2016年9月7日水曜日

「陸上男子400メートルリレー」で事実誤認?日経「十字路」

6日の日本経済新聞夕刊でDRCキャピタル代表取締役の青松英男氏が「陸上男子400メートルリレー」について「これまでメダルを取れるとは想像もできなかった競技」と説明していた。これには事実誤認があると思えたので、日経へ以下の問い合わせを送っておいた。日経からの回答はないだろう。
合所ダム(福岡県うきは市) ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

6日夕刊マーケット・投資2面の「十字路~経営オリンピック」という記事についてお尋ねします。記事の冒頭に「リオデジャネイロ五輪で日本代表選手が、陸上男子400メートルリレーなどこれまでメダルを取れるとは想像もできなかった競技で、メダルを獲得できたのは素晴らしかった」との記述があります。しかし、陸上男子400メートルリレーは2008年の北京五輪でも日本が銅メダルを獲得しており「これまでメダルを取れるとは想像もできなかった競技」ではありません。「想像もできない」どころか既にメダルを取っていたのです。

筆者である青松英男DRCキャピタル代表取締役は北京五輪での銅メダル獲得を知らなかったのでしょう。そうでなければ、記事のような書き方はしないはずです。記事の説明は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠を教えてください。

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ついでに追加で記事に注文を付けておきたい。記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

リオデジャネイロ五輪で日本代表選手が、陸上男子400メートルリレーなどこれまでメダルを取れるとは想像もできなかった競技で、メダルを獲得できたのは素晴らしかった。これらメダリストに共通しているのは、世界の競争水準に合わせた科学的方法で誰よりも練習してきたことである。

さて、経営オリンピックがあるとしたら、日本企業は団体戦でメダルどころか入賞にもはるかに及ばないだろう。まず代表的競技種目である株主資本利益率(ROE)で見ると、平均で欧州企業が15%程度、米国企業は20%程度なのに対して、日本企業は7%台である。日本企業は株主が期待する最低限のリターンすら出せていないのである。

問題は経営者が今後メダルを本気で取りにいく気構えがあるとは思えないことだ。例えば、5兆円に及ぶ空前の横並びの自社株買い。株主還元のためと言いながら、実の狙いはROEの分母である株主資本を減少させ、ROEを高く見せるだけのだまし討ちである。自社株買いは、本来株主全体が持つ経済的権利の対象である利益を、一部株主の元本買い取りで社外へ流出させており、残る株主にとっては還元ではなく剥奪でしかない。選手の身体をむしばむドーピングと似ている

自社株買いが正当化されるのは、株価水準が本来の企業価値より著しく低いと判断される時だけである。ROEの低い日本では、資金を投資して株主が期待するリターンを生み出すという経営者使命を放棄する敗北宣言だ。

日本企業のROEが低いのは主に利益率が低いためだ。販売管理費率が高いのである。そこにはIT(情報技術)を活用せず非効率な営業活動、しがらみにとらわれて途中で見切りのできない網羅的な研究開発などの問題が横たわっている。これらを世界基準で改善し、ぜひメダルを取りにいってほしい。


◎日本企業は「入賞」も無理?

青松氏は「経営オリンピックがあるとしたら、日本企業は団体戦でメダルどころか入賞にもはるかに及ばないだろう」と述べて、その後に日本企業のROEの低さを嘆いている。ROEについてはそうかもしれないが、「株式時価総額」の団体戦ならばどうか。米中に次ぐ銅メダルは取れそうだ。少なくとも「入賞にもはるかに及ばない」レベルではない。「日本はあらゆる種目でダメ」と受け取れる書き方は正確さに欠ける。


◎自社株買いが「ドーピング」ならば…

青松氏は自社株買いを「選手の身体をむしばむドーピングと似ている」と感じているようだ。ちなみに、米国では日本とは比べ物にならない規模で自社株買いが起きている。ならば米国の高いROEも「ドーピング」の結果ではないのか。ドーピングによって生まれた記録ならば、米国の得た「メダル」に価値はないし、そこに負けたからと言って恥じる必要もないはずだ。


◎自社株買いは「剥奪」?

この記事で最も気になったのが「一部株主の元本買い取りで社外へ流出させており、残る株主にとっては還元ではなく剥奪でしかない」との説明だ。理論的には「自社株買いは株主価値に中立」とされている。

例えば、10人の株主が1株1億円ずつ出資して10億円の現金を保有する企業を作ったとしよう。単純化のために事業活動はしないと仮定する。この時の1株当たりの価値は1億円のはずだ。ここで自社株買いをして1億円で1株を買い入れて消却する。その場合、企業価値(保有する現金)は10億円から9億円に減るが、株主も1人減るので1株当たりの価値は1億円で変わらない。

この会社の株主だった場合「残る株主にとっては還元ではなく剥奪でしかない」と感じるだろうか。上場企業であれば、アナウンスメント効果による株価上昇も期待できる。「剥奪でしかない」と言い切る青松氏の説明には納得できなかった。


◎「著しく」割安なときだけ?

自社株買いが正当化されるのは、株価水準が本来の企業価値より著しく低いと判断される時だけである」との説明にも同意できない。「著しく」がどの程度かは不明だが、10%は「著しく」に該当しないとの前提で考えてみよう。

先に述べた「10億円を保有する企業」では適正株価が1億円だ。これを9000万円で買い入れたらどうなるか。企業価値は9億1000万円になるので、残った9株には1株当たり1億100万円超の価値がある。つまり株主価値が向上している。自社株買いが正当化できるのは「著しく低いと判断される時だけ」との主張にも同意はできない。


◎ROEも「利益率」では?

日本企業のROEが低いのは主に利益率が低いためだ」という説明は不親切だ。ROE自体が一種の「利益率」なので、これではまともな説明になっていない。青松氏は「売上高純利益率が低いためだ」と言いたいのだろうが…。

ちなみに売上高純利益率が低くても、株主資本を増やさずに売り上げを伸ばせるのならばROEは高められる。売り上げが伸びないとの前提であれば話は別だが、そうでなければ薄利多売の収益構造でも高いROEを実現する余地は十分にある。

ついでに言うと「販売管理費率」という言葉の使い方も気になる。「販売管理費」とは「販売費および一般管理費」の略なのだろう。これを略するならば「販管費」としてほしい。「販売費および一般管理費」とは「販売を管理する費用=販売管理費」ではないはずだ。


※記事の評価はD(問題あり)。DRCキャピタル代表取締役の青松英男氏への評価も暫定でDとする。

追記)結局、回答はなかった。

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