二重橋近くから見た丸の内周辺のビル(東京都千代田区) ※写真と本文は無関係です |
1月の日銀のマイナス金利政策の発表以降、ファンド勢は夏場にかけて銀行株の空売りを積み増していった。そして9月には日銀が「総括的検証」を発表。これを機に銀行株の空売りは買い戻された。次なる空売りの標的はディフェンシブ株(生活必需品とヘルスケア)。ディフェンシブ株の空売り残高はここにきて、銀行株を上回ってきた。
だが、ファンドの思惑通りに下げないのが今の相場。例えば、25日の取引時間中に通期業績予想を上方修正した雪印メグミルク株。当日こそ材料出尽くしで下げたが、26日は急反発した。
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◎銀行株への空売りは「機能した」ような…
記事の冒頭で「日銀の買い増しよりずっと前から日本では空売りが機能しなくなっているのだ」と川崎次長は書いている。一方で「ファンド勢は夏場にかけて銀行株の空売りを積み増していった。そして9月には日銀が『総括的検証』を発表。これを機に銀行株の空売りは買い戻された」とも述べている。銀行株の値動きから考えると、空売りは今年に入ってからも利益を得る手法として「機能した」のではないか。
◎上方修正ならば下がるはず?
ディフェンシブ株が下がらない例として川崎次長は「通期業績予想を上方修正した雪印メグミルク株」を挙げている。上方修正するような銘柄ならば「思惑通りに下げない」のは当然ではないか。例示するならば「大幅な業績下方修正があっても株価が下がらないディフェンシブ株」に言及した方が説得力はある。
記事の後半も見てみよう。
【日経の記事】
空売りが多い銘柄の騰落率を国際比較すると、今の状況はもっと複雑だ。
2015年初から日米欧アジア各市場で騰落率を比べると、日本だけが空売りの機能しない市場になっているのが一目瞭然。しかもこの傾向は日銀がETF買い入れ増額を決めた7月より前から顕著だ。つまり、日本で空売りが効かない「主犯」は、日銀のETF買いではないことになる。
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◎「日銀のETF買い」は「主犯」ではない?
上記の説明は意味不明だ。日本が「空売りの機能しない市場」になったのが15年の初めからで、「日銀がETF買い入れ増額を決めた」のが今年の「7月」。これで「日本で空売りが効かない『主犯』は、日銀のETF買いではないことになる」だろうか。
「増額」を決める7月より前にも「日銀のETF買い」はあった。「増額」が「主犯」ではないというなら分かるが「『主犯』は、日銀のETF買いではない」と断定する根拠は見当たらない。
最後に、この記事の最大の問題点に触れたい。
【日経の記事】
グラフをより詳しく見ると、16年に入ると日本だけでなく、世界各市場でほぼ同時並行的に空売りが機能しなくなってきているのが分かる。「今年は世界でロングショートの投資家が苦戦していることを映し出している」。野村証券の村上昭博チーフ・クオンツ・ストラテジストはいう。
なぜそうなったのか。「根本的な原因は、世界のマネーがアクティブ運用からパッシブ運用へとシフトしているからでしょうね」。野村のある幹部はいう。
よくよく考えれば、日銀のETF買いも指数を買うパッシブ運用の一つ。「コスト対比で最も効率的な運用」という大義名分が幅をきかせ、市場の「総パッシブ化」は世界で同時進行的に広がる。世界のヘッジファンドの運用成績さえも指数化され、ETFで安く買える時代だ。ただ、それが市場や株価の歪みを放置させている原因だとするなら、今の相場の「やりにくさ」の真相は「官製相場」よりもっと根深い。
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◎なぜ15年は「日本だけ」空売り機能せず?
川崎次長を信じるならば、15年は「日本だけが空売りの機能しない市場」だったのに、「16年に入ると日本だけでなく、世界各市場でほぼ同時並行的に空売りが機能しなくなって」いる。その「根本的な原因」は「世界のマネーがアクティブ運用からパッシブ運用へとシフトしている」ことだと分析している。
これは奇妙だ。15年に日本でまずパッシブ運用へのシフトが起こり、16年に入ると日本以外でもそれに続いたのならば分かる。しかし、記事ではアクティブからパッシブへのシフトがどの地域でいつ頃に進行したのかは触れず、「市場の『総パッシブ化』は世界で同時進行的に広がる」と書いているだけだ。だとしたら、なぜ15年に日本だけが「空売りの機能しない市場」になったのか。肝心な分析を欠いたまま記事は終わってしまう。
◎「日銀のETF買い」はやっぱり「主犯」?
川崎次長は「日本で空売りが効かない『主犯』は、日銀のETF買いではない」と言い切っていたはずだ。そして空売りが機能しない理由を「パッシブ化」に求め、「よくよく考えれば、日銀のETF買いも指数を買うパッシブ運用の一つ」と流れつく。日本市場ではパッシブ運用の中でも「日銀のETF買い」の存在感が大きい。それは2015年についても言える。
日本で空売りが機能しない理由をパッシブ運用比率の高まりに求めるのが正しいとすれば、パッシブ運用の中心的存在である「日銀のETF買い」を「主犯」と捉えるのが妥当だとも思える。そうなると、川崎次長の当初の分析は何だったのかという話になる。
※記事の評価はD(問題あり)。川崎健次長への評価もDを据え置く。同次長については「川崎健次長の重き罪 日経『会計問題、身構える市場』」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_62.html)、「なぜ下落のみ分析? 日経 川崎健次長『スクランブル』の欠陥」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_30.html)、「『明らかな誤り』とも言える日経 川崎健次長の下手な説明」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_27.html)、「信越化学株を『安全・確実』と日経 川崎健次長は言うが…」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_86.html)も参照してほしい。
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