筑後川の河川敷(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
「脱デフレ」で復活したのならば、減益が続いていた14年2月期から15年2月期にかけては「値下げに頼る販売」になっていて、16年2月期から「脱デフレ」への変化が生じているはずだ。しかし、現実にはそうなっていない。記事では以下のように述べている。
【日経の記事】
「これまでは本部の都合の仕事になっていた」と野中社長は反省する。値下げに頼る販売から抜け出し、16年2月期の1品当たり単価は886円で3年前に比べると12%も上昇した。今期の売上高総利益率は32.4%を計画し、前期比0.9ポイントの上昇を目指す。
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これを見る限り、14年2月期から15年2月期にかけても単価上昇が続いていたと考えられる。しまむらの発表資料によると、しまむら業態の1品単価は11年2月期以降、右肩上がりだ。減益となった14年2月期と15年2月期はそれぞれ2.9%増と3.4%増。1品単価を基に「脱デフレ」の度合いを測るのならば、連続減益で「上場来初めての躓き」を味わっていた間も、しまむらは「値下げに頼る販売」から脱却を進めていたと言える(一品単価で見るのが適切かどうかは、ここでは論じない)。
田中編集委員の分析はかなり浅い。記事の中身をもう少し見てみよう。
【日経の記事】
同社の強さはきめ細かなマニュアルに支えられ、パートなど現場にいる女性従業員が働きやすい環境づくりに定評があった。当然、そこには本部主導の統制力ある仕組みがある。だが全国に1300店超、売上高6000億円近くになり、規模の拡大とともに出店場所、商圏も多様化。本部の目が行き届きにくく、その結果、現場の実情と乖離(かいり)が起き、いつしか制度疲労を起こしていた。
具体的にはこうだ。月次決算を迎える毎月20日の前後は売れ残り商品の値下げ対応や新しく入る商品の陳列で業務が煩雑となった。調べると1店舗当たり約100時間の負荷があった。値引きは利益を落とし、繁忙時には残業を伴う。いいことは何も無い。主婦のパートが多い店では定時帰宅が難しくなり不評だった。
この悪循環を断つために商品の仕入れを担当する本部のバイヤーの評価を月単位から四半期(3カ月)にし、一方で販売計画は月次から週次に変えた。現場の状況をバイヤーに正確に伝える人員も増やした。すると毎月20日前後の店舗作業が減り、本来売る力となる接客に時間を割けた。負荷は50時間まで下がり残業時間も減った。
新製品投入のタイミングが週次となってきめ細かくなると、これまでは臨時便を出して対応することもあった配送トラックの積載量も平準化された。
効果は業務の効率化にとどまらない。旬な衣料品が頻繁に並ぶことで売り場の魅力が増す。売り場の新味をより打ち出そうと陳列棚の高さを低くして売り場全体を見やすくした。現場の力の回復だ。
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まず、「値引きは利益を落とし、繁忙時には残業を伴う。いいことは何も無い」と言い切っているのに驚いた。小売業を長年取材している記者の書くこととは思えない。値引き販売には「いいこと」がある。在庫負担の軽減だ。売れ残った商品を廃棄するより、値引きしてでも売り切った方が利益も増える(あるいは赤字を減らせる)。
閉店時間が近づいてきたスーパーで総菜などに値引きのシールを貼っている光景を田中編集委員も見たことがあるはずだ。そんな時に「値引きは利益を落とし、繁忙時には残業を伴う。いいことは何も無い」と考えるのか。だとしたら、小売業について書くのはもう止めた方がいい。
「商品の仕入れを担当する本部のバイヤーの評価を月単位から四半期(3カ月)にし、一方で販売計画は月次から週次に変えた」ことと「値下げ依存の販売戦略」からの脱却がどう関連するかも、まともな説明がない。バイヤーを評価する期間が1カ月でも3カ月でも、値下げの必要性は変化しないはずだ。販売計画を「月次から週次に」変えたぐらいで値引きを減らせるなら、誰も苦労はしない。
結局、しまむらの「脱デフレ術」がどんなものなのか理解できなかった。「小売業の力の源泉となる現場に売っていこうとする意志が蘇(よみがえ)れば安易な値引きの誘惑に駆られることはなくなる」と田中編集委員は結論付けている。そんな精神論みたいな話ではなく、もう少し「なるほど」と思える精緻な分析が欲しかった。
※記事の評価はD(問題あり)。田中陽編集委員への評価もDを維持する。田中編集委員については「『中間層の消費』には触れずじまい? 日経 田中陽編集委員」「『行方はいかに』で締める日経 田中陽編集委員の安易さ」「日経 田中陽編集委員『お寒いガバナンス露呈』の寒い内容」も参照してほしい。
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