坂井聖人選手の五輪出場などを祝う柳川高校(福岡県柳川市)の看板 ※写真と本文は無関係です |
まずは東洋経済に送った問い合わせの内容を見てほしい。問い合わせから2日が経過したが、回答はない。
【東洋経済への問い合わせ】
週刊東洋経済8月13-20日号の「Books&Trends~『娼婦たちから見た戦場 イラク、ネパール、タイ、中国、韓国』を書いたフォトジャーナリスト八木澤高明氏に聞く」という記事についてお尋ねします。この記事には「壊れた社会の中では売春がシステム化する」との見出しが付いています。しかし、記事中には見出しと一致する話が出てきません。
「取材した当時は、サダム・フセイン政権が崩壊した2004年ごろだった。離婚したり夫に先立たれたり、訳ありの女性にとって生きるすべは売春になる。壊れた社会の中で、一つのシステムにさえなっている」との八木澤氏のコメントはあります。ただ、これは「壊れた社会の中で売春がシステムになっている」という状態を説明しただけで「壊れた社会の中では売春がシステム化する」といった因果関係に言及したものではありません。
記事中で八木澤氏はこうも述べています。「国家ができて男が社会をまとめだすと、家や財産を守るためにシステムを作りたがる。国家や軍隊、階級を男が操る過程で、売春が職業として成立してしまう。それが娼婦を生み出す土壌となっている」。これに照らすと「壊れた社会の中では売春がシステム化する」というのは、八木澤氏の考えとかけ離れているのではありませんか。
「壊れた社会の中では売春がシステム化する」との見出しは不適切と考えてよいのでしょうか。問題ないとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。
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聞き手である東洋経済の前田佳子記者は「イスラム教徒が大半を占めるイラクでは、住宅地のビルの中で娼婦たちが隠れるように共同生活をしていました」と質問。これに対し「取材した当時は、サダム・フセイン政権が崩壊した2004年ごろだった。離婚したり夫に先立たれたり、訳ありの女性にとって生きるすべは売春になる。壊れた社会の中で、一つのシステムにさえなっている」と八木澤氏が答えている。ここから「壊れた社会の中では売春がシステム化する」と読み取ったのであれば、拡大解釈が過ぎる。
最大の責任は整理部の担当者にあるのだろうが、見出しに注文を付けなかったとすれば前田記者にも責任なしとしない。この記事に関して編集後記に当たる「編集部から」で高橋編集長は以下のように書いている。
【東洋経済の記事(編集部から)】
さて、ブックス&トレンズでは紛争地域における娼婦を描いた八木澤高明さんに迫りました。「壊れた社会の中では売春がシステム化する」。日本でも、おカネに困って性を売らざるをえない学生やシングルマザーがいます。この社会もそうとう、壊れかかっているのでしょう。
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本文を読まなかったのか、読んでも見出しに問題ありと気付けなかったのか。「壊れた社会の中では売春がシステム化する」という見出しを引用して高橋編集長は話を進めてしまっている。その雑誌の編集長でも簡単に誤解するのだ。いい加減に見出しを付けると読者に大きな誤解を与えてしまうことを記事の作り手は肝に銘じてほしい。
ついでに言うと「日本でも、おカネに困って性を売らざるをえない学生やシングルマザーがいます。この社会もそうとう、壊れかかっているのでしょう」という高橋編集長の見方はあまりに浅すぎる。例えば、オランダでは売春は合法であり、「システム化」されている。だが、オランダを「壊れた社会」と考える人は稀だろう。「おカネに困って性を売らざるをえない学生やシングルマザー」がいるからと言って、社会が「壊れかかっている」わけではない。そもそも売春で生計を立てざるを得ない女性がいることを根拠に社会を「壊れかかっている」と見なすのならば、いつの時代も社会は「壊れかかっている」はずだ。
※今回は見出しの問題なので、記事全体への評価は見送る。高橋由里編集長についてはF(根本的な欠陥あり)としている評価を維持する。この格付けについては「ミス黙殺に走った東洋経済の高橋由里編集長へ贈る言葉」を参照してほしい。
追記)結局、回答はなかった。
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