。

ただ、記事からは「がんとの闘いが始まったのは、転移が見つかって余命6カ月と告げられてから」とも受け取れます。そうなると「がんだと分かった時点で脳への転移もあった」との解釈に傾きます。

説明が不十分なために読者を迷わせる書き方になっていませんか。


◆疑問その2~何のための「事実上」?

主治医から事実上、余命6カ月だと告げられた」というくだりで「事実上」は何のために入れているのでしょうか。基本的に要らない気がします。「明確には言われていないが、遠回しに6カ月だと示唆された」といった事情があるのならば「主治医から余命6カ月だと遠回しに告げられた」などとした方がよいでしょう。


【日経の記事】

生きるための耐えがたい苦しみ。最期まで闘い続けると誓った激烈な副作用から橋本さんを救ったのが新薬「オプジーボ」だった。

今春から投与を始めると、まず水を飲んでも歯を磨いても起きる強烈な吐き気が消えた。体調は大幅に改善し、「外食も楽しめる」と橋本さんは喜ぶ。

がん治療の「革命」――。オプジーボをはじめとするがん免疫療法に対し、世界中の研究者や医師が口をそろえる。現時点で全ての患者に効果があるわけではないが、一部の末期患者でがん細胞がほぼ消失する画期的な結果が出ている。

◆疑問その3~抗がん剤の副作用も消す?

記事を素直に受け取ると、オプジーボには抗がん剤の「激烈な副作用」を消す力があることになります。常識的に考えれば、それまで使っていた抗がん剤をやめてオプジーボに切り替えたために「激烈な副作用」から解放されたのでしょう。しかし、記事の書き方だと「オプジーボを飲めば従来の抗がん剤と併用しても『激烈な副作用』から逃れられる」と理解する人が出てきそうです(その解釈で正解なのかもしれませんが…)。

【日経の記事】

だが良いことばかりではない。「月300万円近くかかります」。3月にオプジーボを使い始めた福岡市の会社員、大西順平さん(仮名、67)は耳を疑った。

オプジーボは100ミリグラムで73万円。体重60キログラムの患者が1年間使うと薬剤費は約3500万円になる。世間の批判もあり、薬価改定の時期を待たずに異例の大幅値下げが決まった。

◆疑問その4~「月300万円」は自己負担?

上記の書き方だと、オプジーボを使い始めた大西さんは月300万円の自己負担を迫られたと受け取るのが自然です。実際には記事の後の方で書いているように「超高額薬も月数万円程度からの自己負担で利用できる」はずです。

「記事を最後まで読んでもらえば、月300万円の自己負担にならないのは分かるはずだ」と反論したくなるかもしれません。しかし、だったら「月300万円」が出てきた時点ですぐに説明すべきです。誤解を与えたまま話を進めるような書き方は感心しません。

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※記事の評価はC(平均的)。この連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「2030年に限界」の根拠乏しい日経1面「砂上の安心網」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/2030.html

「介護保険には頼れない」? 日経「砂上の安心網」の騙し
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_21.html

日経朝刊1面連載「砂上の安心網(4)」に見えた固定観念
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_62.html

どこが「北欧流と重なる」? 日経1面「砂上の安心網(5)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_42.html

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