2016年7月16日土曜日

TPPは「グローバリズムの究極」? 日経ビジネスへの疑問

「意味を取り違えて使っているのではないか」と最近よく思う言葉がある。「グローバリズム」だ。改めて意味を調べてみると「汎地球主義ともいわれる。国家の枠をこえて『一つの世界』という視点に立とうという考え方で、具体的には地球環境保全や国際テロリズムへの共同対処でグローバリズムの傾向が強まりつつある。しかし一方で、ローカリズムやリージョナリズムの動きも強くみられる」(ブリタニカ国際大百科事典)と出てきた。
成田空港(千葉県成田市) ※写真と本文は無関係です

この説明に違和感はない。しかし、英国のEU離脱に関する記事では「反EU=反グローバリズム」と捉える見方がやたらと目立つ。例えば6月25日の日本経済新聞朝刊に載った「震える世界 英EU離脱(上) 『開国型』成長モデルに試練」という記事で、大林尚欧州総局長が以下のように書いている。 

【日経の記事】

グローバリズムかナショナリズムか。国論真っ二つの英国で有権者が選択したのは欧州連合(EU)からの独立、なかんずくナショナリズムだった。大陸欧州と英国を分かつドーバー海峡には、明確な一線が画される。

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グローバリズムに対する考え方として「リージョナリズム(地域主義)」がある。「地理的に近い複数の国家が、結び付きを強化していく過程、あるいはそのような考え方」(知恵蔵2015)であり、EUやASEANはその具体例と言える。

大林欧州総局長の言い方に倣うならば、EUを離脱するかしないかは「リージョナリズムかナショナリズムか」と言った方がしっくり来る。例えばスイスは欧州に位置しながらEUには加盟していない。しかし、反グローバリズムの国とは言い難い。

前置きが長くなったが、そんなことを思ったのは日経ビジネス7月18日号の「ニュースを突く~反グローバルの勢いを止められるか」という記事で、石黒千賀子編集委員が「グローバリズムの究極とも言える自由貿易協定のTPP(環太平洋経済連携協定)やTTIP(環大西洋貿易投資協定)」と書いていたからだ。

TPPは「国家の枠をこえて『一つの世界』という視点に立とうという考え方」が行き着く究極の形だろうか。個人的には「グローバリズムの究極」は世界統一政府だと思える。TPPに関しても「グローバリズム」が具体化したというより「地域主義」の1形態と捉えるべきだろう。

「地域主義を広げていけばグローバリズムになり得る」との主張はできる。しかし、いきなり「グローバリズムの究極とも言える自由貿易協定のTPP」と書いても説得力はない。

ついでに言うと、石黒編集委員が「反グローバル」という表現を用いているのが引っかかる。「グローバル」には「グローバリズム(汎地球主義)」という意味はない。見出しだけでなく本文でも「反グローバルの勢いは止められるのか」「反グローバルの勢いを食い止めることはできないのではないだろうか」といった使い方をしている。ここは「反グローバリズム」と表記すべきだろう。


※日経ビジネスの記事の評価はC(平均的)。石黒千賀子編集委員への評価も暫定でCとする。

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