福岡県立浮羽工業高校(久留米市) ※写真と本文は無関係です |
「shirou9237」さんから届いたコメントの最初の方を見ていく。
【コメントの内容】
まず僕の立場は前のコメントで書いたように「転職しやすさは労働市場のタイトさ≒(自然失業率を基準にした)失業率の趨勢で決まる」です。
その上であなたの書いた二例、
①>求人100人に対し、転職市場のプレーヤーが90人~新たに解雇された30人のプレーヤー~20人があぶれてしまう
②>30人を解雇した企業が新たに30人を雇えば需給には中立
①は失業率が上がり、自然失業率を超えてしまっています。労働市場はゆるんでおり、当然労働者側不利な環境になります。②は失業率が変わっていません。
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◎どうやって失業率を計算?
「①は失業率が上がり、自然失業率を超えてしまっています」というのは不可解だ。厳しく言えば間違っている。①の条件からは、そもそも失業率の水準を決められない。なので「自然失業率を超えてしまっています」と断定する根拠はない。
①の場合、「失業者20人」とは言えるかもしれない。失業率を求めるには分母の労働力人口が必要だが、何ら前提を置いていない。仮に労働力人口を2000人、自然失業率を3%としよう。失業者は20人なので失業率は1%だ。自然失業率の3%を下回っている。shirou9237さんの考えでは、労働市場の需給はタイトなはずだ。しかし、なぜか「労働市場はゆるんでおり、当然労働者側不利な環境になります」との結論になってしまう。
以下の部分にも異議を唱えたい。
【コメントの内容】
>解雇規制の緩和によって新たな供給を生み出すことが「労働者側有利」に働くとは考えにくい
繰り返しますが解雇規制は有利不利とは「別問題」なのであって、当然解雇規制を緩和することが(労働需給的に)労働者有利に働くことはありません(同様に、不利になることもありません)。そして肝心の失業率は、基本的に経済政策で短期的に調整するものであって、解雇規制のような長期的な構造変化をもたらす政策で調整すべきものではありません。政策割り当てを間違ってはいけない。
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◎「労働者不利」はあり得る!
上記のコメントに対しては「解雇規制の緩和が労働者不利に働くことはあり得る」と言い切れる。単純化したモデルを考えてみよう。
太平洋の孤島のA国には100人の労働者がいる。全員が外資系企業のB社で働いていて、他に働く先はないとする。A国ではB社に労働者全員の雇用を義務付けており、解雇は禁止だ。全員の給与は国の定める最低賃金に張り付いていて、B社は利益を全て海外の親会社に配当として支払っている。B社としては「事業を継続する上では80人で十分だ。20人を解雇して親会社への配当を増やしたいが、解雇規制が厳しくてできない」と考えているとする。
ここで解雇規制を緩和して解雇自由に転換したらどうなるか。B社は20人を解雇し、人件費が浮いた分は利益を増やして配当の形で海外の親会社に流してしまうはずだ。A国の失業率は0%から20%に跳ね上がる。これでも「解雇規制は有利不利とは『別問題』」なのか。
「だから解雇規制は緩めるな」と言っているわけではない。B社の株主の立場で言えば「余計な規制のせいで株主の利益が侵害されている」との主張は可能だし、説得力はある。
だが「解雇規制は有利不利とは『別問題』なのであって、当然解雇規制を緩和することが(労働需給的に)労働者有利に働くことはありません(同様に、不利になることもありません)」というshirou9237さんの主張には同意できない。
なぜ自分とshirou9237さんの主張が食い違うのか。ヒントを与えてくれる記述があったので、そこを見ていく。
【コメントの内容】
そしてよく考えて欲しいのが次の点。仮にその人が本来800万円分の働きしかなかったとする。それでも1000万円で雇われていたとすると、別の人材から無用に200万円分奪っているのです。
1000万円もらい続けられる無能な社員には「やさしい環境」が、その分犠牲になってるスキルある人間にとっては、努力してるのに報酬をもらえない「厳しい環境」なのです。もしくは非正規でいいから200万円くらい稼ぎたい共働き主婦の働き口をひとつ奪っているかもしれません。
社会全体でこういうロスを抱える構造問題になっているなら、解雇規制緩和は、有能な社員に対して囲い込むための労働環境改善や賃上げをうながしうるし、また人々も、より正当な対価を得られるなら努力するインセンティブになるでしょう。
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◎定額の人件費を分け合ってる?
「仮にその人が本来800万円分の働きしかなかったとする。それでも1000万円で雇われていたとすると、別の人材から無用に200万円分奪っているのです」という断定は引っかかった。「別の人材から無用に200万円分奪っている」かどうかへの答えは「分からない」だ。
ほとんどの企業では、人件費の総額が絶対なものとして決まっているわけではない。1000万円もらっている人の給料が多すぎるから800万円に減らしたとしても、他の人の収入が増えるとは限らない。社用車の購入費や社長の交際費に回る可能性もある。shirou9237さんの主張には「労働者はあらかじめ決められた金額を奪い合っている」との前提を感じる。だが、現実はそうではない。
さらに言えば、800万円の年収が適正なのに1000万円もらっている“無能社員”がいるとしても、それは給与削減で対応すれば済む。浮いた200万円でパートを雇うのもいいだろう。解雇規制を緩和しなければ解決できない問題ではない。
※今回の件については「『転職しやすさが高成長を生む』? 日経の怪しい説明」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_75.html)、「『解雇規制の緩和』に関するコメントを受けての追加説明」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_90.html)を参照してほしい。
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